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第26話 要塞都市ガルディス

 王都の玄関口、要塞都市ガルディス。

 高くそびえる堅牢な石壁をくぐり抜けると、そこにはリガルドとは比べ物にならないほど活気のある大通りが広がっていた。


「本当に、何から何までありがとうございました」

 大通りの一角で、恰幅の良い商人・ベルナールが深く頭を下げた。山賊の巣窟から救い出して以来、彼の馬車に乗せてもらっていたのだ。

「命ばかりか、荷物まで守っていただいて……この御恩は一生忘れません。ルーアン地区に私の『ベルナール商会』という店がありますので、この街で何かお困りのことがあれば、いつでも頼ってください!」


「こちらこそ馬車に乗せてもらって助かりました。じゃあ、お気をつけて!」

 人の良さそうな笑顔で見送るニーナの隣で、宗一も軽く手を挙げてベルナールと別れた。


「さーて! まずはギルドに行って、とっととお金を引き出さないとね!」

 ニーナの足取りは羽のように軽い。早速ギルドの支部に駆け込み、当面の路銀を下ろしてとりあえずの宿に荷物を置いた二人は、夕食を求めて賑わうメインストリートへと繰り出した。


「ふふふ。宗さん、今日は私が奢ってあげるから何でも言いなさい! 分厚いステーキ? それとも豪勢な魚料理?」

 ニーナの目は完全に「高級料理」と「肉」を求めていた。これまでの貧乏旅の反動が爆発している。


 宗一は浅葱色の羽織の袖に手を入れたまま、いつも通り飄々と歩いていたが——ふと、路地裏の入り口でピタッと足を止めた。


 薄暗い路地の奥。赤提灯の明かり。出汁の香り。見覚えのある文字が書かれた小さな暖簾が揺れている。異世界の住人には読めない、元の世界の文字。『饂飩』。

 宗一の目が、わずかに細められた。

「ニーナ。うどんだ」

「……はい?」

「うどんだよ」

 ニーナはぽかんと口を開けた。

「ちょっと待って、その『ウドン』って何!? お金たくさんあるのになんでこんな路地裏の怪しい屋台に入ろうとするのよ!?」


 「まあまあ」とだけ言い、宗一はニーナの背中をぽんと押して路地裏へ歩き始めた。ニーナはなぜか足がついていっていた。


 小さな暖簾をくぐる。

「いらっしゃいませ……」

 カウンターの奥から、静かだが張りのある声が響いた。

 手ぬぐいを被り、割烹着姿の女将が顔を上げる。


 次の瞬間、女将の動きが、完全にフリーズした。

「…………!?」

「…………お凛」

「せ、瀬能様!? ど、どうして……どうしてこの世界に……!?」

 お凛の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。本人が最も驚いていた。

 もう二度と会えないと思っていた宗一との、次元を超えた奇跡の再会。


「……お凛よ」

「は、はいっ!」

 お凛は涙を拭い、スッと片膝をついた。

「まずは、うどんだ」

「……承知いたしました」

 お凛はすっと立ち上がり、迷いなく厨房へ向かった。


 隣に無理やり座らされたニーナが、たまらず身を乗り出した。

「ちょっと待って! え? 何? 二人とも知り合いなの!?」


 宗一は真っ直ぐ前を見つめたまま言った。

「ニーナよ」

「は、はい?」

「まずは、うどんだ」

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