第65話 昔話
ルドルフに案内され、宗一とファリダは玉座の間に入った。
玉座に、人影があった。
銀色の長い髪。青白い肌。灰色の瞳が、入ってきた二人をまっすぐ見ていた。
その横に、もう一人。
黒地に白のダンダラ模様の羽織。長い黒髪を後ろで束ねた男が立っていた。
宗一は躊躇なく絨毯の上を歩いた。ファリダがオドオドしながらその半歩後ろに続く。
玉座の前で、宗一は足を止めた。
しばらく、静寂があった。
「私はナハティア・シュティレンフェルト。魔族の王だ」
ナハティアは全く感情のこもっていない目で宗一を見据え、微動だにしない。
「私は瀬能宗一。雇われの用心棒だ」
壁際で、伊織が少し笑った。
「……シュティレンフェルト」
ファリダが、小さく繰り返した。声が、微かに揺れていた。
ナハティアの視線がファリダに移った。
「なんだ」
「私の高祖母と同じ姓……」
沈黙があった。
「ああ」
ナハティアは言った。
「そういえば百年ほど前に、人間との間に子をもうけたことがあったな。その子孫か」
ファリダは何も言えなかった。まさか自分が魔族の、しかも魔王の子孫だったとは……。
ナハティアはすでにファリダへの興味を失っていた。視線が、どこでもない場所に向いた。
「そうだ」
ナハティアは脚を組み替えて言った。
「せっかく来たんだ、少し昔の話をしてやろう」
誰に向けるでもなく、ナハティアは語り出した。
かつて、この世界が一つの国だった頃『終焉』と呼ばれた、手のつけられない魔獣がいた。この城ほどの体躯を持ち、全ての属性を扱う、文字通りバケモノだった。
当時の王は、『終焉』を倒した者にこの国を譲ることを約束し、討伐隊を募った。
10人ほど名乗り出た者があったが、選ばれたのは私と、人間が三人。勇者ヴォーティガン、大賢者ルキウス、大神官バルタザール。もっとも、勇者、大賢者、大神官などと呼ばれたのは『終焉』を倒した後のことだが。
戦いは熾烈を極めた。三日三晩戦い続け、とうとう『終焉』の魔力が尽きた。私たちもバルタザールが大量に用意した魔力回復薬をほとんど使い果たしてはいたが、ともあれ、なんとか『終焉』を倒すことができた。
王は約束どおり私たちに国を譲った。私たちはそれぞれが王となり、国を作った。
ところが、だ。私にあてがわれた土地は、国土の多くが湿地帯。しかもヴォーティガンの国土の半分にも満たない。確かに魔族は人間の10分の1程度の数しかいないから、土地が狭いことに私は特に不満はなかった。
不満はないんだが、ふと疑問に思った。
人間は弱く、寿命も短い。故に数が多い。いわばこの上なく非効率な生き物だ。
おかしいと思わないか?非効率な生き物が、弱い生き物が、数に任せて幅を利かす世界は。
だから私は、この非効率的な生き物を減らすべきではないかと考えたんだ。その話をルキウスにしたが、やつは何も言わなかった。そしてその後すぐに、フェルデシアと我々の国の国境に、魔族避けの結界が張られた。人間らしい、姑息なやり方だ。
「そして今日」
ナハティアは両手を広げて言った。
「何百年か振りに結界が消え去った」
「あの……」
宗一が手をあげて、ナハティアの昔話に割り込んだ。




