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第53話 簡単な話の続きは、簡単ではない

 結界消滅まで、あと二日。

「こっちから乗り込んでぶっ飛ばす」と宗一が言ってから、しばらく誰も口を開かなかった。


 最初に口を開いたのはハンスだった。

「確かに……昨日の広間でのことを見る限り、瀬能殿であれば無謀とも言い切れん」

 テオが机上の資料に目を落としたまま言った。

「だとしても、さすがに……」

 一人では無理だと言いかけ、口を噤んだ。


 昨日の宗一の活躍は、テオも目の当たりにしている。しかし魔王領ともなれば、同等の強さの魔族が多数いる可能性もある。

 ではどうする?

 近衛騎士団は襲撃に備え、王都に残すべきだろう。冒険者ギルドにSランク冒険者を集めてもらうか?それでもせいぜい数人。近衛騎士団が束になってようやく一体倒せるような者を相手に、どれだけやれるか。

 自身の考えが整理できないまま、ハンスの意見を否定したところで何も進まない。


「我々が同行したい気持ちは山々だが、この状況で王都を空けるわけにはいかない」

 カイルが、テオの気持ちを察したかのように口を挟んだ。


「私たち三人だったらなんとかなるんじゃない? ね、お凛さん」

「ダメだ」

 ニーナの言葉に被せるように、宗一が言った。


「ニーナ、それからお凛も。お前たちは留守番だ」

 普段の宗一とは違う、強い口調だった。

 それでもニーナは、駄々をこねるように食い下がる。

「なんでよ! リガルドからずっと一緒だったじゃない! ガルディスからずっと三人だったじゃない!」

 お凛がニーナの肩にそっと手をおいた。振り向いたニーナに対し、お凛は黙って首を横に振る。

「お凛さん……」

 お凛の目が、まっすぐニーナを見ていた。

 行きたい。それは疑いようがなかった。それでも行かない。その目はそう言っていた。


 ニーナは喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。

「……わかった」

 部屋が、静かになった。


「ということで、だ」

 宗一が言った。

「どう捏ねくり回しても、他に良い案も出ないだろう。なあ、陛下」

 テオは少し間を置いた。まだ慣れない言葉だった。それでも、力強くまっすぐな声だった。

「瀬能殿……この国のために、民のために、力を貸してほしい」

 深々と頭を下げたテオに対し、宗一が言った。

「王がそう易々と頭を下げるもんじゃない。そうだろう、カイルさん」


 カイルは薄く目を閉じ、フッと笑った。

「まあ、陛下は即位されたばかりだ。それに今回は状況が状況だ」

 カイルは立ち上がって、テオと同様に深々と頭を下げた。

「瀬能殿、何卒」

 ハンスもそれに倣った。

 宗一は白けたように頭を掻いて言った。

「では早い方がいいだろう。昼にでも立つよ」


 宗一が立ち上がった。カイルも釣られるように立ち、机の上の地図を一枚引き寄せた。

「ここから西に1日、国境防衛の兵舎がある」

 地図上で、王都の位置から左へスッと指を滑らせた。

「そこにファリダという魔術師が、ギルドから派遣されている。瀬能殿に協力してくれるよう、先触れを出しておく」


 宗一は地図をちらりと見た。

「まあ、行ってみるよ」


 部屋を出るところで、宗一は振り返った。ニーナとお凛に目をやった。

「もし王都に魔族の襲撃があれば」

 少し間があった。

「二人とも、生き残れ。何としても」

 お凛が、深く頭を下げた。

 ニーナは窓の外に目を逸らしたまま、小さく頷いた。

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