80. 日常は滞りなく進行する
本日より第4章スタートです。
当面は投稿、2日明けて次話投稿という流れになるかと思います。
引き続きよろしくお願いいたします。
特級ダンジョン踏破パーティー翌日、小栗家は不思議なほどいつも通りの日常を送っていた。
「ふぁ……おはよう。 って、もう全員揃ってんのか」
あくびを噛み殺す事もせず、悠馬は居間の扉を開ける。
そこには、ガードルド親子、ノーラ、ヴァレンタイン、そして望海の姿があった。
ガードルド親子は朝練後だろうか、風呂上がりのいい香りがしている。
ノーラは朝食を配膳しつつ、悠馬へ返事をする。
「悠馬様、おはようございます。 間もなく朝食の準備が整いますのでお座り下さい」
ノーラに促され、悠馬はいつもの席へと腰をかける。
すると、次第に朝食が並び始めテーブルを彩っていく。
鮭の白だし漬け焼き、ネギ入りだし巻き卵、ほうれん草の胡麻和え、焦がしネギの味噌汁、お隣さん特製の梅干し、そして――唐揚げ。
「今日は和食か……最高じゃないか。 って唐揚げ!?」
「悠馬お兄さん! 朝は唐揚げと決まっているのです!」
「ガハハッ! ノーラの唐揚げは最高だからな、朝から食えるとは正に天国!」
アリスはアホ毛をブンブンと振り回し、大皿の唐揚げを取り皿に盛り付ける。
隣に座るドレイヴンは、唐揚げを白飯の上にこれでもかと盛り付け、マヨネーズを回しかけている。
「はぁ……。 朝から胸焼けがする光景だな」
悠馬は2人の食事風景を見ながら、味噌汁をすする。
――――
「で、今日はみんなどうするんだ」
食後のコーヒーを飲みながら悠馬は、誰ともなしに問いかけた。
「私はバッグを買いに行くわ! もちろんアリスちゃんも一緒よ」
昨日、はやくも200万円をねだってきた望海は、お目当てのバッグを買いに行くようだ。
「ん? アリスも一緒にいくのか?」
「はい! 望海さんが、わたしに似合う服を選んで下さると! 楽しみです!」
いつの間に決まったのか、2人は一緒に買い物へと向かうようだ。
「私服がしま◯らだけって、どういう事よ! ……とまぁ、そういうわけで、悠馬あんた街まで送りなさい」
「なんでだよ、電車あるだろ。 俺は忙しいんだよ!」
悠馬は面倒くさそうに、ポリポリと頭を掻く。
「レンタカー返却に行くんでしょ? それなら、ついでって事でいいじゃないの」
「あぁ……それもそうか」
悠馬は庭先を見つめる、そこにはレンタルしているミニバン。
その横に、立派なキャンピングカーが並んでいる。
「府後が準備したって車だね。 立派じゃないか」
「ヴァレンタインさん、あれは立派なんてもんじゃないよ。 もはや――移動する家だな」
田舎の一軒家に似つかわしくないその車は『ジェイ◯ライト』、車体には山岳のイラストがプリントされている。
下手をすれば、このあたりの中古戸建てより値段が張る可能性すらある。
「ガハハッ! なんにせよデカいというのは良いことだ! これでオーサカまで行くのであろう?」
「いや、さすがに行かねぇよ。 局からヘリが出るらしいから、大阪へはそれで行くつもりだ」
わナンバーで移動するオグリ家騎士団を心配した府後は、全権を持って車を手配していた。
昨日、管理局から出発する前に渡されたのだ。
その結果、帰りはレンタカーを望海、キャンピングカーを悠馬が運転して帰宅している。
「えぇ~残念です……」
アリスは人差し指をツンツンしながら、涙目で悠馬に訴える。
「そんな顔しても駄目だぞ。 それに、運転出来るの俺だけじゃねぇか。着く前に疲れ果ててしまうわ」
アリスの希望をぶった切り、悠馬は話を進める。
「じゃあ、レンタカー返すついでに2人を街まで送るよ。 帰りはどうするんだ?」
「電車で帰って来るつもりよ。 到着前に連絡するから迎えに来てよ」
「えっ!? お前、今日も泊まる気なのか!」
「なによ悪いの? 残念ながらあんた以外、全員の許可はもらってま~す」
誇らしげに言う望海、悠馬は全員を見渡すが異論がある者はいないようだ。
「っかく……しゃーねぇな。 で、残りのみんなは?」
悠馬の問いに、ノーラは家を開ける準備があると、ヴァレンタインは魔導具の制作をすると答える。
「なるほど。 で、ドレイヴンさんは?」
「ワシか? ワシはダンジョンに行くぞ」
「ダンジョンだって!? 身体休めなくていいのかよ?」
ドレイヴンの意外な回答に、悠馬は驚きを隠せない。
「ガハハッ! 逆に休むと鈍るというものよ。 そういうわけで、お主のオススメの所までワシも送ってくれまいか!」
「そういうもんなのか……? じゃあ、2人を送ってからダンジョンまで連れてくよ」
そこで悠馬はふと思い出す。
「ドレイヴンさん、剣折れてなかったっけ? 代替品とかあるのか?」
悠馬の指摘はもっともだ。
特級ダンジョン最深部での戦闘で、ドレイヴンの愛剣は使い物にならなくなっていた。
「そんなものブン殴れば良い! ワシの見立てでは、特級中層までならばコイツで十分よ!」
ドレイヴンは誇らしげに、右手の握りこぶしを掲げる。
「たしかに……。 あんたが言うと、説得力が半端無いな」
ガハハと笑うドレイヴン。
どこに案内するかと思案しつつ、悠馬は全員に声をかける。
「今日を含めて2日間自由行動だ。 英気を養うもよし、オグリ家騎士団全員準備を怠るなよ!」
「「「おーー!」」」
声高らかに、望海を含める7人は拳を掲げる。
ある者はショッピングで英気を養い。
また、ある者は未知への挑戦のため身体や、事前準備を開始する。
悠馬はレンタカーのキーを握りしめ、少し微笑みながらつぶやく。
「さて、オグリ家騎士団しゅちゅ陣だな」
「悠馬お兄さん、噛みました」
「あんた……噛んだわね」
「なんとも締まらんのぉ」
「まだまだ、坊やって事だね」
「それもまたチャーミングかと」
「くっそ! 寝起きだからだ! 朝風呂浴びてくるから準備して待ってろ!!」
お隣さん特製の梅干しのように、顔を真っ赤にして悠馬は風呂場へと足早に急ぐ。




