91. 生と死を操る存在
少年が指を鳴らした瞬間――。
木森の身体が白い光に覆われ消滅する。
その光が収まったと思った時。
「――見本ってなんやねん! ワシはマネキンちゃうぞ!」
「まさかとは思っていたが――まじかよ」
半信半疑だった悠馬も、目の前の事実に驚きを隠せない。
生き返った木森に向かってバーニングオクトパスのメンバーが集まる。
なかには泣いているものもいるようだ。
「な、何やねん自分ら! 急に泣くなや! 気持ち悪いやっちゃで!」
――さぁ、これでいいかな?――。
「あぁ、十分だ」
――じゃあ、ゲームスタートだ。みんな頑張ってねー――。
少年はローブの中から、あの『赤い石』を取り出し悠馬を見る。
――せいぜい頑張る事だね。小栗、いや……印南悠馬――。
「何っ!?」
少年から発せられた、思いもよらない発言に悠馬は言葉を失う。
――ふふっ、いい顔だ――。
言い終えると同時に上空の画面は消滅する。
どうするべきかと周囲がざわつく中、悠馬は少年の言葉の意味を考えていた。
――――
「なんなんだアイツは、なんで爺ちゃんの苗字で俺を呼んだ……」
「悠馬お兄さん……」
悠馬は画面が消えた後も、上空を見つめていた。
「ユーマよ! 色々考えても仕方あるまい、まずは周囲の調査からではないか?」
「その通りだね。まずは情報を集める。そこから対策を練る。戦場の基本じゃないか」
「ドル、ヴィ……」
「悠馬様。 お館様方の仰る通りかと、まずは現状把握が最優先事項かと」
「……それもそうだな。 よしっ切り替えよう!」
3人に諭され、悠馬は気合を入れ直す。
「それでこそ悠馬お兄さんです! さすがリーダー! さすリーです!」
アリスはぴょんぴょんと跳ねながら、悠馬のそばに寄ってくる。
悠馬は本体と同じ様に跳ねているアホ毛を見ながら微笑む。
「さすリーって何だよ! へんなあだ名つけんなって!」
他愛のないやり取り、いつものオグリ家騎士団の姿がそこにはあった。
そこにある集団が近づいてくる。
「……悠馬。 元気だったか?」
「淳か……久しぶりだな」
声を掛けてきたのは幼馴染の坂元淳と、メンバーであり妻の茅場優紀。
「優紀も一緒か。俺は相変わらずだよ……そっちはどうなんだ」
「私たちも相変わらずって感じよ、悠馬は何ていうか……少し変わったみたいね」
昔と同じショートカットヘアーの優紀は悠馬の周囲を見渡し、オグリ家騎士団の面々に会釈をする。
「たしかにそうかもな。 それで、何の用だ?」
「数年ぶりに会ったっていうのに、素っ気なくないか? それより紹介してくれよ、今の……仲間なんだろ?」
「……ったく、しょうがねぇな。 みんな、こっちへ来てくれ」
悠馬の声に応えるように全員が集まり、お互いに自己紹介をする。
全員がお互いの名前を確認した所で、淳が問いかけてくる。
「その……皆さんは『異世界人』ってやつなのか?」
「そうだが、別に珍しいもんでもないだろ」
「いや、たしかにそうなんだが。 ここまで集結してるのは聞いたことが無くてな」
「そうなのか?」
「あぁ。 それに向こうの人って、めっぽう強いって噂だし、それが集団ってもはや反則だろ」
「ガハハッ! ワシの強さは大陸一だからの! お主なかなか見所があるではないか!」
「痛い痛いって! ドレイヴンさんマジで力つえーな、今度手合わせ願いたいもんだね」
ドレイヴンに肩を叩かれつつも、淳は逆に闘志に火がついたようだ。
「あーつぅーしぃー。 ドレイヴンさんと手合わせして、また装備でも壊したら――」
「わかったわかった! 悪かったよ、だから落ち着けって! なっ?」
「なんだ、まだ『装備バカ』は治ってないのか?」
「そうなのよ。たっかい装備ばっかり買ってるから、どれだけ依頼こなしても火の車ってわけ」
「あははっ! それも相変わらずってやつか。お前、尻に敷かれてんだな」
「いや~、いい装備があるとつい買っちゃうんだよ。みてくれ!この剣なんて掘り出し――」
「あーつぅーしぃー、これはお説教が必要って事ね」
最初こそ距離があったものの、気がつけば昔に戻ったようなやり取りをしていた。
自分でもそれに気がついた悠馬、その顔は心なしか優しく見える。
「3人は昔から仲が良かったんですね! とても楽しそうです!」
アリスの言葉に3人が同時にはっとする。
「3人……そうだな」
「「悠馬……」」
――昔は4人だった。
そう言いかけて悠馬は口を閉じる、居ないはずの4人目を数えるわけにはいかない。
「あっ! ごめんなさい! そんなつもりじゃ無かったんです……」
涙目になり謝罪するアリス、アホ毛も同じ様に萎れていた。
アリスに悪気は無かった、ただ3人の優しい空気に触れ、つい出てしまっただけなのだ。
「いいんだアリス。 悪気無いってのは分かってるから、気にしないでくれ」
「そうよ、アリスちゃん。 気にしないでいいから、ほら泣き止んでちょうだい」
「うう……ありがとうございます」
2人の優しい言葉にアリスは落ち着きを取り戻していく。
「そうだぞアリスちゃん! それに略称とはいえ、同じ名前だなんて偶然にし――って、ぐほぉ!」
突然、淳の身体がくの字に曲がる。
「ったく、あんたは二言目が余計なのよ」
優紀が放った中段突きは、見事なまでに淳の鳩尾を撃ち抜いていた。
「優紀さん……凄いです! 見えませんでした!」
「でしょ! 私は拳闘士だからね、この拳が武器ってわけ」
アリスの称賛を浴び、優紀はドヤ顔で自身の篭手を掲げる。
「あんた達いつまで遊んでんのさ。 悠馬――これからどうするんだい?」
いつまで経っても終わる気配のない茶番にヴァレンタインがしびれを切らす。
「悪い悪い。 そうだな……まずは最低でも4チームで各方角を調査したいと思ってる」
「いてて、っと。 たしかにそれが無難だな、ひとつは俺達『聖天の双翼』が請け負おう」
「ありがとう。 あと2チームか……」
とは言ったものの、悠馬はソロで活動していたため、探索者の知り合いが極端に少ない。
どうしたものかと考えていると――。
「ちょいちょい、ワシらの事忘れとるんやないか? 相変わらず忘れっぽいオッサンやで」




