閑話 3 名古屋の夜 後編
「すごい……夜なのにこんなに明るいなんて」
しま◯らルックのアリスとノーラは、ホテルを出て名古屋の街を散策していた。
「そうですね。 悠馬様の家付近も明るかったですが、正に桁違いですね」
それもそのはず、悠馬の家は田舎と言っても差し支えない地区にある。
その場所を、5大都市と比べようという事自体、おこがましいのだ。
「ノーラ見て下さい! あの信号機ヘンです! 浮いてるみたいです!」
「たしかに……更には、どこを見ればいいのでしょう。」
2人は裏門前町通の交差点に立っていた。
そこにあるのは、観光地となっている『UFO信号機』だ。
2人そろって見上げていると、男が声を掛けてくる。
「お姉さんたちどこから来たの? ひまなら一緒にご飯食べない?」
物珍しそうに信号機を見ていた2人、田舎者にでも見えたのだろう。
軽薄そうな男は、ニヤニヤと笑いながら近づいてくる。
「結構です。 アリスお嬢様行きましょう」
ノーラはアリスの手を引き、その場を離れようとする。
「ちょっと待ってよぉ。 そっちの可愛い子はどう? 美味しい手羽先食べたくない?」
「てばさき! なんか美味しそうな響きです!」
美味しいという単語に釣られそうになるアリスを、ノーラが叱責する。
「アリスお嬢様。 食べ物に釣られるとは、城下町の子供以下ですね」
「えぇっ! ひどい!」
「酷くありません。 全く、――行きますよ」
ノーラは再びアリスの手を取り、男へと背中を向ける。
「おい! って、無視してんじゃねーよ」
無視された事に怒った男は、ノーラの肩へ手を伸ばそうとした直後――。
男の目の前には『UFO信号機』が映っていた。
「汚い手で触らないで下さい。 次は、転ばすだけでは済みませんよ」
怒気を含んだノーラの言葉に、男は震えが止まらない。
「アリスお嬢様。 次へまいりましょう」
――――
先程乗った観覧車を目印に進み、2人は栄地区にたどり着いた。
「これは……お店ですか? たくさん商品があります!」
「たしかに凄いですね。 しかし、こんなに店先に並べて、盗難の恐れはないのでしょうか」
目の前にあるのは超有名な激安店『ドン・◯ホーテ』。
店先に並ぶ商品の数々、物取りを心配しつつ2人は中へと入っていく。
「天井まで商品がいっぱいです! すごいです! あと、この音楽も楽しい気分になります!」
「まさに、圧巻という言葉が相応しいですね。 どれも見たことの無い商品ですし、それに……」
「それに?」
「あの、動物のようなキャラクター……なんと魅力的なのでしょう」
店内に入った2人を待ち構えていたのは、ドン・◯ホーテ名物『圧縮陳列』。
通路、棚と所狭しと商品が並ぶその姿は、まさに殿堂。
ドン◯ンに目を輝かせるノーラの横で、アリスは指をツンツンさせる。
「宝探しみたいで楽しいです……でも」
「そうですね。 所持金のない私たちにとって、これは目の毒です。 外に出ましょう」
外に出た2人は、ホテルに戻ろうと元きた道へと歩みを進める。
その時、先程見た錦地区が目に入る。
「あそこは一段と明るいですね」
「ノーラ! 少しだけ行ってみましょう!」
「しかし……この格好では、悠馬様のおっしゃる通り、街に対し私たちが浮いてしまいます」
「少しだけ! ねっ? 早歩きで行けば大丈夫です!」
「仕方ないですね……少しだけですよ」
その日、通行人達が目にしたのは『超高速競歩をする女性2人』だった。
走る速度より速く移動しているが、前傾姿勢ではなく背筋が伸びた状態、しかも恐ろしく速い。
「見て下さい! ピンク色のお店に入る男の人の目がエッチです」
「アリスお嬢様、見てはいけません。 先ほどとは別の意味で目に毒です」
「うわぁ~……高そうな車です。 悠馬お兄さんの車より、高級な感じがします」
「たしかにそうですが、この狭い道を通るとは……何とも品性が疑われますね」
「こんどは豚さんじゃなくて、男性が看板になってます!」
「しかし『世界』ですか……貴族以上の存在という事でしょう。 まさか、大陸をまたぐ実力者!?」
「ノーラ! あっちにも同じ男性の看板があります!」
「なんと! 豚が王の街で、これほどまでに影響力があるとは……『山◯ゃん』覚えておきましょう」
この出来事は、後に『しま◯ら高速広告事件』として語られる事となるが、本人たちが知るよしも無い。
「いやー! 楽しかったです! いろんな物が見れました!」
「そうですね。 私たちの知らない事が、この世界には多いようです」
2人はホテルへと到着すると、エレベーターで部屋へと向かう。
「では、アリスお嬢様。 どうぞ」
「えへへっ! ありがとうノーラ」
手渡されたカードキーを、アリスはゆっくりと機械にかざす。
悠馬に黙って外出した後ろめたさと、未踏の地を散策した冒険のかすかな高揚感。
全ての思い出と、名古屋の夜を締めくくるかの様に、機械が反応する。
『――ピッ』
――――
初の閑話、いかがだったでしょうか?
4章は3日後の5月14日より公開いたします。
毎日投稿は厳しそうなので当分は週3くらいになると思います(汗
ストックが溜まったら毎日投稿再開予定なので、その時はよろしくお願いたします!




