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第12話 生態系の玉突き事故

 ギルドの二階、ギルド長室は、重苦しい沈黙に包まれていた。

 執務机の上に広げられた東の森の広域地図。その上に置かれたいくつかの駒を前に、報告を終えたアルカードは硬い表情で立っていた。街のヒーローとしての明るさは、どこにもなかった。


「……間違いないのだな、アルカード」

 バルガスが低くしゃがれた声で確認する。


「獅子団の誇りにかけて。我々は確かに目撃しました」

 アルカードが地図の一点を指差す。街から歩いて半日、日帰りすら可能な浅い階層だった。バルガスの顔から、スッと血の気が引いた。


「生態系の玉突き事故だ」

 バルガスはそれだけ言った。


 アルカードは黙った。言葉の意味は、すぐにわかった。Aランクの魔獣が縄張りを捨てて逃げる。その煽りでBランクが浅い階層へ押し出される。BランクにCランクが、CランクにDランクが——玉突きのように、全てが街へ向かって押し寄せてくる。では、Aランクを追い出したものは——


「森の最奥に、Sランクの厄災がスポーンしたと考えるのが自然だ」

 バルガスは自身のごつい拳を机の上で強く握りしめた。ギリッ、と骨が鳴る音が室内に響く。


「口外無用だ。もし今『街のすぐそばにSランクの厄災がいる』などと噂が流れれば、冒険者たちは我先にと逃げ出し、パニックで街は一瞬にして崩壊する」

「……承知しています」


「わしはこのあと領主のもとへ向かう。表向きは『魔獣の活性化に伴う防衛訓練』という名目で、水面下で街の守りを固めさせる。……アルカード、獅子団の戦力はどうなっている」


「現在街にいるAランクは、私を含めて四名。他の任務に出ている者も至急呼び戻させます。それに、獅子団以外のBランク、Cランクパーティも合わせれば、相当な戦力になります」

 アルカードは強く拳を握りしめた。


「高位の魔獣は、己の力だけで頂点に立つがゆえに単独で動きます。相手がSランクの厄災であろうと、一個体です。Aランクが連携し、Bランク以下が波状攻撃を仕掛ければ——数の力で必ず太刀打ちできるはずです。街は、我々が守り抜いてみせます」

 バルガスは目を伏せた。

 力強い言葉だった。論理も通っている。この世界の常識に照らせば、極めて真っ当な戦術だ。


 それでも、バルガスには言えなかった。

 自分が現役だった頃、同じことを言った仲間が何人いたか。


「……頼むぞ、アルカード。まずは防衛ラインの構築にあたれ。わしは領主を説得してくる」


「はっ!」

 アルカードは深く一礼し、マントを翻して足早に部屋を出た。

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