第十三話 「初陣、連携の壁」
これは、“魔法少女”の物語。
世界は一度、大きな戦いを越えた。
人々は平穏を取り戻し、日常は何事もなかったかのように続いている。
けれど、その裏側で。
世界には、誰にも知られない“ほころび”が生まれていた。
それは、いつから存在していたのかもわからない。
気づいたときには、そこにあった。
“エラー”——
そう呼ばれるそれは、形を持たず、理由もなく、人を襲う。
まるで世界そのものが、壊れ始めているかのように。
そして、その脅威に対抗できるのは——
異界から来た存在、“フェルル”と契約した少女たちだけ。
力を手にした少女たちは、“魔法少女”として戦う。
誰かを守るために。
日常を守るために。
あるいは——
自分自身のために。
まだ、誰も知らない。
これは、逃げることしかできなかった一人の少女が、
世界の“バグ”に向き合う物語。
市街地――昼。
人々が行き交うはずの通りは、すでに騒然としていた。
「なんだあれ……!」
「逃げろ!!」
空間が――歪んでいる。
まるでガラスが割れたように、現実がひび割れ。
その中心から、黒い“何か”が這い出ていた。
「……あれが、エラー……」
ましろは息を呑む。
それは人型に近いが、明らかに“何かがおかしい”。
顔は曖昧で、感情のようなノイズが滲み出ている。
「規模……想定以上」
クロエが冷静に呟く。
「複数個体、同時発生」
「ちょっと多すぎない!?」
しずくが軽く笑いながらも構える。
「でも、やるしかないでしょ!」
ソラが前に出る。
「全員、配置につくよ」
「クロエは後方支援、しずくは攪乱」
「ヤミは前線制圧――」
そして、ましろを見る。
「ましろちゃんは……」
一瞬、迷い。
「……臨機応変に動いて」
「はい……!」
次の瞬間――
「来る!!」
エラーが一斉に動き出した。
「行くよッ!!」
しずくが地面を蹴る。
そのスピードは、一瞬で視界から消えるほどだった。
「速っ……!」
ましろが驚く間もなく。
ドンッ!!
エラーの一体が吹き飛ぶ。
「一体撃破ー!」
しずくが笑う。
「……でも、まだまだ!」
その背後から、別のエラーが襲いかかる。
「危ない――!」
ましろが叫ぶ。
だがその瞬間。
「右、三歩」
クロエの声。
しずくが即座に動く。
次の瞬間、エラーの攻撃は空振りする。
「ナイス指示!」
「当然」
クロエは冷静に端末を操作している。
「動き……パターン化してる」
「予測可能」
その隙を――
「……消えろ」
ヤミが一閃。
黒い力が走り、エラーをまとめて斬り裂いた。
「……強い……」
ましろは思わず呟く。
(みんな、すごい……)
(私も……!)
ましろは魔法を構える。
光が集まり――
「えいっ……!」
攻撃を放つ。
しかし。
ズレた。
エラーには当たらず、地面に着弾する。
「あ……」
その瞬間――
別のエラーが、ましろに迫る。
「っ……!」
反応が遅れる。
ガキンッ!!
間一髪、ヤミが防いだ。
「……何やってんの」
冷たい声。
「ご、ごめんなさい……!」
「謝ってる暇あるなら、動け」
ヤミはそれだけ言って、再び前に出る。
ましろの胸が、ぎゅっと痛む。
(……私、足引っ張ってる……)
その間にも戦況は動く。
「数、増えてる!」
しずくが叫ぶ。
「中心部……まだ歪みあり」
クロエが分析する。
ソラが空を見上げる。
歪みの中心。
そこに、明らかに“核”のようなものがあった。
「……あれが原因ね」
「全員、核を狙うよ!」
だが――
エラーの群れが、道を塞ぐ。
「ちっ……多すぎ!」
しずくが突破しようとするが、押し返される。
「ルート確保、困難」
クロエも眉をひそめる。
そのとき。
ましろは、歪みの中心を見つめていた。
(……あそこを壊せば……)
でも――
足が、動かない。
怖い。
失敗するのが怖い。
「……ましろちゃん」
ソラの声。
振り向く。
「大丈夫」
「あなたは、一人じゃない」
その言葉。
ましろの中で、何かがほどける。
(……そうだ)
(私は――)
一歩、踏み出す。
「クロエさん!」
「……なに」
「核までのルート……教えてください!」
クロエが一瞬だけましろを見る。
そして――
端末を操作する。
「……左から三番目の個体、弱い」
「そこ突破」
「ありがとうございます!」
ましろが走る。
「しずくさん!」
「お、来たね新人ちゃん!」
「一瞬でいいので、道を開けてください!」
しずくがニヤッと笑う。
「いいじゃん、その顔!」
「任せな!!」
地面を蹴る。
ドンッ!!!
一気にエラーを弾き飛ばす。
「今!!」
「ヤミさん!!」
「……はぁ」
ヤミがため息をつきながらも前に出る。
「一回だけだから」
黒い一閃。
道が――開いた。
「行け」
短い一言。
ましろは、走る。
核へ向かって。
「……っ!」
魔法を集中させる。
怖い。
でも――
(みんながいる)
「届け――!!」
光が放たれる。
一直線に――核へ。
――次の瞬間。
バキンッ!!
歪みが、砕けた。
エラーたちが、一斉に消えていく。
静寂。
「……やった……?」
しずくが息を吐く。
「……成功」
クロエが頷く。
ヤミは何も言わず、ましろを見る。
ソラは、静かに微笑んだ。
「……初任務、クリアだね」
ましろは、その場に座り込む。
「はぁ……はぁ……」
でも。
顔には、確かな達成感があった。
「……みんなのおかげです」
しずくが笑いながら肩を叩く。
「いやいや、最後決めたのはましろでしょ!」
クロエも小さく言う。
「……悪くない動きだった」
ヤミは――
「……少しは使える」
それだけ言った。
ましろは、少しだけ笑う。
(……まだ全然だけど)
(でも――)
(ここで戦っていける)
そう、思えた。
だがそのとき――
ソラの手の中で。
“あの光”が、微かに歪んだ。
誰にも気づかれないまま――
新たな“異変”は、静かに始まっていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




