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閉鎖された巨大集落にある刑務所で  作者: こうた


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15/30

第15話 第三番



朝。


田中誠は、


自分の布団の横に置かれた木札を見つめていた。


数字は、


「三」。


それだけだった。


「これ……何ですか?」


誰に聞いても、


誰も答えない。


食堂に入っても、


空気は重かった。


森川。


宮本。


三浦。


三人が消えた。


誰も、


「死んだ」


とは言わない。


ただ、


「消えた」


と言う。


それが、この場所の言葉だった。


「俺……」


田中が呟く。


「何か悪いことしたんですか?」


誰も答えない。


ゆうさくは、


自分も最初は同じだったと思った。


ここへ来たばかりの頃。


何も知らず、


ただ刑務所だと思っていた。


普通の刑務所だと思っていた。


違った。


ここは、


刑務所の形をした何かだった。


---


昼。


御堂家から呼び出しが来た。


「ゆうさく」


使いの男が言った。


「来い」


ゆうさくは立ち上がる。


田中がこちらを見ている。


その目には、


羨望があった。


「いいな……」


「何が?」


「村の中を歩けるんでしょう?」


ゆうさくは答えなかった。


以前なら、


「自由に歩ける」


と思っていた。


今は違う。


歩ける範囲を、


歩かされている。


それだけだ。


---


御堂家の屋敷。


源一は、


机の上に三つの箱を置いていた。


「東へ行け」


「またですか?」


「今度はこれを届けろ」


箱には、


何も書かれていない。


ゆうさくが持ち上げる。


軽い。


「誰に?」


「お前が会えば分かる」


「……はい」


「それと」


源一が言った。


「東門で見たものを話せ」


ゆうさくは動きを止めた。


「何を?」


「全部だ」


「何もありません」


「嘘をつくな」


声が低くなった。


ゆうさくは、


昨日見た祠を思い出した。


七つの木札。


その七番目に、


自分の名前。


そして、


誰かの声。


――まだ来るな。


「……古い祠を見ました」


源一の顔が変わった。


ほんの一瞬。


恐怖。


ゆうさくは見逃さなかった。


「どこだ?」


「東門へ行く途中です」


「場所は?」


「……分かりません」


源一が立ち上がる。


「見たことを忘れろ」


「はい」


「祠にも近づくな」


「はい」


「そして――」


源一が、


ゆうさくを睨んだ。


「美月にも近づくな」


まただった。


なぜ、


美月なのか。


なぜ、


自分だけなのか。


「分かりました」


そう答えるしかなかった。


---


東門。


ゆうさくは箱を届けた。


相手は、


老人だった。


村人なのか、


囚人なのか、


分からない。


仮面をつけている。


「これを」


箱を渡す。


老人は受け取った。


「中身を見たか?」


「いいえ」


「本当に?」


「はい」


老人は、


ゆうさくをじっと見た。


「お前……」


「はい」


「御堂の犬か」


その言葉が、


妙に胸に刺さった。


「……そうです」


老人は笑った。


「なら、長生きできる」


「本当に?」


「さあな」


老人は箱を抱えた。


「犬は、


飼い主がいなくなれば死ぬ」


その言葉だけ残して、


山の奥へ消えた。


---


帰り道。


ゆうさくは、


林の中で何かを見つけた。


古い金属製の箱。


半分土に埋まっている。


蓋には、


御堂家の印。


開けようとした。


だが、


その瞬間。


「触るな」


背後から声がした。


美月だった。


「美月?」


「それには触らないで」


「何が入ってる?」


「昔の記録」


「記録?」


美月は周囲を見た。


「ここには、昔の刑務所の記録が残されている」


「何の?」


「囚人の記録」


「生贄?」


美月は答えなかった。


それが答えだった。


ゆうさくは箱を見た。


「どうして隠してる?」


「隠さないといけないから」


「誰から?」


美月の顔が強張る。


「村から」


ゆうさくは眉をひそめた。


「村人が隠してるの?」


「違う」


美月は小さく言った。


「村人が、


隠させられてる」


---


その夜。


ゆうさくは刑務所へ戻った。


田中が待っていた。


「ゆうさくさん」


「どうした?」


「これ……」


田中が木札を差し出した。


数字は、


「三」。


「朝からずっとあるんです」


「……」


「誰かが俺を選んだんですか?」


ゆうさくは答えられなかった。


すると、


玄関から音がした。


ギィィ……


扉が開く。


村人が一人、


立っていた。


手には、


黒い木札。


「第三番」


全員が凍りつく。


村人が、


木札を読み上げる。


「田中誠」


田中が後ずさる。


「違う……」


誰も動かない。


「俺は今日来たばかりだ」


村人は無表情だった。


「関係ない」


「何で俺なんだよ!」


「選ばれたからだ」


「誰に!」


その問いに、


村人は初めて顔を上げた。


「神に」


田中が膝から崩れ落ちる。


「……嫌だ」


村人は近づく。


田中は逃げようとした。


だが、


廊下の両側から別の村人が現れた。


逃げ道がない。


田中は、


ゆうさくを見る。


「助けてください」


ゆうさくは動けなかった。


田中が叫ぶ。


「御堂家の犬なんでしょう!」


その言葉が、


胸に突き刺さった。


「助けてよ!」


ゆうさくは一歩踏み出した。


村人が刀に手をかける。


「ゆうさく」


黒田の声。


「やめろ」


「でも……」


「今のお前に、


田中を助ける力はない」


ゆうさくは止まった。


田中が泣いている。


その姿を見て、


ゆうさくは理解した。


御堂家の犬になった。


食事を増やしてもらった。


村の中を歩かせてもらった。


祭りから外してもらった。


それでも、


誰か一人を助けることすらできない。


自由を与えられたのではない。


ただ、


檻の中を歩くことを許されただけだった。


村人が田中の腕を掴む。


田中が抵抗する。


「嫌だ!」


その声が、


廊下に響く。


そして、


扉が閉まった。


---


しばらく誰も喋らなかった。


やがて、


黒田が言った。


「これで三人」


「……あと四人」


ゆうさくが呟く。


黒田は頷いた。


「だがな」


「何?」


「今年は、


七人で終わるとは限らない」


ゆうさくは顔を上げた。


「どういう意味?」


黒田は、


窓の外を見た。


村の神社。


その奥にある山。


そして、


巨大な壁。


「昔は三人だった」


「生贄が?」


「ああ」


「じゃあ、どうして今は七人?」


黒田は答えなかった。


代わりに、


一枚の古い新聞を取り出した。


そこには、


三十年前の村の祭りの記事が載っていた。


見出しは小さい。


だが、


その下に書かれていた数字だけは、


はっきり読めた。


『死者――三名』


ゆうさくは眉をひそめた。


「これだけ?」


黒田が新聞を裏返す。


裏面には、


別の記事が貼り付けられていた。


そこには、


さらに古い記録。


『死者――七名』


ゆうさくは息を止めた。


七人。


今と同じ。


そして、


その記事の端に、


手書きの文字が残っていた。


黒田が読む。


「……『七人では足りなかった』」


ゆうさくは、


その意味を理解できなかった。


だが、


遠くから鐘が鳴った。


ゴォン。


一回。


ゴォン。


二回。


ゴォン。


三回。


黒田が、


初めて怯えた顔を見せた。


「……今年は」


その声は、


震えていた。


「七人じゃないのかもしれない」


その瞬間。


神社の方角から、


村中の犬が一斉に吠え始めた。


そして――


御堂家の屋敷の屋根に、


いつの間にか、


八つ目の仮面が置かれていた。

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