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戦闘スキル無しの元・狂戦士 ~案内人は最短の矢印で最強の異世界騎士団を導き現代ダンジョンを無双する~  作者: くるまAB
第4章:過去と未来の遊戯盤

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86. 仕込みは上々、あとは

 難波に設置されている、キャンプ地に到着した一同。

 目の前には、光のカーテンのようなものが広がっている、それは空高くまで続き、見上げても終りが見えないほどだ。


「この中がダンジョンってことなのか?」


 空に広がるそれは、視界の全てを白に染め、天を衝くほどに強大な代物だった。

 中を見ようと目を凝らしてみると、何かが動いているような気はするが、まるで濃霧のなかのようで、解像度が低い。


「これじゃ、何も見えないな。 アリスは何か見えるか?」

 

 隣で同じ様に中を見つめているアリスに悠馬は声をかける。


「いえ、見えないです。 何かあるなぁくらいですね」


 やっぱりかと視界を外そうとしたその時、何かが目の前を通り過ぎる。

 それは、高さ10メートルを超える大きな影だった。


「……なんだ今のは」


 悠馬とアリスが驚いていると、府後がこちらへ近づいてくる。


「多分ですが、内部の魔物かと思われます」


「魔物……デカいな」


 大きさだけでいえば、あのドラゴンゾンビと同等くらいだろうか。

 そんな巨体が地上に出現している事に驚きを隠せない。


「そろそろブリーフィングの時間です。 悠馬様こちらへ」


 府後に案内されプレハブ小屋へと移動する。

 全員で行こうとしたが、今回はリーダーのみという事らしく悠馬1人で中へと入る。



 ――――



「で、会議の内容は?」


 ブリーフィングが終わり、皆の下へと戻ってきた悠馬。

 各パーティーごとにホテルが準備されており、オグリ家騎士団もホテルへと移動していた。

 

「明日の8時に中へと突入するようだ。 入口は無いが探索者証を所持していれば、何処からでも入れるらしい」

「不思議なもんよのう、まるで帝都の結界みたいではないか」


「似たようなのがそっちの世界にはあるのか?」

「うむ。 帝都の城には強大な結界が貼られておる、結界の中に入るには、各家に与えられた紋章入りの短剣が必要となる」


「持ってないとどうなるんだ」

「見えない壁のようなものに阻まれるだけよ。 叩いてもビクともせん壁にな」


「お父様! そんな事したら守衛さん達に怒られますよ!」


「い、いや。 わしは悪気は無くてだな……」


 ほんの出来心だったのだろう、だが娘に責められドレイヴンは冷や汗をかき始める。


「そ、そんな事よりユーマよ! 他に何かないのか!?」


「たしかに話が逸れたな、俺達は結界の西側から中へ入る事になっている。 ここからだったら……7時くらいに起きれば大丈夫か」


「それより内部の事は聞けたのかい?」

「あぁ。 分かっている事だけだがな――」


 悠馬が管理局から聞いた内容は。


 ・結界内部では魔物がいたる所に存在している。

 ・通信機器は衛生電話のような電波が強力なものしか使用できない。

 ・外に出る方法は今のところ不明。

 ・中心部に行けば行くほど魔物の強さが上がるが、離れている場所でも特級ダンジョン中層レベルが最低ライン。


「今わかっているのは、そのくらいらしい」


「悠馬様。 管理局はその情報をどうやって仕入れたのですか?」

「どうやら、初動で救援に向かった探索者達に衛生電話を渡していたようだ。 ただ――」


「ただ、なんでしょう?」

「通話はどうやっても無理みたいで、電波を利用したメッセージのやり取りに留まっているらしい、そのメッセージもラグがあるみたいだけどな」


「ラグ……ですか?」


 管理局が言うには、通話はコール出来るものの何故が応答がない、そしてこちらへ掛かってきたコールに出ても無言。

 メッセージで時間確認などの検証を行った際に、数十分長いときには数時間のズレが生じているとの事だった。


「なるほどねぇ……」


 情報を整理していたのだろう、黙っていたヴァレンタインが口を開く。


「何か分かったのか?」

「あぁ。 分かったと言っても、ほんの少しだし私の憶測だけどね。 今はそれを考えても仕方ないよ、それより準備だね」


「準備? そんなの必要か? と、言うより今から何の準備が出来るんだ」

「リーダーのくせにだらしないねぇ。 料理だって仕込み8割っていうくらいだ、無策で未知に飛び込むやつがあるか」

 

