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戦闘スキル無しの元・狂戦士。~案内人の男、最短の矢印で最強の異世界騎士団を導き現代ダンジョンを無双する~  作者: くるまAB
第3章:変革する日常と加速する世界

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75. 対話が示す可能性

「喋る……だと」


 想像もしていなかった現実に、悠馬の思考が止まる。


『どうした、返事も出来んか。もしくは、ワシと交わす言葉など無いと……そう申すか』


 赤い武士が話し終えるやいなや、強烈な突風が巻き起こる。


 桜吹雪が円を描き、悠馬たちを襲う。


「くっ! 前が見えない」


 いまだ反応しない、『矢印』に苛立ちながら突風の中、敵を見据える。


 風が落ち着いたとき、ヴァレンタインが赤い武士に話しかける。


「えっと、ブシ?さんでいいんだっけ? あんた人間なの?」


『人間か……定義はどうなるのであろうな。 生きているのが人間であれば、われはきっと違うのだろう』


「どういう意味かしら?」


『「人間五十年、下天のうちを比ぶれば」……と、お館様は仰っておられた。 だが、われはこの地で既に、百五十もの年月を数えてしまった』


「あら、奇遇ね。 私も同じようなものよ」


『確かに、お主からは同じような気配を感じる……そこの、若造。 われは人間か?』


「(人間五十年……信長の「幸若舞」だ。 ってことはこいつ、戦国時代の……!? 150年? 日本じゃ450年も経ってるのに、一体どういう事だ。)」


「またも返答無しか……ならば、口を開かぬまま死ぬが良い」


 赤武士は、大太刀を両の手で掴み水平に、ゆっくりと構えを取る。


「ま、まってくれ!」


『なんだ、命乞いとは男子の風上にも置けん』


「いいから聞いてくれ……。 あんた、『幸若舞』をお館様が、って言ったよな」


『それがどうした』


「あんたの主人って、――織田信長って名前じゃないか?」


 悠馬が言葉を発し終えた瞬間――。


 突然『赤い矢印』が、悠馬の視界に乱舞する。


『若造……お館様の御諱ごいみなを軽々しく呼ぶとは――万死に値する』


 言い終えるやいなや、赤武士は悠馬に斬りかかる。


 ――ガキンッ!


 消えたかのように見えた赤武士は、一瞬で悠馬へと肉薄していた。


「あっぶな! いきなり始めるか……いいぜ、相手になってやるよ」


 沈黙を破り『道標ガイドポスト』が示した最適解。


 それは『青い矢印』を表示し、赤武士の剣筋を受け止め対峙することであった。


『これを受けるか。 面白い……無礼への責を取るが良い』


 悠馬が赤武士の大太刀を短剣で弾き返す、その勢いで赤武士は一歩下がり、再度構えを取る。


 睨み合う両者――動いた方が、負け。


 互いに、後の先を取る相手だと感じたのだろう、緊張した空気が流れる。

 

「悠馬お兄さん! 全員で戦いましょう!」


「その通りだユーマ! 1人では万が一があるぞ!」


 2人の言葉に、視線は赤武士を捉えたまま言葉を返す。


「ありがたいが、これは俺1人が適任だ。 そうだろう?」


『その通り、貴様も男子ならば己の力を示してみよ!』


 桜吹雪が舞う中――。


 両者同時に地面を蹴る。


 赤武士が、大太刀を水平に寝かせた『平青眼』の構えから爆ぜた。

 

 踏み込みと同時に放たれたのは、空気を断ち切る鋭い横薙ぎの一閃。


「くっ……!」


 悠馬の視界に『青い矢印』が重なる。

 

 最短の防御軌道に従い、短剣を斜めに固定して大太刀の腹を受け止める。

 火花が散り、鋼の絶叫が鼓膜を震わせた。


『これも防ぐか。ならば――』


 赤武士の姿が掻き消える。

 

 常人なら背後を取られたことにすら気づかない神速の転身。

 だが、悠馬の網膜には、背後から突き刺さるような『最適解』の光が既に灯っていた。


 振り返りざま、盲滅法に突き出した短剣が、背後から迫る大太刀の切っ先を弾く。

 

 そのまま、互いの武器が噛み合い、ギチギチと嫌な音を立てる鍔迫り合いへと持ち込まれた。


『若造……よほど目が良いと見える』


「ありがとよ。爺ちゃんからのもらいもんだ!」


 弾けるように距離を取る両者。


 一瞬の静寂。

 

 悠馬は肩で息をしながらも、不敵な笑みを浮かべて問いかけた。


「なあ、武士に会ったら聞きたかったことがあるんだ」

 

『……ほう。 撃を凌いだ褒美に聞いてやろう。申してみよ』

 

