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第55話 ファリダ語

 翌朝、二人は兵舎を出て、街道をさらに西へ向かった。


「瀬能宗一、あなたねえ」

 ファリダは、歩きながら言った。

「私はSランクの冒険者よ。ギルドが定めた最高位」

 宗一は相変わらず前を向いている。


「火、水、風。私は三属性の使い手よ。この意味、わかる?」

「そりゃあ、わかるさ。三つということだ」

「……わかってないわね」

 ファリダは一息置いた。

「二属性の合成は、一流の魔術師が一生をかけてようやく片鱗を掴むほどの難易度なの。それを私は三属性使い分けられる。火と水、火と風、水と風。さらに三属性を同時に——」


「わかってる」

「え?」

「お前がとんでもない力を持っていることはわかる」

「そ、そう?」

「ああ、私は魔力とやらはよくわからないし、感じることもできない。しかしお前は強い奴が纏う、独特の気配みたいなものがある」


 惚けたようでいて、相手の力量をしっかり測っている宗一に、ファリダは少し怖さを感じた。しかしそういうタイプは嫌いではない。ましてや、これから一緒に魔王領に踏み込む仲間であれば、むしろ心強い。

「ファリダよ」

「ん?」

「私の名前はファリダ。ファリダ・アルナジュム。私の実力を見抜いたあなたは、特別に『ファル』と呼ばせてあげる」


 宗一は、昨日からのやり取りで『ファリダ語』がなんとなくわかるようになった。

『呼ばせてあげる』は、つまり『呼んで欲しい』ということなのだろう。

「じゃあ、あらためてよろしく、ファル」


 二人はしばらく無言のまま歩いた。

「じつはね、瀬能宗一……」

「なんだ?」

「私も、魔王領に一緒に行ってくれる人を探していたの」

 宗一は返事をせず、目で先を促した。


「兄が、数ヶ月前に魔王領に入った。パーティを組んで、魔王討伐を目指して」

 少し誇らしげだった。兄の自慢話をする、妹の顔だった。

「兄はね、Sランクの支援術士なの。他のメンバーも皆Sランク冒険者。出発時は王都でも期待されていたんだけど……」

 言葉の速度が、少しずつ落ちていった。ファリダは少し目線を落として、続けた。

「それ以来、まったく音沙汰がなくて。」


 宗一は、表情ひとつ変えず、ファリダの話を聞いていた。

「だから探しに行こうと」

「ええ。さすがに一人では無謀なのはわかってる。だから王都でパーティメンバーを募ったんだけど、全然で。」

 ファリダは小さく笑った。笑い方が、少し自嘲めいていた。

「それで国境にいれば、魔王討伐を目指す冒険者が現れるかもしれないと思って、ギルドの国境防衛支援依頼に応募して」


 少し間をおいて、宗一が言った。

「目指す場所は同じだ。お前の兄さんが無事なら、道中会うこともあるだろう」

 魔王領に入って、数ヶ月音沙汰なし。それが何を意味するか、ファリダはわかっていた。

「……そうね」

 二人は、西へ歩き続けた。

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