88. 地上ダンジョンへのダイブ
突入時間になり、探索者達は自分の探索者証を握りしめる。
それはオグリ家騎士団も同じであった。
「よし、みんな探索者証は持ってるな。 それじゃあ中に入るぞ」
悠馬の言葉に全員が無言で頷く。
悠馬は先頭に立ち、ゆっくりと歩みを進める。
位置としては、集団の真ん中あたりだろうか。
前列が結界内へと入って行く中、アリスが悠馬へ声をかける。
「悠馬お兄さん! さっきはありがとうございました!」
「さっき、って……あの『糸目の関西弁』の事か」
「はい。 初めて会う感じの人だったので、ちょっと困っちゃいました。えへへっ」
少し萎れたアホ毛から、アリスの困っていたという感情が伺える。
「なかなか居るタイプじゃないのはたしかだな」
「はい。 ……でも悠馬お兄さんちょっと怖かったです」
「そうか?」
「アリスお嬢様の仰る通りかと、あそこまで警戒する必要はないのでは?」
悠馬に対し、アリスと同じ印象だったのだろう。
一緒に歩いていたノーラも会話に入ってくる。
「うーん、なんて言うかな『お約束』ってやつなんだよな」
「『お約束』って、アンタがワインくれた時にも言ってたヤツかい?」
いつの間にか、近くを歩いていたヴァレンタインも参加してくる。
「そうそう。 『魔女っぽい人はワイン好き』だし『糸目の関西弁』は……」
一瞬タメを作る悠馬、次の言葉に全員が耳を傾ける。
「――信用するな。 ってな」
「「「はっ?」」
ドヤ顔の悠馬とは対象的に、全員が呆気に取られた表情で足を止める。
「悠馬お兄さん。ちょっと、よく分からないです」
「悠馬様、見た目で人を判断していたのですね。良くない傾向かと存じます」
「アンタ、それだけの理由で怒ったってのかい?」
「ユーマよ……たしかに好意的では無かったが、それはちと厳しすぎやせんか」
「いやいや! それが『お約束』なんだって! 『糸目の関西弁』って策略家か詐欺師って相場が決まってんの! そ、それに態度だって悪かっただろ?」
全員からの非難を浴び、悠馬は慌てて弁明するも『時既に遅し』のようだ。
「もう終わったことだし、もういいだろ! それにこんな所で立ち止まっちゃ邪魔になる、ほら行くぞ!」
言いくるめることも出来ず、悠馬は半ば無理矢理に、全員の歩みを再開させる。
「さて、入ろうか」
結界まであと一歩という所で、悠馬は改めて気持ちを切り替える。
踏みしめるように足を踏み出し、中へと突入する。
一瞬視界が白に染まる、それはトンネルから外に出た時のそれに近かった。
次第に目が慣れていき、視界がクリアになった所で全員の方へと振り返る。
「よし、全員居るな。 このまま周囲の探索へと移ろうか」
全員が無事に中へと入ったことを確認した悠馬は、次の行動の指針を示すが、それと同時に違和感に気付く。
「悠馬お兄さんどうしたんですか?」
アリスの言葉に返事すること無く、悠馬はメンバーの後方を見つめていた。
「……俺達って最後尾じゃなかったよな?」
「仰る通りです。 予想ですが、集団の中心より、やや後方に位置していたかと」
悠馬の問いにノーラが答える。
その時、全員同時に違和感に気付く。
「だよな。……じゃあなんで、俺達の後ろから誰も入って来ないんだ?」
悠馬の言う通りだった、オグリ家騎士団の後ろには他の探索者たちもいた。
なのに、まるで自分たちが最後尾だったかのように、後続組が突入してくる気配が無い。
そのまま結界の内側から外側を見ていると――突然声が響く。
――『やっと集まったね』――。
その声は、大型のスピーカーを通した声のようでもあり、また、直接脳内に響くような声でもあった。
「なんだ今のは……と、言うか今の声って――」
悠馬は声の出所を探ると同時に、その声に覚えがあった。
「悠馬お兄さん! 今の声って!」
アリスだけじゃない、ノーラを除く全員が声の主に気付いた様子だった。
その時――浮遊感が全員の身に襲いかかる。
それは、ダンジョンの脱出ポータルを使用した時と同じ感覚だった。
全員がいつもと違う、いつもの感覚に驚いていた時、悠馬の視界に突然『青い矢印』が浮かぶ。
「――くっ! 全員お互いの手を握れ! 絶対に離すなっ!」
悠馬の声に従い、全員が円を描き手を取り合う。
アリスはノーラと、ノーラはドレイヴンと、ドレイヴンはヴァレンタインと、ヴァレンタインは悠馬と、それぞれ右手で相手の左手を掴む。
最後に悠馬が右手でアリスの左手を掴もうと、手を伸ばしたその時――視界が白く染まる。




