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第2話 最悪な日の、最悪な出会い

 草は背が高く、風が吹くたびに波のように揺れた。

 瀬能宗一はその中をただ歩いた。どこへ向かうでもなく、人の気配がある方へ。


 相変わらず空が青すぎる。雲が白すぎる。光が強すぎる。何もかもが一段階ずつ、見慣れた世界とずれていた。

 京ではない。日本でもない。

 宗一はそれだけを確認して、歩き続けた。嘆いても腹は膨れない。


 街が見えてきたのは、草原を抜けてしばらく経った頃だった。

 石造りの壁に、木の看板。煙突から白い煙が上がっている。城下町とも宿場町とも違う作りだったが、人が暮らしていることはわかった。


 近づくにつれ、声が聞こえてきた。売り声、笑い声、荷車の音。宗一は街の入り口で一度立ち止まり、人の流れを眺めた。


 宗一は羽織の衿を直して、人の流れに混ざった。驚いている暇はなかった。まず飯だった。飯を食うには金がいる。金はなかった。つまり、当面どうにもならなかった。


 考えながら歩いていると、路地の角で子供が泣いていた。

 五つか六つか。膝を抱えて、声も出さずに泣いている。通り過ぎる大人たちは誰も立ち止まらない。宗一は足を止めた。少し考えて、しゃがんだ。

「迷子か」

 子供が顔を上げた。見知らぬ男の顔を見て、一瞬だけ泣き止んだ。


「こらっ」

 怒声が飛んできた。露店の主らしき大柄な男が二人、こちらへ向かってくる。形相が悪かった。

「その子から離れろ、人さらい!」

「違う」

「うるさい、衛兵を呼べ!」


 説明が通じる空気ではなかった。宗一は立ち上がり、来た道を戻り始めた。

「待てと言ってるだろう!」

 走ることにした。


 路地を曲がり、人混みを縫い、石畳を蹴る。追ってくる足音は思ったより速かった。角を曲がった先が行き止まりだった。石壁。左右も建物が塞いでいる。

 振り返ると、足音が近づいてくる。

 宗一は壁を一瞥して、舌打ちをした。




 ニーナがギルド前の階段に座り込んだのは、三十分ほど前のことだった。

 パーティリーダーのゼクスに呼ばれ、部屋に入ったら他のメンバーも全員いた。その時点で、ニーナにはだいたい察しがついた。


「お前、戦力外だ。悪いけど出ていってくれ」

 ゼクスは言いにくそうな顔もしなかった。元から仲が良かったわけでもない。ただ人手が足りなかっただけで、実力が伴わないなら用はない、という話だった。


 ニーナは「わかった」と言って荷物をまとめた。パーティの魔術師ルルが小声で何か言って、誰かが笑った。聞こえないふりをした。


 ギルドの中を横切る時、エレナが受付カウンター越しに目を合わせてきた。何か言いたそうな顔だったが、ニーナは小さく首を振って外に出た。同情は要らなかった。


 階段に座ったのは、足が動かなくなったからだ。

 悔しい、とか、悲しい、とかではなかった。頭の中がうるさかった。父が遺した借金の残高。毎月の返済額。今月の収入の見込み。Fランクのソロ冒険者が稼げる額と、必要な額の差。計算するたびに答えが出て、その答えがひどかった。


 空が青すぎて、腹が立った。

 こんな日に限って天気がいい。


 そこへ、路地の角から男が飛び出してきた。

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