 そう言ってヴァレンタインは、ドレイヴンのホルダーから様々なものを出してもらう。

 その中にはダンジョンへダイブした時に装着した、あの黒い棒のようなものも含まれていた。


「まずはコレだね」


 ヴァレンタインが最初に手に取ったのは『黒い板』だ。


「これは簡単なメッセージが書ける板だったんだが、改良して通話とメッセージのログを保管出来るようにしてある」

 

「……これは、高齢者向けのスマホみたいだな」


 渡された『黒い板』を触っていた悠馬がもった感想は正しい。

 大きめのアイコン、特定の相手への通話方法、SMSのようなメッセージ機能。


「あんたが貸してくれたスマホを解析して改良――って、そこのバカ親子は、使い方を悠馬から聞くんだね」

「ぬっ! バカ親子とはワシらの事か!」


 アリスとドレイヴンは渡された『黒い板』を振ったり、叩いたりしている。

 それとは対象的に、ノーラは悠馬と簡単なメッセージ機能を試していた。


「悠馬お兄さん! 早く教えてください、私もめっせーじしたいです!」

「はいはい……後でな」


「次はコイツだね」


 続いてヴァレンタインは『黒い棒』を取り出し、悠馬へと投げる。

 

「それはダンジョンに入った時につけたやつか。 これは一体何なんだ?」


「これは……『モバ充』だよ」


「「「モバ充?」」」


 悠馬とガードルド親子の頭上に「?」マークが乱舞していると、ノーラが口を開く。


「通称『モバ充』。 モバイル充電器、またはモバイルバッテリーと呼ばれるものですね」


「それって、スマホとか充電するやつか?」

「悠馬様の認識であっております。 少し前ですと『モバブ』とも呼ばれていたようですが、今は『モバ充電』が一般的かと」


「なるほどね。 その充電器が何だってんだ、てかノーラよくそんな単語知ってんな」

「お褒めの言葉、ありがたく存じます」


 ややドヤ顔のノーラが優雅にお辞儀をしていると、ヴァレンタインが説明を始める。


「その棒の端にボタンがあるだろう? これを押すと――」


 言いながらヴァレンタインは『黒い棒』の片面にあるボタンを押す。

 その瞬間、室内の空気が少し重くなる。


「これは――魔素かっ!」


「さすがは辺境伯だね。 その通り、これは魔素を溜め、放出することが出来る。 放出された魔素の質は、溜めた場所に依存する」


「「「「――!」」」」


 魔導具の思わぬ効果に全員が絶句する。

 魔素を放出出来る、しかも溜めた場所は特級ダンジョン深層。

 すなわち、場所を問わず己のポテンシャルを最大限高める事が可能だという事になる。


「ヴァレンタインさん、凄いです!」

「その通りである! これならばワシも全力が出せるというもの!」


 全力で戦える事に歓喜するガードルド親子、それとは対象的に悠馬はゆっくりと呟く。


「これは、何というかスゲェな。 これだったら……ノーラ」

「はい。 どこであれ、ほぼノーリスクで回復魔法の行使が可能かと」


「まじか……」


 期待通りのノーラの宣言に、悠馬は静かに歓喜する。

 『誰も失わないかもしれない』、その希望が目の前にあるのだ。


 ゆっくりと目を閉じ、ぐっと『黒い棒』を握りしめる。


「盛り上がってるとこ悪いが、次が最後だね――」


 勿体つけるように、ヴァレンタインが手に取った物は――。

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