85. 戦場前の戦場
「そういえば、皆はヘリコプターを知ってるのか?」
屋上へと向かうエレベーター内で、悠馬は皆に問いかける。
誰一人として疑問を投げてこないことを不思議に思ったのだろう。
「知ってますよ! こないだテレビでみました! エッヘン!」
「そっか、それならいいんだが」
先日アリスたちは、ドクターヘリが登場するニュース番組を観ていた。
事前知識はあるが故に疑問も無ければ、不安もないといった所だろう。
「それならばワシも見ていたぞ! 侮るでない!」
「……ちなみに、見たのはどんな形だったんだ?」
悠馬の質問に、ノーラが毅然とした態度で返答する。
「球体の小尾に長めの柱、そして上部には回転する羽根……それがヘリコプターかと」
「あぁ……そうゆう事か」
「なにさ、何か問題でもあるってのかい?」
ヴァレンタインの言葉に少しの怒気を感じつつ、悠馬は口を開く。
「いや、何というか……見れば分かるか」
しばらくするとエレベーターが屋上へ到着する、その時アリス達の目に飛び込んで来たのは――。
――――
「な……なんですか、アレは」
「ユーマよ! あんな物が空を飛ぶわけなかろう!」
「だよねぇ……やっぱ、こうなるか」
アリス達の目の前にあるのは『大型輸送ヘリコプター チ◯ーク』。
鮮やかな迷彩柄に身を包む、最高速度250km/hオーバーの化物ヘリだ。
「悠馬お兄さん! フェリーはまだ分かります! でも、アレがここに居る全員を乗せて空に浮かぶなんて――ありえません!」
「……ワシは、馬で行く。 おい!だれぞ馬を用意するのだ!」
「お館様。 私も同行させて頂きます」
まさに阿鼻叫喚だった。
そんな中、ヴァレンタインだけは落ち着いた様子で、チ◯ークを見つめている。
「ヴァレンタインさんは大丈夫っぽいな。 それともあれか? 好奇心のほうが上回ってる感じ?」
「……いい」
「えっ?」
「いいわぁ、なんてエロさなの……胴長で丸みの帯びたフォルム、さらに羽根が2枚も交互にイヤらしく交わってるなんて――スケベを具現化しているようなモノだわ!」
ヴァレンタインは頬を紅潮させながら、内股のまま身体をクネクネと捩らせている。
その姿に周囲の男性探索者達は釘付けになる。
「ヴァレンタインさん! ストップストップ! なんか変なこと言ってるし、周囲に悪影響が出始めてるって!」
「悠馬お兄さん! 車で行きましょうよぉ」
「馬だ! 早く馬を持って参れ!」
「いいわぁ~、ずっと見ていたい……でも、アレの体内に私が入るという背徳感も……たまらないわねぇ」
萎れたアホ毛で悠馬の腕を掴むアリス、叫ぶドレイヴン、クネるヴァレンタイン。
出発前から収集がつかなくなっていた。
「なんなんだ一体! ノーラ! 黙ってないで手伝ってくれ!」
悠馬は無理矢理機内へと3人を押し込もうと奮闘しているが、全員が自由に動き回るため、なかなか上手く行かない。
「悠馬様。 今より望海様に預けた鍵を持ってまいります」
メガネをクイッと上げたかと思うと、ノーラは元来た道へと走りさそうとする。
「待てって! これ以上レンジを広げないでくれ! 対応出来なくなっちまう!――って、だから行くなって!」
――――
「うぅ……。 私は大阪グルメを食べることなく、天に召されてしまうのですね……グスッ」
「体内までこんなに無機質でスケベだなんて、最ッ高!」
「……」
職員達に助けを借りつつ、なんとか全員を機内に乗せることは出来たものの、相変わらず騒がしい。
ドレイヴンに至っては、あぐらをかいたまま、地蔵のように目をつぶって黙りこくっている。
「はぁ……行く前から疲れるっての。 ノーラはもう落ち着いた感じか?」
「……私は覚悟を決めたまでです」
そう言いながら、ゆっくりと立ち上がるノーラ。
「覚悟?」
「はい。 浮上を阻止するため、今より――御者を殺します」
投げナイフを両手に装着し、ノーラは歩き出す、その表情はまさに覚悟を決めた者のそれだ。
「なんだその物騒な覚悟は! いいから黙って座ってなさい!」
全員を無理矢理イスに座らせ、ベルトを締める。
悠馬は職員へ謝罪しつつ、問題ないことを告げる。
「望海から軽食もらってんだ、機体が安定したら皆で食べよう。 そうしたら、少しは落ち着くだろ?」
全員覚悟を決めたのか、浮上後は落ち着いた様子だった。
サンドイッチ等の軽食をつまみながら、目的地へと進む機内での時間を過ごす。
約2時間で目的地の大阪へと到着した一同。
後部のハッチバックから、続々と探索者が降りていく中にオグリ家騎士団もいた。
「やっと着いたか、2時間とはいえ座りっぱなしってのは身体にくるな」
悠馬は固まった全身をほぐすかのように伸びをしている。
「お父様! 地面です!」
「そうだな! もう恐れる事など無いというもの! ガハハッ!」
「あぁ……もうお別れなのかい、残念だよ」
「みんなにいいニュースと、悪いニュースがあるけど聞くか?」
悠馬はいたずらを思いついた子供の様な顔をして、全員に振り返る。
「悠馬様……まさかとは思いますが」
悠馬はニヤリと口角を上げつつ答える。
「帰りもアレに乗って帰るに決まってんだろ!」
またも泣きそうになるアリス。
絶句するドレイヴン。
投げナイフを構えるノーラ。
そして、紅潮するヴァレンタイン。
その姿をニヤつきながら見ていたら、府後が探索者達の前に立ち説明を始める。
「今より目的地の難波に向かいます。 そこで全国から招集された者たちと合流、その後――状況開始です」
その場にいるもの全員に緊張が走る。
地上のダンジョン化という、誰も遭遇したことのない現象への挑戦。
だが、緊張だけではない。
得てして探索者とは好奇心が高い、さらに上級ホルダーともなれば人並み以上だろう。
それは、特級ホルダーであるオグリ家騎士団も例外ではない。
先程までは打って変わって、全員が戦闘モードとなる。
颯爽とバスへと乗り込む悠馬達の顔は、まさに戦士そのものだった。
――いざ戦場の地、難波へ。




