第六話 「光と影の同居人」
これは、“魔法少女”の物語。
世界は一度、大きな戦いを越えた。
人々は平穏を取り戻し、日常は何事もなかったかのように続いている。
けれど、その裏側で。
世界には、誰にも知られない“ほころび”が生まれていた。
それは、いつから存在していたのかもわからない。
気づいたときには、そこにあった。
“エラー”——
そう呼ばれるそれは、形を持たず、理由もなく、人を襲う。
まるで世界そのものが、壊れ始めているかのように。
そして、その脅威に対抗できるのは——
異界から来た存在、“フェルル”と契約した少女たちだけ。
力を手にした少女たちは、“魔法少女”として戦う。
誰かを守るために。
日常を守るために。
あるいは——
自分自身のために。
まだ、誰も知らない。
これは、逃げることしかできなかった一人の少女が、
世界の“バグ”に向き合う物語。
星宮家の応接室を後にし、ましろはカナメとソラに案内されて屋敷の奥へと進んでいた。
「こっちよ。みんな、だいたいこのあたりにいるから」
「は、はい……」
緊張がまだ抜けないまま、ましろは廊下を歩く。
床は磨き上げられ、窓から差し込む光がまぶしいほどだった。
やがて、ソラが一つの扉の前で立ち止まる。
「ここが私の部屋。とりあえず、ここで話しましょう」
扉が静かに開かれる。
中は広く、落ち着いた雰囲気の部屋だった。
本棚や机、ソファが整然と並び、どこか安心感のある空間。
「さ、どうぞ」
「し、失礼します……」
ましろが恐る恐る中に入ると――
「……」
部屋の奥、窓際に一人の少女が立っていた。
黒髪の長い髪。
どこか影をまとったような雰囲気。
その少女はゆっくりとこちらを振り向く。
「……新入り?」
低く、静かな声。
ましろはびくっと肩を震わせた。
「え、えっと……は、はい……!」
ソラが軽く手を差し出す。
「紹介するわ。彼女は星宮ヤミ。私の妹で、この屋敷のメンバーの一人よ」
「……ヤミでいい」
短く、それだけ言う。
フェルルが小さく呟く。
「なんだか、すごい気配を感じるね……」
ソラは続ける。
「ヤミの個人魔法は“穢れ操作”」
「穢れ……?」
「えぇ。世界の“暗い部分”を操る力よ。敵を縛ったり、精神に干渉したり……それに、仲間の穢れを引き受けて回復させることもできる」
ましろは目を見開く。
「す、すごい……」
ヤミは少しだけ目を伏せる。
「……別に。大したことじゃない」
そう言いながらも、その声にはどこか優しさが混じっていた。
その時――
「ソラお姉ちゃん……?」
小さな声が聞こえた。
振り向くと、扉の隙間からひょこっと顔を出す少女。
銀色の髪がふわりと揺れる。
「ひかり、入っていいわよ」
「う、うん……」
おずおずと部屋に入ってくる。
その子はましろを見ると、少しだけ緊張したように手をぎゅっと握った。
「この子は星宮ひかり。私たちの妹よ」
「は、はじめまして……」
小さく頭を下げるひかり。
「ま、ましろです……よろしくお願いします!」
ましろも慌てて頭を下げる。
ひかりは少しだけ安心したように微笑んだ。
「……ひかりはまだ魔法少女じゃないの」
ソラが優しく説明する。
「でも、いつか――なりたいと思ってる」
「はい……みんなの、役に立ちたくて……」
その言葉に、ましろは少し驚いた。
(私と……違う)
逃げたいから力を得た自分と、誰かのために力を望む少女。
その違いが、胸に小さく引っかかる。
「……あと、もう二人いるんだけど」
ソラが軽く言う。
「今は別行動中。いずれ紹介するわ」
「は、はい……!」
そこで、カナメが腕を組む。
「で、本題だけど」
ましろがぴくっと反応する。
「あなた、戦い方わかってないでしょ?」
「うっ……」
図星だった。
「……はい。全然……」
フェルルも肩をすくめる。
「勢いだけだったもんね」
「うぅ……」
ソラがふっと微笑む。
「なら、ちょうどいいわ」
「庭で訓練しましょうか」
「えっ……!?」
「このままじゃ危ないもの。最低限の戦い方は覚えてもらわないと」
カナメがにやっと笑う。
「安心しなさい。ちゃんと私が見てあげるから」
「そ、それが一番不安です……!」
「なによそれ!」
ヤミは静かに窓の外を見たまま呟く。
「……訓練、ね」
ひかりは少しだけ嬉しそうに言った。
「わたしも……見てていいですか……?」
「もちろんよ」
ソラの言葉とともに――
ましろの“魔法少女としての第一歩”が、次の段階へと進もうとしていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




