第54話 魔術師ファリダ
国境の兵舎の前に、ファリダは立っていた。
今朝早く、近衛騎士団長カイルから早馬で先触れがあった。曰く、昼ごろに瀬能宗一という男が訪ねてくるから力を貸してやって欲しいと。
そして今、腕を組んで、防壁に背を預け、瀬能宗一を待っている。
長い黒髪。浅黒い肌。美しい顔立ち。目を引く容貌のファリダをチラチラと見ている門兵に腹がたつ。
そして何より、昼をとうに過ぎ日が傾きかける時間だというのに、まだ姿を見せない瀬能宗一に腑が煮えくりかえる思いだ。
今日は来ないのではないかと思い始めた時、蹄の音が聞こえた。
ファリダは馬から降りた男をみた。無精髭。だらしなく羽織った浅葱色の上着。腰に、変な形の剣。
「あなたが、瀬能宗一?」
キレそうになるのを必死に抑えて、念の為の本人確認をする。
「そうだが、何か用か?」
キレた。
「何か用か、じゃないわよ!遅いのよ!昼には着くって聞いてたのに!何?カイルの見積もりが間違ってたの?それともあなたが悪いの?」
「いやあ、昼につく予定だったんだが、道に迷ってしまって」
宗一はバツが悪そうに笑った。そして思い出したようにファリダを向いた。
「ああ、そういえばギルドから派遣された魔術師がどうのって。お前か」
「そうよ!だから昼前からずーーーっとここで待ってたのよ!なのにあなたときたら……」
(しまった!怒りに任せてつい怒鳴ってしまった。この人は、なれない土地で道に迷っただけじゃない)
「……まあいいわ」
ファリダは背筋をのばし、宗一に向き直った。
「さあ瀬能宗一、私が力を貸すに値するかどうか試験よ。あなたの実力を見せてみなさい」
「いやー、別にいいかな」
「え……?」
(断るの?っていうか、この場面で断る選択肢ってある?)
宗一は淡々と続けた。
「元々魔王領には、私一人で行くつもりだったんだ。カイルさんの厚意を無碍にするのも悪いからと思っていたが、試験不合格ということであればちょうどいい」
(急に試験だとか言われて、不貞腐れたのかしら。それはそうよね、試すようなことをされたら、誰だって気分が悪くなるもの)
「べ、別に……そこら辺の魔獣を一体仕留めるだけでいいのよ。この辺りは兵士が見回ってるから、そんなに強い魔獣はいないし……」
「いや、大丈夫。一人で行くから」
(やばい!完全にヘソを曲げちゃったんだわ!元々同行するつもりだったし、ここはもう試験とか言ってられない!)
「し、しょうがないわね!カイルが認めた男なら、試験は無しにしてあげる。特別に同行してあげてもいいわ」
宗一は、先ほどから頭を抱えたり肩を落としたりと、一人でバタバタしているファリダを見て、少し申し訳ない気持ちになった。
「あの……なんか、ごめん……」
まもなく日が落ちる。




