第13話 Dランク昇格
「はい、エレナさん。これ『西の街道の安全確認』の完了サインね。それと、道中で襲ってきたキラーマンティスの討伐証明」
ギルドの受付カウンター。 ニーナが依頼書と一つの討伐部位をドンと置くと、エレナは目元を少し細めてそれを受け取った。
「お疲れ様。……って、キラーマンティス? これDランク魔獣じゃない。最近、本当に浅い階層にこのランクの魔獣が増えてるのね」
「そうなのよ! でも、あの黄金のお節介ヒーローのせいでパーになった銀貨を取り戻さなきゃいけないからね! 」
フンス、と鼻息を荒くするニーナの後ろで、宗一が大きなあくびをした。その様子を視界の端で、ニーナは捉えた。
「ちょっと宗さん!覇気がないのよ、覇気が。借金はまだまだ残ってるんだからね!」
「うーん、私の借金ではないしなあ」
「そういう問題じゃないの!誰のとか言ってたら、いつまで経っても返済できないよ!」
いつもの二人のやり取りに苦笑しながら、エレナは手元の資料に完了の印を押す。 そして、その完了証をニーナの個別ファイルに綴じようとした時、ふと彼女の手が止まった。
エレナは少し怪訝な顔をして、バインダーのページをパラパラと遡り始めた。
「……ニーナ、ちょっと待って」
「えっ、なに? 書類に不備でもあった?」
「違うわ。ええと……あなた、Eランクに上がったのって、1週間ぐらい前かしら?」
「うん。そうだけど」
「Eランク昇格後……薬草採取、ゴブリン集落跡の調査、その他いくつかEランク依頼と……そして今日の街道確認。それとDランク魔獣討伐が1、2、3、4……」
エレナはパチパチと瞬きをして、信じられないものを見るようにニーナの顔を見た。
「ニーナ。これ、Dランク昇格の条件を満たしてるわ」
「……えっ?」
「Eランク昇格後に獲得したポイントを合計すると十分Dランクに昇格できるわ。私、これからギルド長にあなたの『Dランク昇格申請』を出してくる」
「ほ、ほんとに!?」
「ええ。きっとすぐに承認が下りるはずよ」
ニーナは三秒ほど固まり、それからギルド中に響き渡る声で跳び上がった。
「やったぁぁぁぁっ!!」
周囲の冒険者たちが何事かと振り返るのも構わず、ニーナは宗一の羽織の袖をブンブンと振り回した。
「聞いた宗さん!? Dランクへの昇格申請よ! これが通れば、銀貨がっぽりの美味しいクエストが受け放題になるわ!」
「大出世だな。これで私の『三食昼寝付きの生活』も安泰というわけだ」
宗一はパン、パン、と気の抜けた手拍子を打ちながら、可笑しそうに目を細めた。ニーナは得意満面でふんぞり返った。
――しかし、その無邪気な歓喜の声を、少し離れたテーブルからギリギリと歯ぎしりしながら聞いている者がいた。
「鉄の牙」のゼクスとルルだった。
「……ふざけやがって。足手まといだと追い出した小娘が、俺たちと同じDランクだと……?」
聞き耳を立てていたゼクスは、手にしていた木製のジョッキがミシミシと鳴るほど強く握りしめていた。 顔は屈辱と嫉妬でどす黒く染まっている。彼のちっぽけなプライドは、その事実だけで十分にズタズタに引き裂かれていた。
「ゼクス……どうするのよ」
「決まってんだろ。Dランクの世界ってのがどれだけ厳しいか、あのガキにたっぷり教えてやるんだよ」
ゼクスの濁った瞳には、真っ黒な逆恨みの炎が燃えていた。




