74. それぞれの胸中
――特級ダンジョン 『虚無の門』 深層。
悠馬の作戦はシンプルだった。
前衛――アリス、ドレイヴン (ドル)。
中衛――悠馬。
後衛――ヴァレンタイン (ヴィ)。
ガードルド親子が疾走し、前方の敵を一掃。
悠馬は『道標』を駆使し、最短の最適解を指示する。
ヴァレンタインが打ち漏らしの殲滅と後方の警戒。
悠馬の指示は完璧だった。
ギミックは踏まない。
再構成されるダンジョン内部には即座に対応する。
先制出来るならばヴィの黒い風で殲滅する。
重量級にはガードルド親子をぶつける。
最適解の前に挟撃などされる筈もない。
「ヴィ! 前方、20メートル。 レイスの群れだ、目の高さで発動!」
「はいよ」
視界に映る前に、レイスは群れごと消滅する。
「アリス! 先の角を左に曲がった瞬間に右の壁をぶち破れ!」
「はいっ!」
悠馬の指示通りに、左折後ダンジョンの壁をアリスはぶち抜く。
それが異常である事に本人たちは気が付かない。
「ドル! アリスとスイッチして、空いた穴にそのまま飛び込め! 着地後、全力で横一閃かませ!」
「おうよっ!」
本来は躊躇するであろう暗闇に、ドレイヴンは全速力でアリスを飛び越え突っ込む。
「そりゃぁぁーーー!」
その場で、目視出来ない敵に向けて、全力で大剣を横薙ぎにする。
手応えあり――。
ミノタウロスゾンビの希少種が胴体から上下に分かれ、ドレイヴンの目の前に横たわっている。
攻略行動のすべてが全速力、全力で実行される。
「よし、この奥に近道がある。 このまま行くぞ!」
最適解、最強の武力、そして最高の相棒と信頼。
全てが揃ったオグリ家騎士団の攻略は、文字通り『最速』だった。
何層進んだかも覚えてない、そもそも数えてすらいないのだ。
ただ、真っ直ぐに最短を最速で進む。
行き止まりにたどり着いた時こそ、攻略完了だと。
それぞれの『望み』が叶うのだと信じて、それぞれが思いを胸に突き進む。
――――
「これは……また趣のある扉だな」
「これは? 木ですか?」
一行の前に現れたのは、『城門』だった。
戦国時代の城を守る『城門』を模したような、主の間への扉。
その重圧と、禍々しい風貌に思わずたじろぐ。
「これは……なんというか。 城壁の門のようであるな」
「に、しても。 木のようだが……変な文様が描かれてるね」
ヴァレンタインのいうように、城門を構成している木には文様が浮かんでいる。
黒と白が渦巻く、異質な紋様。
どこかで見たような気がして、悠馬は文様を凝視する。
「悠馬お兄さん、どうしたんですか?」
「いや、これどこかで見たなって……あっ!」
「ユーマどうした!」
「これ、アレだ! 下層の主の間、白い骸骨が出た場所の扉にも同じ文様があった!」
「悠馬、それは本当かい?」
「あぁ。 たしか……あの時はノーラが扉を見て考え込んでたんだ。 それで俺も気になって」
ヴァレンタインは扉の文様を、記憶に刻むように凝視する。
「……なるほどね。 なんとなく見えてきたよ」
「ヴァレンタインさん! 何かわかったのか!?」
扉から少し離れ、ヴァレンタインは続ける。
「まだ、推測の域は出ないね。 あとでノーラから話を聞くのと……この先に何があるかだね」
「――じゃあ、進むだけだな」
悠馬は全員の顔を見てから、城門をゆっくりと奥へと押し込む。
――――
目の前に広がるのは、夜空に浮かぶ桜吹雪。
視界の端には川が流れ、足元には石畳が敷き詰められている。
「なんだ、ここは……」
「花びらが舞ってます! とってもキレイです!」
困惑する悠馬と、はしゃぐアリス。
ヴァレンタインとドレイヴンは、緊張した面持ちで闇夜の奥を見据えていた。
――ジャリ……ッ、ジャリ……。
重さのある足音が、桜吹雪舞う闇夜から聞こえてくる。
「全員警戒! なにか来るっ」
悠馬の掛け声に全員が武器を構える。
(くそっ、また『矢印』が起動しねぇ。 主の間だぞ、危険だらけのはずじゃないのか!)
自分の心音と、正体不明の足音だけが不気味に響く。
何度目かの生唾を飲み込んだその時。
――足音の正体が現れる。
赤い大鎧を身にまとい、顔部分には総面が装着され表情は見えない。
右手に身の丈を超える、大太刀を引っ提げている。
「……武士?」
思わず漏れた悠馬の一言に、ドレイヴンが反応する。
「ユーマ! ブシとはなんだ! 魔物ではないのか?」
「……昔の日本の身分だ。 そうだな、わかりやすく言うと騎士だよ」
「えっ! じゃあ、あの人は魔物ではないのですか?」
「さぁな、俺にもわからん。 ただ気を抜くな、俺ら現代人の常識として武士は……最強なんだよ」
「それは、……楽しみだね」
それぞれが、驚愕し、畏怖し、興味を持ち、目の前の敵を見つめる。
「――さて、どう出る。 武士さんよ」
全員が固唾を飲んで出方を待っていたその時。
『ここに人が来るなど何年振りのことだろうか、お主ら――われの敵か?』




