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第66話 昨日の友は今日の敵

「あの……」

 宗一が手をあげて、ナハティアの昔話に割り込んだ。


「長々と話してもらって申し訳ないんだが、私はこの世界の人間ではないのでね。あまり興味がないんだ。それより……」

 宗一は伊織をしっかりと見据えた。


 伊織はうっすらと笑い、ナハティアに言った。

「我が王、彼と少し話しても?」

 ナハティアは、勝手にしろと手を振った。


 伊織は小さく頷くと、宗一に向かって頭を下げた。

「お久しぶりです、宗さん」

 宗一は、少し首を傾げるようにして言った。

「私にとっては一月かそこらだからな。それほど久しぶりという感覚はないんだ」


「私はあなたが京の町から消えてから1年後、こちらの世界に来て四年か五年か……」

「なるほど、不思議なこともあるものだな」

 変わっていない。京にいた時から何も変わらない、宗一の飄々とした態度が嬉しかった。


「ええ、そうですね」

「ところでその羽織はなんだ。黒地に白のダンダラじゃあ、まるっきり赤穂浪士じゃないか」


 伊織は、宗一が着ている浅葱色の羽織を顎で指して言った。

「宗さんがいなくなってからまもなく、皆その浅葱色は着なくなりましたよ。もともと芝居小屋の役者みたいだと、隊士からの評判は悪かったそうですから」

「そうか、私は好きだけどな」

 宗一は羽織の袖を伸ばし、自分の羽織を見ながら言った。


「時に伊織よ」

 空気が変わった。

「お前はここで何をしている?」


 伊織は質問の意図を察した。なぜお前が魔王の下、王都を襲撃したのか。そう問うているのだ。

「私がこの世界に来た時、こちらのナハティア様に助けていただきましてね。いわば一宿一飯の恩ですよ」

「ほう、それは奇遇だな。私もこの世界にきて一宿一飯の恩がある。そして」


 宗一の周りの空気が、さらに重くなった。

「私が恩を受けた人たちの国が、街が、襲撃されたんだよ。お前たちによって」

 ナハティアを指差した。

「そいつの差金なんだろう。そしてお前はそいつの手下として振る舞っている」


「昨日の友は今日の敵。そんなことは京の町に居れば日常茶飯事でしょう」

「聞けば、何やら納得がいかないと駄々をこねてるだけじゃないか。そんなことで私が大切にしているものを踏み躙られるのは捨ておけない」

「では、どうします?」


 ナハティアは危機感を覚えていた。

 伊織と話している瀬能宗一という男。話している間に、徐々に異様な空気をまとっていくのを感じる。

 戦いに対する集中力が高まっているのだろう。それに比例するように、その『異様な空気』も高まっていく。濃くなっていく。このままでは伊織はおろか、ナハティア自身さえこの男に勝てるイメージが沸かなくなる。


 なにかやつの集中を散らす方法はないものか。

 ふと、ファリダが視界に入った。魔族の血を引いていたことがよほどショックなのか、先ほどから呆然としている。

 こいつは使える。


 ナハティアが放った細く鋭い水のビームが、ファリダを貫いた。

 ファリダは倒れた。

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