90. 遊戯盤の上で
声が響いた直後、なんば駅上空に液晶画面のようなものが出現する。
周囲が騒然とする中、画面に少年の姿が映し出される。
「悠馬お兄さん! あの子って」
「あぁ……予想通りだな」
――探索者の皆さん、こんにちは――。
――これから皆さんにはゲームをやってもらいます!――。
画面に映る白いローブを羽織った少年は、楽しそうな口調で話し始める。
「おいっ! いきなり出てきてなんやねん! ゲームってワシらテト◯スでもやらされんのか!」
木森が叫ぶように問いかけるが、少年は返答すること無く説明を続ける。
――いま皆さんがいる場所は中心地です――。
――そこから東西南北にいるボスを倒し、結界の外に出ることが出来れば皆さんの勝ち、ゲームクリアです! おめでとう!――。
パチパチと手を叩きながら、少年は話す。
――しかし、ただ倒すだけでは面白くないので制限時間を設けました!――。
――制限時間は『内部時間』で3日間、この間にボスを倒さないとゲームオーバーです。ざんねん――。
「ワシのこと無視すんなや! ゲームオーバーになったらなんやっちゅうねん!」
――そこのお兄さん、ちょっとうるさいよ――。
――ちょうどいいや、ゲームオーバーになったらどうなるかの見本にしようか――。
少年は口角を上げニヤリと笑うと、顔の高さで指をパチンと弾く。
その瞬間――。
木森の上半身が爆発したように突然吹っ飛ぶ。
下半身だけになった木森の身体は、真っ赤な血しぶきを上げ、力なくその場に倒れ込む。
その凄惨な姿に全員が息を呑む。
――時間切れになったら皆こうなりまーす――。
――って、誰も悲鳴あげたりしないんだね、流石は探索者の皆さんだ!――。
またもパチパチを手を叩く少年。
確かに悲鳴は上げない、探索者である以上『死』は突如訪れると、この場にいる全員が知っているからだ。
ただ、『何の前触れも無く死んだ』いう事実。
その事実だけで、その場に張り詰めた緊張感が走る。
――さて、説明は以上かな――。
――ここからは質問タイムだよ、なにか質問がある人は挙手をおねがいしまーす――。
少しの沈黙の後、1人が手を上げる。
――はい! そこのマヨネーズのキャラクターみたいな頭のお兄さん! 質問をどうぞ!――。
手を上げた男、それは――。
「俺は『聖天の双翼』の坂元と言うものだ。 一緒に入った仲間が何人か居ないのだが、何か知らないか」
「……あいつ、生きていたのか」
「悠馬様、あの方はもしかして……」
生きててよかったと、拳を握りしめる悠馬にノーラは声を掛ける。
「あぁ、幼馴染の淳だ。 先に入ってると聞いてはいたが、まさか生きてるとはな……悪運の強いやつだよ」
――君たちは今日ここに来た人? それとも最初から居た人?――。
「俺達は最初ではないが、今日でもない。結界が出来てから入ってきている」
――なるほど、それなら僕のミスだね――。
「ミス……だと、まさか貴様! ミスで仲間を殺したというのかっ!」
――おぉ! 怖い怖い。 このゲームは200人揃ったら始めるつもりだったんだ――。
――それで今日やっと揃ったんだけど、いきなり色んな所から入ってくるからびっくりしちゃったよ――。
――慌てて進入禁止にしたんだけど、その時すでに200人以上入ってたから、ランダムで何人か減らしたんだよ――。
――だけど、死んではいないから安心して! 外で生きてるはずだから、ほらっ――。
少年はまたも指を弾く、その動作に全員が身構えるも、何も起きる様子はない。
その時、着信音のようなものが鳴る。
坂元が衛生電話を見ると、そこには仲間からのメッセージが届いていた。
「これは……一体。 いや、早とちりで叫んでしまった、すまない」
――ねっ? 大丈夫だったでしょ――。
――さて、次に質問のある人いるかな?――。
その後、いくつかの質問で判明したことは。
・ボス以外にも魔物はいる、外側に向かうにつれ強力になる。
・ここ中心地はセーフティーゾーンなので、襲われることはない。
・結界内にいた一般人は死んではいない、ゲームクリアされれば解放される。
――そろそろ時間かな? 次の人が最後ね――。
何人かが手を上げる中、少年が最後に指名したのは――。
――じゃあ最後は……ずっと僕を睨んでるそこのオジサン!――。
からかう様に微笑みながら、少年は指を指す。
「よう、久しぶりだな。 元気だったか?」
悠馬も少年と同じ様な顔で微笑み返す。
――また会うって言ったじゃないか――。
――僕は元気だけど、まさかそれが質問じゃないよね? ふふっ――。
「まさか、お前もそこまでセコくないだろ。 それで質問なんだが――」
「――俺達に説明していない事は『いくつ』あるんだ?」
悠馬の言葉に全員が驚愕する、それは少年も同じだったようで笑顔が消えている。
――なるほどね、やっぱオジサン面白いね――。
「ありがとよ、それで返答は?」
――そうだね……全部で4、いや5つかな――。
少年は指を折り数える、その姿は年相応のそれだった。
「チッ! そんなにあんのか……」
予想外に多かったのか、悠馬は面倒くさそうにポリポリと頭を掻く。
――あははっ! 最後の質問が面白かったから、サービスで1つ教えてあげるねっ!――。
――ゲームクリア時、生存者全員に『望む物』を『何でも』あげる――。
思いがけない特典に周囲がざわめく。
「何でもだと……それは本当なのか」
――そう、文字通り『何でも』だよ! でも、存在しないものや、概念的なのは流石に無理かな――。
――たとえば『地位』だったり、『なんでも切れる剣』とかね――。
――でも破格でしょ? やる気になったかなー?――。
またもからかう様な顔で少年は笑う。
――これで質問おわり! じゃあみんな――。
「待てっ!」
少年が喋り終わる前に、悠馬が割って入る。
――なに? 質問は終わりだって――。
「質問じゃねぇよ、お前さっき『ゲームは200人揃ったら始める』って言ってたよな」
――そうだけど、それがどうしたの? 200人いるじゃないか――。
「いねぇよ。 お前が殺したから199人だ、ゲームマスターが開始前に前提壊すんじゃねぇよ」
そう言い放つ悠馬の声には怒気が含まれていた。
木森とは会ったばかりとはいえ、あんな簡単に人が死んで良いはずがない。
――たしかにそうだね……オジサンの言う通りだ――。
少年は苦虫を潰したような表情で、右手を顔の前にゆっくりと上げる。
そして、同じ様に指を鳴らす。
――パチンッ。




