93. ただ真っ直ぐに
「そろそろ俺等も行こうか」
悠馬は西の方角へと足を向ける。
他パーティーは、それぞれ担当した方角へと既に出発していた。
聖天の双翼は東へ。
バーニングライクは北へ。
バーニングオクトパスは南へ。
「悠馬お兄さんはなんで方角が分かったんですか? 目印とかないですよね?」
「あぁ、それなら簡単だよ。【赤の矢印】が出てるんだ、真っ赤なやつがキッチリ4つ」
悠馬の視界には、真紅の様な深い【赤の矢印】が表示されている。
それを元に各パーティーへ目指すべき方向を指示していたのだ。
「スキル『道標』だったかしら? 相変わらず便利なもんだね」
「たしかに便利だが、ヴィの魔導具も負けてないだろ」
「ふふっ、素直に受け取っておくわ」
既に全員がヴァレンタインの魔導具を装着している。
通話とメッセージのやり取りが可能な『シグナル』。
深層の魔素を放出する『ストック』。
自由に物体を出し入れできる『カフ』。
「立ちふさがる敵は全てブチのめしてよいのだろう? 腕がなるのう!」
「もちろんだ。ただ、速度も維持したい。後発組でも対応できそうなら無視して進むぞ」
各方角に進む特級パーティー以外の探索者達、いわゆる上級ホルダーが約160名ほど残っている。
悠馬はその探索者達を5分割し、特級パーティーの後発組として出発させることを提案した。
今回は初動での高速探索が目的のため、いちいち殲滅している時間が惜しいのだ。
ある程度は後発組に任せ、探索を最優先に進行する。
残りのメンバー達は安全地帯で待機、負傷者の治療と交代要員として動いてもらう。
当初は上級探索者達も渋ってはいたが、オグリ家騎士団を除く特級3チームは有名らしく最終的には従う事となった。
「とはいえ、『オグリ家騎士団』の名を知らぬとは、何とも度し難い事でございますね……」
「ノーラの言う通りです! 『で、お前はなんで偉そうなんだ』って! 許せません!」
「まぁそう言うなって。仕方ないだろ特級なったのだって最近だし、史上最短で特級ホルダーだぞ、そりゃ認知が遅れるってもんだ」
話しながら準備を進めていると、後発組が近づいてくる。
「おい! 一体いつになったら出発するんだ! 他のやつらは姿すら見えなくなってんだぞ!」
「えっと……誰だっけ?」
「もう忘れたのか! 上級パーティー『メガソニック』の速水だ!」
「そうそう速水くん! もう出発するからそんなに怒らないでくれ」
「ったく、なんで俺がこいつらの後ろなんだよ。 俺らのほうが速いってのに……」
他3パーティー達が出発しているのにも関わらず、いまだ動かない悠馬達に速水は苛立ちをぶつける。
聞いたこともないパーティーが、自分たちを率いる事にも納得していない様子だった。
「えっと……メガソニックだっけ? って速そうな名前だな」
「そうだよ! 攻略速度だけじゃない、移動速度だって全パーティーの中でもナンバーワンだ!」
「そっかそっか、じゃあ本気で行っても大丈夫そうだな」
「けっ! あんたらを追い抜かないか、余計な気を使うことになりそうだよ!」
自分たちの足に絶対の信頼を置いている速水。
その自身が打ち砕かれる事になるのは、ほんの数分後の出来事だった。
――――
「ゼェ、ゼェ……ハァ……っ、なんなんだアイツら。 速いってレベルじゃねぇ……」
速水は悠馬達になんとか食い付いているものの、見失わないようにするだけで精一杯であった。
「しかも速いだけじゃねぇって……これが特級パーティーってやつなのか?」
「ノーラはF2へ氷柱3つ! ヴィはB6へ範囲3メートル!」
「仰せのままに!」
「はいよっ」
方向と高さをアルファベットと数字で事前に共有。
それを元に指示出しすることで、殲滅速度の高速化を可能にしていた。
「アリスとドルは打ち漏らしを叩けっ! 振り抜いたらそのまま進行!」
「はいっ!」
「おうよっ!」
魔法組が後方から先制、その後前衛がトドメを刺す。
悠馬の正確無比な指示が、魔物の初動を全て封じ込める。
それを速度を維持したまま実行する。
オグリ家騎士団にとっての『いつもの』攻略、それは他人にとっての『異常』という事に本人達は気づかない。
「ハァ、ハァ、……っ、あーもうなんなんだ! 意味が分からねぇ!」
「速水くん、なかなかやるじゃないか! さすが言うだけの事はあるって感じか?」
「――うるせぇよ! こんくらい何でもねぇ!」
「若いねぇ。じゃあ速度上げるから、ちゃんと付いて来いよ!」
「えっ!」
悠馬は言葉通り速度を上げる。
速水の視界から悠馬達の背中が一瞬で消え去る。
「くっそ! 付いていきゃいいんだろ! やってやるよ! メガソニックなめんなー!!」
――――
「なんかデカいのがいるな。ノーラ、ヴィ魔法届くか?」
「うーん、ちょっと厳しいね」
「私も同じです。走りながらで無ければ可能ですが」
直線距離で約200メートル先、大型の魔物の姿が見える。
この距離で確認出来るという事は、実サイズは相当なものだろう。
「魔法は無理か……。とはいえ、速度は落としたくないしなぁ」
「悠馬お兄さん。それなら私が先行してきましょうか?」
アリスは並走しつつ、片手間で魔物を斬り伏せながら悠馬へ提案する。
「いや、出来るだけ体力は残しておきたいから――ドル!」
「なんだ? ワシが行けばいいのか?」
「溜め攻撃って、ジャンプしながらでも出来るのか?」
「もちろん出来るぞ。まぁ、技にもよるがな」
ドレイヴンの言葉を聞き、悠馬は不敵に笑う。
「じゃあそれで行こうか。ドル、待たせたな――『アレ』行くぞ!」
「おぉ! 『アレ』か! ようやくではないか! 待っておったぞ!」
悠馬の『アレ』の提案にドレイヴンも笑みを浮かべる。
「悠馬お兄さん『アレ』って――」
「今だ! ドル飛べ!」
「――おうよっ!」
前方に向かってドレイヴンは高く飛び上がる、そしてそのまま攻撃体制へと移行。
「ガードルドの誇り……我が魂を持って、不浄を断たん!」
ドレイヴンの身体が黄金に輝き始める。
それと同時に、悠馬は視界に【琥珀の矢印】を発動させる。
「行っけぇーーー!」
「ぬぉぉぉぉーーーーーー!」
ドレイヴンの身体が一気に加速する。
黄金の流星が大型魔物に向かって直進する。
「くらえっ!――『剛勇王の断頭台』ッ!!」
――ズドォォォォォォォォンッ!!
ドレイヴンの強烈な一撃。
それは音と振動をもって、敵の殲滅を悠馬たちへと知らせる。