「武士はマグロ食わない。って、本当か?」


 戦場に似つかわしくない質問に、赤武士の面頬の奥で目が細められた。


『マグロ……猫跨ぎの事か。下魚、そして「シビ」と呼ばれるものであるな?』

 

「そうだ。どうなんだ?」

 

『「シビ」は「死日」に通じる故、縁起が悪い。 われは一度として口にしたことはないな』

 

「やっぱ、そうなんだな――!」


 納得した、と言わんばかりに悠馬が地を蹴る。

 

 会話の余韻を切り裂くような、容赦のない短剣の突き。


 赤武士は大太刀の根元でそれを受け止め、再び至近距離で刃が重なり合った。


 

『会話の途中で斬りかかるとは、若造……節操がないな』

 

「俺は武士じゃないんでね。『勝てば官軍』ってやつだよ」

 

『最近の若者とは……なんと嘆かわしい。』


 鍔迫り合いのまま、両者の視線がぶつかり合う。

 

 悠馬はさらに畳み掛けた。


「それ、昔から言ってんだな。……ちなみに教えてやるよ。マグロ、今じゃ国民全員が食ってるぜ!  最高に美味いってな!」

 

『な……なんと!?』


 ――今だ。

 

 一瞬、赤武士の力が抜ける。

 戦国時代から続く「常識」が揺らいだ、致命的な隙。


 悠馬は大太刀を強引に跳ね上げると、赤武士の懐へ潜り込んだ。

 最短距離で心臓を狙い、短剣を突き出す。


 ――だが。

 

 赤武士は驚愕の最中にありながらも、肉体に染み付いた「技」で応じた。


 ガィィンッ!


 突き出された刃を、赤武士は小手の甲で弾き返す。

 

 そこからは、もはや言葉を挟む余裕のない激闘。


 静寂の中、金属音だけが響き渡る。

 

 赤武士の大太刀が、まるで生き物のようにしなり、悠馬を追い詰める。

 

 上段からの振り下ろしを、悠馬は右に回り込みながら流し、その勢いのまま武士の死角へ滑り込む。


 しかし、赤武士もさるもの。

 突きをかわされた勢いを利用し、大太刀の柄尻で悠馬の顎を狙う。

 

 悠馬は上体を逸らしてそれを回避。

 

 直後、足首を狙った低い薙ぎ払いが来るが、これも『青い矢印』に従い、空中で一回転して跳び越える。


 受けて、流して、回り込む。

 

 舞うような攻防の最中、悠馬の脳裏には1つの確信が芽生えていた。


(……強い。けど、こいつ……楽しんでやがる!)

 

 

「悠馬お兄さん凄いです……」


「そうだな。 良くやってはおる、が……」


「おるが。 ……なによ、何か気になるっての?」


 ヴァレンタインの言葉に、ドレイヴンは言いにくそうに口を開く。


「あの赤いの、何かを狙っておる。 それはユーマも同じか……」


「――!? そんな、お父様! 今すぐ助太刀に参りましょう!」


「アリス待ちな。 悠馬が自分で決めたことだよ……1人でやるって」


「で、でも……」


 アリスは力の限り、握りこぶしを握る。


 少しでも悠馬の力になればと、その思いが自らの手を傷つけることも厭わず。


 次第に、アリスの手から血が滴り落ちる。


 だが、アリスは目の前で繰り広げられる攻防に、目を向けたままだった。


「悠馬お兄さん……頑張って……」


 

「(クソッ! 届きそうで届かねぇ。 『琥珀』を自分に向けられればいいんだが)」


 悠馬は物理的に強制干渉出来る『琥珀色の矢印』で自分を加速できないか試していた。


 『矢印』は視界に映る。


 だが、自分自身を視界に収めることは出来ない。


 決定打にかける悠馬の焦りに、赤武士は気づいたのか。


 打ち合いの最中、赤武士は大太刀をゆっくりと下ろす。


『若造……何を狙っとるか知らんが。 何も変わらんのであれば――次で仕留めさせてもらう』


 赤武士は構えを解き、自然体のまま大太刀の切っ先を地面へと付ける。


 あまりにも無防備。


 その不自然なまでの佇まいが、戦場に『死』を張り巡らす。


「そうかい。 ――なら全力で迎え撃とうか」


 平然を装っているが、悠馬の視界は再び『赤い矢印』に支配される。


 赤武士の纏う『死』の気配が色濃くなっていく。


『――参る!』


 赤武士が地を蹴る。


 その勢いで、地面に大穴が開く。


「来いっ!」


 同時に、悠馬も前方へと跳躍する。


 赤武士は右腕を鞭のようにしならせ、大太刀を背中から一気に振り下ろす。


 その剣筋は、接近する悠馬の到着地点を完全に予見していた。


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