第62話 The World
「二人とも、一旦集合!」
ニーナの声に、カイルとお凛が引いてくる。ラズロは追わない。
ニーナは二人に向かって、手短に話した。カイルは途中で一度だけ眉を動かした。お凛は無表情のまま、最後まで聞いた。
「以上。わかった?」
カイルとお凛が頷いた。
「行きます」
お凛が踵を返した。カイルが続いた。
ニーナは二人の背中を見送り、それからラズロを見た。
再開した戦いは、前半と変わらなかった。
カイルが踏み込む。ラズロがいなす。お凛が背後を取る。ラズロが払う。二人が吹き飛ぶ。
ラズロはほとんど動いていない。最初に立っていた場所から、一歩も動いていなかった。
カイルがまた踏み込む。同じ角度、同じ踏み込み。ラズロは同じように左腕を上げた。
「……」
ラズロは飽きていた。
お凛の合口がまた背後を狙う。ラズロは振り返りもせず、手首を掴んで投げた。石床に転がったお凛がすぐに立ち上がる。
また踏み込んでくる。
また。
また。
ラズロの目が、わずかに細くなった。
「いいかげんにしろ」
カイルを弾き飛ばし、お凛を壁際まで蹴り飛ばす。二人が床に転がった。
「まだやるか」
立ち上がろうとするカイルを、ラズロはただ見ていた。
その時、ニーナの声が広間に響いた。
「OK、二人とも。いくわよ」
カイルが動いた。今度は正面ではなく、大きく回り込んでラズロの背後へ。
ラズロはニーナとお凛の方を向いたまま、背後のカイルの動きを気配で追った。
カイルが踏み込む。渾身の一撃。
ラズロは振り返らなかった。左腕だけを後ろに伸ばし、無造作に弾く。
剣を弾かれたカイルの体が、大きく開く。ラズロはそこへ踏み込んだ。カイルの胸倉を掴み、石床に叩きつけた。
「もういい」
低く、静かな声だった。
ニーナが言った。
「あんたは次に『これで終わりだ』と言う」
ラズロはカイルに剣先を突きつける。
「これで終わりだ……何?」
ニーナは右手を前に出し、ニヤリと笑う。
広間の時間が、止まった。
ラズロの体が止まる。カイルが止まる。お凛が止まる。ラズロの外套の裾が翻ったまま、止まる。
ニーナの右手に、広間内すべての時粒子が集まっていた。目には見えない。ただ、そこだけ世界の密度が違うような感覚があった。
ニーナは、すぐ目の前で待機していたお凛に、右手の時粒子を全て纏わせた。
止まった世界の中を、お凛は走った。ラズロの元へ一気に飛び込む。合口を逆手に持ち替え、振り抜く。
刃はまだラズロに届いていない。
ニーナの魔力量では、ここまでが限界だ。が、十分間に合う。
「時は動き出す」
外套の裾が落ちた。
ラズロが振り返ろうとした。
遅かった。
静寂。
ニーナは膝から崩れ落ちた。石床に手をついて、息を吐いた。
「……やった」
声が、少し震えていた。




