表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
56/69

第56話 爆炎

 国境を越えた瞬間、空気が変わった。

 色が、くすんでいる。木々の緑が濃すぎて、どこか不自然だった。鳥の声がない。風もない。ただ、重い静けさだけがある。


「ここから魔王領よ」

 ファリダが言った。声を抑えていた。

 宗一は特に表情を変えず、雪駄をペタペタと鳴らしながら歩いている。


 しばらく歩いたところで、ファリダが足を止めた。

「来る」

 茂みの奥から、魔獣が現れた。四足の獣が三頭。狼の体躯に、山羊の頭。横長の瞳孔が、黄色く光っている。牛ほどの大きさがあるそれが、低く唸りながらじりじりと間合いを詰めてくる。

「キモっ!」

 ファリダが思わず口走った。


 直後、不気味な三体のキメラの後ろから、ゆっくりと人影が出てきた。

 がっしりとした体格。肌は深い紫色で、額に二本の角が生えている。装いは質素だったが、立ち居振る舞いに妙な重みがあった。


 人影は二人を見て、口の端を上げた。

「人間が、魔王領に」

 低い声だった。驚いてはいない。むしろ、面白がっているような声だった。

「珍しい。ずいぶんと度胸があるじゃないか」

 男は腕を組んだまま、二人をゆっくりと眺めた。

「魔術師と、それから——」

「待って」

 ファリダが割り込んだ。

「数ヶ月前、人間が四人、この辺りを通らなかった?」

 魔族は少し間を置き、興味なさげに言った。

「さあ。いちいち覚えていない」

「そう。じゃあ用はないわ」

 ファリダは冷たく言い捨て、両腕を広げた。


 ファリダは右手を前方に向けた。特定の範囲の空気を、一瞬で引き抜く。超低気圧が生まれた瞬間、周囲の空気が猛烈な勢いで流れ込もうとする。その気圧差が、不可視の刃を生む。

 引き抜いた空気を、左手で圧縮する。圧縮された空気は熱を持つ。それを超低気圧へ向かって叩き込んだ。


 轟音。


 爆発というより、空間そのものが燃えた。超低気圧に流れ込もうとしていた空気が一気に引火し、渦を巻きながら膨張する。前方の木々が根ごと吹き飛んだ。地面が抉れ、土煙が空まで上がった。


 静かになった。

 煙が晴れた先に、何も残っていなかった。魔獣も、魔族も、そこにあったはずの茂みごと消えていた。

 ファリダは息を吐いた。


 振り返ると、宗一が少し後ろで腕を組んで立っていた。

「すごいな」

「全然大したことないわ。だってまだ二属性だもの。こんなことで感心してもらっては困るわ」

 宗一は悟った。これは『ファリダ語』で『褒められて嬉しい』と言っているのだと。


「あれが合成属性というものか。いやあ、驚いた」

 ーーデュフフ

 ファリダから、気持ちわるい笑いが漏れた。


「さ、さあ、行こうか」

 宗一が促し、二人は歩き出す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