84. 魔導具の秘密と激励
「ダンジョンに着いたはいいが、一体なにをするつもりなんだ?」
ヴァレンタインに従い、特級ダンジョン『虚無の門』へと到着したオグリ家騎士団。
いまだ何をするかを教えない事に、悠馬は少し苛つきながら問いかける。
「そうね、とりあえず下層……いえ、深層まで行きましょう」
「それはジャンプでもいいのか?」
悠馬の問いに対し、少し悩んだ様子でヴァレンタインは答える。
「……大事なのは到着した後だから、ジャンプでも問題ないわ」
「じゃあ、さっさと行くか。 時間はあるとはいえ2時間、いやあと90分くらいか」
到着に30分ほどかかった事を考えると、猶予は60分程度しかない。
オグリ家騎士団は足早にジャンプ施設へと移動する。
――――
「深層階についたな。 そろそろ何するか教えてくれていいんじゃないか?」
「そうね。ドレイヴン、朝渡したアレを出しなさい」
「ぬっ。 よくわからんアレか、少し待っておれ」
ドレイヴンのホルダーから、いくつか道具のような物が取り出される。
「さぁ、あんた達――準備は良いかしら」
ヴァレンタインに言われるがまま、謎の道具を装着される面々。
――――
「で、コレは一体なんなんだ」
そこには上半身に、ベルトをたすき掛けしている悠馬が立っていた。
ベルトは左右2本あり、小さな黒い棒のようなものが等間隔で装着されている。
「すこし動きにくいです、でも何かワクワクします!」
アリスは両手を振り回しながら、可動域を確認しているようだ。
「なんというか。 ドレイヴンさんはでかいからラ◯ボーみたいだし、ノーラは戦闘メイド……『すべての不義に鉄槌を』とか言いそうで怖い」
同じ装備を付けさせられている2人の姿は、フィクション世界のキャラクターのようだった。
「よくわからんが、全ては今から始まるのであろう? 始まる前に終わってどうする!」
「……お望みとあらば、小栗の名に誓いましょう――」
「ちょいちょい! ……よくわかんぇけど、どっかから怒られそうだから、これ以上はストップな!」
フィクション世界の2人に悠馬は慌ててツッコミをいれる。
「いいじゃないか。 全員よく似合っているよ」
「と、いうか……ヴァレンタインさんは付けないのか? コレ?」
「私はいいんだよ。 他にやることあるんだから」
やれやれといった雰囲気で、ヴァレンタインは手のひらをヒラヒラと動かす。
「まぁいっか。 で、これからどうするんだ」
「なにもしないよ。 そのまま立ってな」
「えっ?」
「いや。だから、そのまま立ってなって。 それで十分なはずだから」
一同はよく分からないといった状態のまま、その場に立ち尽くす事となった。
定期的にヴァレンタインが、ベルトに付いた黒い棒を「ふむふむ」と見てはいるが、他に何かをしている様子はない。
――――
「ヴァレンタインさん。 そろそろ戻る準備しないとまずくないか?」
突っ立ったまま、40分以上が過ぎようとしていた。
その間、魔物に襲われることはあったが、ヴァレンタインとノーラの魔法で難なく撃退していた。
「そうね、そろそろ脱出しようか。あぁ、ベルトは付けたままで行くよ」
ベルトを外そうとする悠馬たちを、ヴァレンタインは阻止する様に声をかける。
「ぬぬっ! このままでは少し動きづらいのだが……」
「やかましい男だね。 いいからさっさと主の間までいくよっ!」
「動いていいんですね! よぉ~し『ドーン!』って、やってやります!」
「アリスよ! どっちが先に倒すか勝負だ! ワシが負けるはずが無いがの! ガハハッ!」
ガードルド親子を先頭に、数階先の主の間を目指す。
何事もなく主を瞬殺し、脱出ポータルを使用して地上へと戻る、ここまで10分という強行であった。
「さっ、ベルト外しな」
「結局、コレは何だったんだ?」
ベルトを外しながら、悠馬は疑問を投げかける。
「必要になった時に説明するよ。 それまでは、ひとまず保管だね」
黒い棒が装着されたままのベルトを、ドレイヴンに渡しホルダーに収納してもらう。
「ヴァレンタイン様の最新魔導具――きっと素晴らしい物に違いない事でしょう」
「ノーラの言う通りです! 何かの役にたつと予感しています!」
「そういうもんかね……」
相変わらず釈然としないまま、管理局へと戻るため車を走らせる。
――――
「よし、時間通りに戻って来れたな」
時計は13時50分を指している、管理局ロビーには30名ほどの探索者らしき人物たちが集まっていた。
どうしたものかと立っていると、奥から望海が走ってくる。
「よかった! 戻ってこないかと思ったわよ!」
「そんな事あるわけないだろ。 それより、これからどうしたらいいんだ?」
「あんた達が最後だったのよ。全員揃ったから、これから局長の話があって出発って流れね」
「そっか、じゃあ待つとしようか」
そのままロビーで待っていると、数分もしない内に府後がロビーへとやってきた。
「探索者の皆様! この度、お集まり頂き感謝いたします」
上等そうなスーツを身にまとった府後は、探索者達の前に立ち声を上げる。
「この場にいるのは、全員が上級ホルダー以上、なかには最近特級ダンジョンを攻略した強者も含まれております」
府後の発言に周囲がざわつく、それもそのはず、オグリ家騎士団の特級ダンジョン攻略は、公には告知されていないのだ。
しかし、中には独自のルートで情報を仕入れたものもいるのだろう。
いくつかの視線を感じつつ、悠馬達は府後の声に耳を傾ける。
「皆様への依頼内容としましては、探索者と一般人の救出となっております。 詳細については移動中に説明いたしますので、屋上のヘリポートまでご移動お願いいたします」
少しの喧騒を残しつつ、探索者達は移動を開始する。
それに追従するように、悠馬達も移動を始める、途中窓口にいた望海に声をかける。
「お前は来ないのか?」
「行かないわ。 私がついて行った所で管理局で待機が関の山。 それならこっちで待ってるわ」
「たしかにそれもそうか……じゃあ、たまにで良いから車のエンジンかけてやってくれ」
悠馬は地下駐車場に停めている、キャンピングカーの鍵を望海にわたす。
「わかったわ、でも……無事に帰って来なさいよね」
「任せとけって。 ――な? 皆」
「ガハハッ! ワシがおるのだ! なにが来てもぶっ飛ばしてくれるわ!」
「望海さん! 帰ってきたら、またお買い物行きましょう! 早く新しい服を来てみたいです!」
「いまだ、果たされいない約束事が残っております。 戻り次第、遂行して頂けますようお願いいたします」
「心配しなくてもすぐ戻ってくるよ。 それよりアンタ、昼食の準備は出来てるんだろうね?」
「ほらな? 安心しろ、お前が担当してるのは『オグリ家騎士団』だ。 最強パーティーの看板背負って、すぐに凱旋してやるよ」
「全くもう、アンタ達は。 ――いってらっしゃい!」
「おう!」
準備は整った、後は向かうだけだ。
関東地区最強パーティーは、一路大阪へと歩みを進める。




