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閉鎖された巨大集落にある刑務所で  作者: こうた


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第22話「外から来た手紙」



朝になっても、ゆうさくは木札を握っていた。


眠れなかった。


何度も裏返した。


表には、


第八番 田中誠


裏には、


七人目を運んだ者も、外へは出ない。


誰が書いたのか。


いつ書かれたのか。


それすら分からない。


ただ一つだけ分かる。


御堂の言葉と、黒田の経験。


そして、この木札。


全部が同じ場所を指している。


――七人を運んでも、外には出られない。


「……じゃあ、俺は何のために」


ゆうさくは呟いた。


そのとき。


刑務所の扉が開いた。


御堂だった。


「ゆうさく」


「……何ですか」


「今日は田中を運べ」


ゆうさくは立ち上がらなかった。


「嫌です」


御堂の動きが止まった。


「何?」


「もう運びません」


「なぜだ」


「七人運んでも、外に出られないんでしょう?」


沈黙。


御堂は答えなかった。


その沈黙が、


何より雄弁だった。


「やっぱり……嘘だったんですね」


「誰から聞いた?」


「黒田さんから」


御堂の仮面が少しだけ傾いた。


「黒田か」


「俺を騙したんですか?」


「騙してはいない」


「じゃあ外へ出してくれるんですか?」


「仕事をすればな」


また同じ言葉。


ゆうさくは笑った。


「それ、答えになってないですよ」


御堂は静かに言った。


「お前は外へ出たい」


「……」


「家族に会いたい」


ゆうさくの顔が強張る。


「どうして……」


「昨日、新聞を読んだだろう」


心臓が跳ねた。


「見てたんですか?」


「この村で、知らないことは少ない」


御堂は一枚の封筒を取り出した。


白い封筒。


表には、


ゆうさくの名前。


手が震えた。


「……これ」


「外から届いた」


「誰から?」


「読めば分かる」


ゆうさくは封筒を受け取った。


差出人。


そこに書かれていた名前を見た瞬間、


呼吸が止まった。


妹。


封を開ける。


紙は一枚だった。


短い文章。


そこには、


自分を責める言葉も。


恨みも。


怒りも。


全部が混ざっていた。


――お兄ちゃんへ。


――これを読めているなら、生きているんだと思います。


ゆうさくの目が滲む。


――私たちは、まだ生きています。


その一文だけで、


胸が苦しくなった。


――でも、前と同じ生活には戻れません。


――お母さんは亡くなりました。


手が止まった。


「……母さん?」


続きを読むことができない。


それでも、


読む。


――病院では、最後まで私たちのことを気にしていました。


――お兄ちゃんのことも。


ゆうさくの視界がぼやけた。


母親の顔が浮かぶ。


子供の頃。


怒られたこと。


弁当を作ってもらったこと。


熱を出したとき、


額に手を当ててもらったこと。


全部。


全部が蘇ってくる。


――お父さんは、今も仕事をしています。


――おじいちゃんは帰ってきません。


――弟は事故に遭いました。


その先を読むのが怖かった。


――両足を失いました。


ゆうさくは紙を握りしめた。


「……嘘だ」


声が出た。


「嘘だろ……」


――それでも弟は、生きています。


――だから、お兄ちゃんも生きてください。


――私たちは、お兄ちゃんを許せるかどうか、まだ分かりません。


その文章に、


ゆうさくは涙を流した。


許してほしい。


そう思った。


でも、


「許してくれ」


とは言えなかった。


自分がやったことを、


なかったことにはできない。


――ただ、一つだけ。


――もし外へ出られる日が来たら。


――一度だけ、顔を見せてください。


最後の一文。


――お兄ちゃんに会って、直接話したいです。


手紙はそこで終わっていた。


ゆうさくは何度も読み返した。


「……会いたい」


声が震える。


「会いたいよ……」


御堂が見ている。


ゆうさくは顔を上げた。


「外へ出してください」


「仕事をしろ」


「七人でも八人でも……」


「そうだ」


御堂が言う。


「運べ」


ゆうさくは歯を食いしばった。


「……分かりました」


その日の昼。


田中が連れてこられた。


ゆうさくと目が合う。


田中は何も言わなかった。


ただ、


「読んだか?」


と聞いた。


「何を?」


「手紙」


ゆうさくの顔が強張る。


「……何で知ってる」


「俺にも昔、届いた」


「え?」


田中は笑わなかった。


「外からの手紙だ」


「家族から?」


「そうだ」


「どうなった?」


田中はしばらく黙った。


「もう、誰もいない」


ゆうさくは何も言えなかった。


田中は続けた。


「だから俺は、ここから出たいとは思ってない」


「……じゃあ何で生きてる?」


「忘れられないからだ」


「何を?」


「自分が何をしたか」


田中は前を向いた。


「ここで死ぬまで、それだけは忘れたくない」


二人は歩き始めた。


今度は東の門ではない。


北へ向かう道。


ゆうさくは田中を運びながら、


何度も妹の手紙を思い出していた。


――一度だけ、顔を見せてください。


外へ出たい。


今までとは違う。


ただ自由になりたいだけではない。


家族に会いたい。


謝りたい。


そして、


自分が壊したものを、


自分の目で見たい。


そのためなら。


七人。


運んでしまうかもしれない。


そんな自分が、


また怖くなった。


北の建物に到着する。


田中が立ち止まった。


「ゆうさく」


「何?」


「お前、さっきからずっと手紙を握ってるな」


「……ああ」


「捨てるなよ」


「分かってる」


「違う」


田中はゆうさくを見る。


「ここでは、外から来たものほど先に消える」


その瞬間。


建物の扉が開いた。


中から、


見知らぬ村人が出てきた。


その手には、


ゆうさくが持っていたはずの手紙と、


まったく同じ封筒があった。


ゆうさくの顔から血の気が引く。


「……それ、何で持ってる?」


村人は答えない。


封筒を開く。


中から紙を一枚取り出す。


そして、


ゆうさくに見せた。


そこには――


妹の字で、


こう書かれていた。


「お兄ちゃんへ。お願いだから、帰ってこないで」


ゆうさくは凍りついた。


「……何だよ、これ」


さっき読んだ手紙には、


そんな文章はなかった。


村人が紙を裏返す。


裏には、


一行だけ。


「この手紙を読んだ者は、七人目になる」


田中が、


初めて怯えた顔をした。


「……ゆうさく」


「何?」


「その手紙……」


田中は震える声で言った。


「最初から、お前宛てだったんじゃない。」


遠くで、


祭りの鐘が鳴り始めた。


一度。


二度。


三度。


そして――


七度目。


鐘が鳴った瞬間、


ゆうさくの手の中の手紙から、


黒い文字がゆっくり浮かび上がった。


第七番


その下に、


新しい文字が滲み出る。


「帰る場所を失った者」

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