第十一話 「願いの代償、光の理由」だ
これは、“魔法少女”の物語。
世界は一度、大きな戦いを越えた。
人々は平穏を取り戻し、日常は何事もなかったかのように続いている。
けれど、その裏側で。
世界には、誰にも知られない“ほころび”が生まれていた。
それは、いつから存在していたのかもわからない。
気づいたときには、そこにあった。
“エラー”——
そう呼ばれるそれは、形を持たず、理由もなく、人を襲う。
まるで世界そのものが、壊れ始めているかのように。
そして、その脅威に対抗できるのは——
異界から来た存在、“フェルル”と契約した少女たちだけ。
力を手にした少女たちは、“魔法少女”として戦う。
誰かを守るために。
日常を守るために。
あるいは——
自分自身のために。
まだ、誰も知らない。
これは、逃げることしかできなかった一人の少女が、
世界の“バグ”に向き合う物語。
深夜――
星宮家の屋敷は、静寂に包まれていた。
だが、その静けさの中で。
一人、目を覚ました少女がいた。
「……あれ……?」
ましろはゆっくりと体を起こす。
胸が、ざわついていた。
理由はわからない。
けれど――
「……行かなきゃ」
そう思った。
廊下に出る。
月明かりだけが、長い廊下を照らしている。
そして――
微かに光が漏れている部屋を見つけた。
「……ソラさんの部屋……?」
そっと近づく。
中から、声が聞こえた。
「……これ以上は……」
苦しげな声だった。
ましろは、思わず扉の隙間から覗く。
そこにいたのは――
ソラだった。
だが、いつもの優しい表情ではない。
その手には、淡く輝く“光”。
そして、その光は――
どこか歪んでいた。
「……お願い……だから……」
ソラは、祈るように呟く。
「これ以上、“叶えさせないで”……」
その瞬間――
光が、強く脈打った。
ましろは息を呑む。
そのとき。
「……見てたの」
背後から、声。
振り向くと――
ヤミが立っていた。
「ヤミさん……」
ヤミは静かに扉の方を見る。
「……知るなら、ちゃんと知りなさい」
そう言って、扉を開けた。
「ソラ」
ソラがはっと振り向く。
「……ヤミ……それに、ましろちゃんも……」
少しの沈黙。
やがてソラは、小さく息を吐いた。
「……見られちゃったね」
その声は、どこか覚悟を決めたようだった。
「これは……私の“魔法”」
ソラは、自分の手の光を見る。
「個人魔法――祈願成就」
「どんな願いでも、“確定で叶える力”」
ましろの目が見開かれる。
「……そんな……」
「でもね」
ソラの声が、少しだけ震える。
「願いは……“対価なしでは叶わない”の」
光が、ゆっくりと歪む。
「叶えた分だけ、どこかに“歪み”が生まれる」
「それが……エラーの正体」
ましろは言葉を失う。
「私が……願いを叶えた分だけ」
「世界は、壊れていく」
静寂。
その空気を破ったのは――
ヤミだった。
「……だからこいつは、無駄に願いを叶えない」
淡々とした声。
「昔の私みたいなのが出るから」
ましろがヤミを見る。
「……昔の?」
ヤミは少しだけ目を伏せた。
「……私は、捨てられた子供だった」
その言葉は、静かだった。
「親にいらないって言われて」
「寒い場所に置いていかれて」
「……全部、嫌いになった」
拳を握る。
「だから願った」
「“呪いたい”って」
空気が、重くなる。
「その願いは叶った」
「簡単にね」
ヤミは自嘲気味に笑う。
「でも、その後に残ったのは」
「何もない世界と――」
「壊れた私だけ」
沈黙。
「……そこに来たのがソラ」
ヤミはちらりとソラを見る。
「こいつは、私を止めた」
「そして……拾った」
ソラが少しだけ笑う。
「……だって、放っておけなかったから」
「それから、私はここにいる」
ヤミは短く言った。
「……家族として」
ましろの胸が、ぎゅっと締め付けられる。
そのとき――
「……いいな」
小さな声。
振り向くと、ひかりが立っていた。
「ひかりちゃん……?」
「……私、ずっと思ってたんです」
ひかりは、少しだけ震えながら言う。
「魔法少女って……誰かを助けられる人だって」
「私、小さい頃……病気で」
「ずっと入院してて」
「何もできなくて」
「ただ、助けてもらうだけで」
その目に、涙が浮かぶ。
「だから……」
「今度は、私が助けたいんです」
「誰かの“光”になりたい」
静かだけど、強い言葉だった。
ましろは、その言葉を聞いて。
胸の奥が、熱くなるのを感じた。
「……ソラさん」
ましろは、一歩前に出る。
「願いって……怖いです」
「でも……」
「それでも、誰かを救えるなら」
「私は……戦いたいです」
ソラは、ましろを見る。
そして――
優しく微笑んだ。
「……強くなったね」
その光は、さっきまでとは違って。
とても、穏やかだった。
「でも、忘れないで」
「願いは――」
「使い方を間違えると、世界を壊す」
その言葉は、優しくて。
そして、とても重かった。
夜は、静かに更けていく。
それぞれが、それぞれの想いを胸に――
新たな一歩を、踏み出そうとしていた。
だが。
その裏で――
どこかの闇の中。
「……なるほど」
何者かが、笑う。
「“願い”か……面白い」
歪んだ気配が、広がる。
物語は、さらに深く――
闇へと進んでいく
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




