↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
閉鎖された巨大集落にある刑務所で  作者: こうた


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/30

第14話 選ばれた二人



「――三浦修司」


名前が読み上げられた。


誰も動かなかった。


三浦だけが、


立ったまま固まっている。


「……俺?」


村人は答えない。


木札をしまうと、


そのまま出口へ向かった。


「待てよ」


三浦の声が震えた。


「俺は何もしてねえぞ」


村人は振り返らない。


「俺は……」


三浦が一歩踏み出す。


「御堂家にも逆らってねえ」


そこで初めて、


村人が振り返った。


「それが何だ?」


三浦の顔が歪む。


「……関係ないのか?」


「関係ない」


「じゃあ、何で俺なんだよ!」


村人は答えなかった。


ただ、


「明朝」


それだけ言って出ていった。


扉が閉まる。


カチャリ。


鍵はかからない。


なのに、


誰も追いかけようとはしなかった。


---


「くそ……」


三浦は椅子を蹴った。


「ふざけんな……」


誰も慰めない。


誰も声をかけない。


宮本は壁際で震えている。


二人。


明日、


消える。


ゆうさくは二人を見ていた。


そして、


自分の胸に奇妙な感情が湧いていることに気づいた。


――怖い。


だが、それだけではない。


自分じゃなくてよかった。


そう思ってしまった。


その瞬間、


自分が嫌になった。


以前なら、


こんなことを考えた人間を最低だと思っていた。


でも今は違う。


ここでは、


誰かが死ぬことで、


自分が生き残る。


それが当たり前になりつつある。


---


深夜。


ゆうさくは眠れなかった。


廊下を歩く。


窓の外には、


月明かりに照らされた村がある。


その先に、


巨大な壁。


さらにその向こうに、


外の世界。


母親。


妹。


弟。


父親。


祖父。


そして、


もう会えないかもしれない人たち。


「……帰りたい」


呟いた。


すると、


背後から声がした。


「どこへ?」


ゆうさくが振り返る。


美月だった。


「……美月?」


「眠れないの?」


「うん」


美月は少し離れたところに立っている。


以前のように近づいてこない。


距離を取っている。


「宮本さんと三浦さん……」


「知ってる」


「助けられないの?」


美月は首を横に振った。


「無理」


「村長なら?」


「無理」


「神主なら?」


「もっと無理」


ゆうさくは黙った。


「じゃあ、誰なら止められる?」


美月は、


しばらく答えなかった。


そして、


小さく言った。


「神様」


「……」


「この村では、神様が決めたことを変えられる人はいない」


「でも、村長たちは神様を怖がってる」


美月の顔が曇った。


「怖がってるだけじゃない」


「何?」


「憎んでる」


ゆうさくは息を止めた。


「神様を?」


美月は頷いた。


「でも、憎んでも逆らえない」


「何で?」


「昔、逆らった人たちがいたから」


「どうなった?」


美月は答えなかった。


ただ、


窓の外を見た。


「村が一つ、消えた」


ゆうさくは意味が分からなかった。


「この村とは別の村?」


「……そう」


「そんなことが?」


「だから、みんな従うの」


美月はそこで言葉を止めた。


「私も」


ゆうさくは彼女を見る。


初めてだった。


美月が自分から、


「怖い」


という顔をした。


---


翌朝。


宮本と三浦の姿は、


食堂になかった。


二人の布団も、


片付けられていた。


まるで、


最初から誰もいなかったかのように。


だが、


食堂の隅に、


二つの茶碗だけが残っていた。


ゆうさくは見つめた。


田辺が近づいてくる。


「見るな」


「……はい」


「覚えるな」


「え?」


田辺は低い声で言った。


「覚えてると、次は自分が怖くなる」


---


その日の昼。


御堂家から呼び出しがあった。


ゆうさくは屋敷へ向かった。


広い庭。


巨大な門。


何人もの村人がいる。


全員、仮面。


源一が座っていた。


「仕事だ」


「はい」


「東側へ行け」


ゆうさくは顔を上げた。


東。


あの門がある方向。


「何を?」


「荷物を届けろ」


「誰に?」


「聞くな」


また同じ言葉。


ゆうさくは木箱を受け取った。


今度は、


箱に文字が書かれていた。


東門


その二文字を見た瞬間、


胸が高鳴った。


「……東門へ?」


「ああ」


「俺が?」


「お前だから行ける」


その言葉に、


ゆうさくは違和感を覚えた。


なぜ、


自分なのか。


御堂家の犬だから。


そう思えば、


説明はつく。


だが、


もっと別の理由があるような気がした。


---


山道を進む。


ゆうさくは一人だった。


木々の間から、


巨大な壁が見える。


高い。


あまりにも高い。


その壁の一部に、


古びた門があった。


東門。


ゆうさくは立ち止まった。


門の前には、


村人が一人いた。


「荷物」


「これです」


受け渡す。


それだけのはずだった。


だが、


ゆうさくは門を見た。


「ここから……外に出られる?」


村人がこちらを見る。


「出られない」


即答だった。


「でも門がある」


「門はある」


「じゃあ――」


「外へ出るための門ではない」


背筋が冷えた。


「じゃあ何のため?」


村人は答えなかった。


その代わり、


門の脇にある石碑を指差した。


古い文字が刻まれている。


ゆうさくは近づいた。


読めない。


だが、


最後の一行だけは、


現代の文字で書かれていた。


『選ばれし者は、門を越えてはならない』


「選ばれし者?」


ゆうさくが振り返る。


村人は、


もういなかった。


---


帰り道。


ゆうさくは一人で歩いた。


そして、


あることに気づいた。


山道の途中に、


白い布が落ちている。


拾い上げる。


見覚えがある。


森川が消えた夜。


「一人目」と書かれた仮面。


その仮面についていた布と同じだった。


ゆうさくは布を握りしめる。


すると、


山の奥から、


小さな音がした。


鈴。


チリン。


また一つ。


チリン。


誰かがいる。


ゆうさくは木々の隙間を覗いた。


そこに、


小さな祠があった。


誰もいない。


だが、


祠の前には、


七つの小さな木札が並べられている。


一つ目。


名前が消されている。


二つ目。


名前が消されている。


三つ目。


まだ空白。


四つ目。


空白。


五つ目。


空白。


六つ目。


空白。


そして――


七つ目。


ゆうさくは息を止めた。


そこだけ、


名前が書かれていた。


ゆうさく


その瞬間。


背後で、


枝が折れた。


パキッ。


振り返る。


誰もいない。


もう一度、祠を見る。


七つ目の木札も、


消えていた。


代わりに、


祠の奥から、


小さな声が聞こえた。


「……まだ」


ゆうさくは凍りついた。


「……まだ、来るな」


誰の声なのか分からない。


男なのか。


女なのか。


老人なのか。


子供なのか。


ただ、


その声を聞いた瞬間。


村で初めて、


ゆうさくは思った。


――神は、


囚人だけを選んでいるんじゃない。


そして、


自分が御堂家の犬として自由に動けているのも、


もしかすると――


「逃げないように自由を与えられているだけ」


なのではないか。


山の向こうで、


鐘が鳴った。


一回。


二回。


三回。


ゆうさくは振り返らず、


刑務所へ戻った。


その夜。


新しく来た囚人、


田中誠の布団の横に、


いつの間にか一枚の木札が置かれていた。


そこには、


まだ名前ではなく、


数字だけが書かれていた。


「三」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。