第47話 対面
砕けた石柱。消えた燭台。石畳の上に倒れた兵士。ボロボロの騎士たち。へたり込んだ少女。天井まで届く翼を広げたまま立つ灰青色の影。
広間を見渡し、宗一は言った。
「おー、いたいた。みんなここだったか」
ニーナの目が、大きく開いた。
「いたいた、じゃないわよ! 今まで何してたのよ!」
「いやー、道に迷っちゃって。それより……」
宗一がガストを指さした。カイルに目で聞く。
カイルが短く答えた。
「魔族だ」
「魔族……?」
宗一は少しの間、ガストを眺めた。
「へえ、この世界にはいろんなのがいるんだな」
ガストは宗一を見た。
草臥れた羽織に、底の薄い履き物。風変わりな剣を腰に差している。
「……変わった人間だ。魔族を見るのは初めてか」
翼が広がった。
灰青色の翼膜が燭台の光を遮り、広間の半分が影に沈む。赤い紋様が全身を走り、脈を打つたびに光が増した。翼の先端が石柱を掠め、石片が床に落ちた。
空気が、重くなった。
「せっかくだ。相手をしてやろう」
そう言うと、ガストは宗一に向かって踏み込んだ。
剣を抜くまでもない。翼で薙ぎ払えば十分だ。
――シュピン
広間に、音が一つ。
ガストの体が、前のめりに傾いた。膝をつく。翼が力を失ったように垂れた。赤い紋様が、ゆっくりと薄れていく。
石畳に、静かに倒れた。
あの翼が。あの紋様が。対峙するに絶望すら感じたあの魔族が。
カイルが宗一を見た。レオンが見た。ガストンが、ハンスが。広間にいる全員の視線が、だらしない羽織の男の背中に集まった。が、誰も何も言葉が出なかった。
宗一が周囲を見渡した。
「よし、これで終わりか?」
「……これで全部です」
お凛が静かに答えた。
「王弟と王子は? 偽物だったんだろう?」
ハンスが一歩前へ出た。
「二体の魔族が倒れるとともに、消滅しました」
宗一は軽く頷いた。
壇の上から、声が降りてきた。
「見事だ」
低く、静かな声だった。
騎士たちが動いた。カイルを先頭に、レオン、ハンス、ガストン、ユーリ、ディート。ボロボロのまま、片膝をついて首を垂れる。廷臣たちが続いた。ヴァレリウス公爵が、ゴルドー公爵が、それぞれ膝をついた。広間にいる者が、一人残らず頭を垂れた。
壇上を一瞥して、宗一も片膝をついた。
カイルが顔を上げた。
「陛下。申し上げたいことがございます」
「申してみよ」
「王弟殿下、並びに王子殿下がすでにこの世におられないことは、先ほど明らかになりました。しかし、王位継承の血脈は途絶えておりません」
カイルは半歩、横へ身を引いた。
テオが一歩進み出て、再び片膝をついた。場慣れした貴族の立ち居振る舞いとは違う。それでも、威厳が感じられた。
「フィリップ陛下の御血を引く御子、テオ様です」
広間が静まり返った。廷臣たちが互いに視線を交わす。ヴァレリウスとゴルドーの顔が強張った。
王は何も言わなかった。
ただ、テオを見ていた。
長い沈黙の後。
「テオか」
「……はい」
「面を上げよ」
テオがゆっくりと顔を上げた。
王の目が、その顔の上で静かに止まった。




