第40話 南へ
隠れ家の狭い卓に、地図が広げられていた。
ランプの火が爆ぜ、四人の影を壁に長く落とす。
「ニーナとお凛は留守番だ。マルテにはカイルさんと私の二人で行く」
ニーナが身を乗り出した。
「えー、なんでよ。私も行くわよ」
「マルテまで馬をとばして往復十日だ。お前、馬に乗れるか」
「…………」
「まあ、そういうことだ」
ニーナは口を一文字に結んで、小さく息を吐いた。
「わかったわよ。なんか変なことが起きたら、すぐ戻ってきなさいよね」
宗一は返事をせず、視線をカイルへ転じた。
「近衛の他の騎士たち、信用できるか」
「命を預けられる」
「なら頼みたいことがある。もし十日で戻れなかった場合、ニーナと一緒に王宮へ踏み込むよう、騎士たちに伝えておいてくれ。後継者の名が読み上げられる前に」
「わかった」
一瞬、間があった。王宮に刃を向けることを、騎士として飲み込む時間だった。
「やっておこう」
宗一は部屋の隅へ視線を向けた。
「お凛、頼むぞ」
「畏まりました」
夜の近衛騎士詰め所。 残っていたレオンとハンスに、カイルは声を潜めて全てを話した。
二人は最後まで黙って聞いた。
「……偽物が、今も王宮にいるんですか」
最初に口を開いたのはレオンだった。声は静かだったが、どこか刃のような鋭さがあった。
「ああ」
「引きずり出しましょう。十日後と言わず今夜にでも」
「テオ様がいなければ、ただの反乱だ」
レオンが押し黙る。それでも膝の上の拳は、白くなっていた。
ハンスは何も言わなかった。ただ、目を閉じた。
しばらくして、静かに口を開く。
「……お二人は、いつ頃から」
「数年前、だろうな」
また沈黙が落ちた。ハンスはそれ以上聞かなかった。
「私が不在の間、ニーナ殿とお凛殿を頼む。十日後に間に合わなければ、騎士団は二人と一緒に動け」
二人が同時に頷いた。
翌朝、日の出前。
2頭の蹄の音が石畳を叩く。
「行くか」
「ああ」
南へと続く街道が、霞の向こうに伸びている。
二騎が速度を上げた。




