73. 暗号と呼び名
「それじゃあ、出発するか」
素材をアルミコンテナにつめ、オグリ家騎士団は車へ乗り込む。
「皆様、ご武運を」
優しくお辞儀をするノーラに「あぁ」と声をかけ、悠馬はレンタカー屋へとハンドルを切る。
2泊3日の契約を追加で結び、そのまま管理局へと向かう。
――――
「そこを右折して、そうしたら地下への入口が見えるわ」
望海の案内に従い、悠馬は管理局の地下駐車場へと入っていく。
入口は望海がいることで顔パスだった。
駐車場のエレベーター近くに車を止めると、すでに府後が待っていた。
「悠馬様、お待ちしておりました……守衛から連絡を受け、待機しておりました。」
「さすが、話が早いな。 これが素材だ」
悠馬とドレイヴンは、車から素材の入ったアルミコンテナを2つ運び出す。
府後が台車に乗せている間に、望海へと声をかける。
「望海、今日のダイヤルだが『091』だ。間違えるなよ」
「……わかったわ。 ところでこの数字って」
そう、小栗をお【0】ぐ【9】りぃぃい【1】、最後は母音からという無理やりな発想だった。
それに気づいた望海は、当然のように吹き出す。
「ブフォッ――! はぁはぁ……、09まではいいわ。でも、ンフッ――んひぃぃ! 伸ばして1って。 相変わらずのセンスね」
「おい! 声に出すんじゃない!」
「ごめんごめん。 でも――んふっ、ん――ブフォッ」
涙目になりながら、吹き出す望海の相手をやめ、悠馬は府後に近づく。
「今回は、全て管理局に売却する。何かの役に立つだろう」
「中身を見てないので正確なことは言えませんが、私はあなた方――いえ、ヴァレンタイン様を信用しておりますので!」
「お、おう。 俺達はこれから『虚無の門』の最終攻略に入る、査定は適正に頼むぜ」
「お任せください。 皆様のご帰還をお待ちしております」
そのまま望海をおろし、悠馬たちはダンジョンへと向かう。
――――
特級ダンジョン『虚無の門』 入口――。
「あ!」
「悠馬お兄さん、どうしましたか?」
思い出したかのように声を上げる悠馬。
「いや、ヴァレンタインさん10層までしかスキップできないなって」
ヴァレンタインが探索者証をもってダイブしたのは、府後を連れてきたときが初めてだったため、深層へのスキップが出来ない。
「そうだな! で、あれば前回同様ワシがヴァレンタインをつれて行こうではないか!」
「しかし、それだと時間がかかるし……また厄介な場所や主が出てきたときに面倒だ」
悠馬がいうのはあのコピーが出てくる『白い部屋』、そして不浄の覇王『ドラゴンゾンビ』のことを指していた。
「むぅ、たしかにそうだな……」
どうするか考えていると、ヴァレンタインが口を開く。
「なんだ、そんなの解決済みだよ」
「どういう事だ?」
「いいかい? 悠馬あんた達『オグリ家騎士団』はパーティーとして深層まで行ったんだろ?」
「そうだ。 ただ、スキップは個人の履歴だから――」
「府後に言って、パーティーとしての攻略深度まで、メンバーなら誰でも行けるよう調整してもらってるよ」
「そんな事が、可能なのか!?」
自分の知らない情報に、悠馬は驚きを隠せない。
「あぁ。 私の実力を測るために、装置に入れようとしたけど。 そこの脳筋が壊した、って聞いてね。 修理の対価ってやつよ」
「そんな事が、あったのか……」
「と、いうわけでわたしも同行出来るから安心しな。 さぁ、行くよ」
「俺ってリーダーだよな?」と、アリスに漏らしながら転移装置のある小屋へと進む。
――――
深層。
感覚的に中盤まで来ているであろう階層は、魔素が濃く悠馬は身震いをする。
「へぇ、ここなら辺境領とほぼ変わらない濃度だね」
「確かにそうであるな! にして悠馬よ、今日の作戦はどうする?」
「そうだな、ドレイヴンさんに切り込み隊長を――」
「まて、悠馬よ」
「ん? 切り込み隊長は嫌か?」
「そうではない! 呼び方の話だ」
「呼び方って、ドレイヴンさんが嫌ってなると。 ガードルドさん?」
話の意図が伝わらず、ドレイヴンは若干の苛立ちを覚える。
「そうではない! お主はリーダーで指揮官だ! 戦闘中に『さん』など付けとる場合では無いこともあるだろう!」
「確かにそうだね。 わたしとドレイヴンの名前は帝国内でも長い方だ、口頭での発声数を減らすのは大事だね」
悠馬は『矢印』を使い指示を出す、出来るだけラグを無くす為にも両者の言い分は最もだ。
「2人がそれでいいなら……そうだな。 ドレイヴンさんは『ドル』、ヴァレンタインさんは『ヴィ』なんてどうだろう?」
「ふむ、ドレイヴンとガードルドから重複分をうまく取ったか。 良いではないか! ダンジョンでは『ドル』と呼ぶがいい!」
「ふ~ん、『ヴィ』か、どういう意味だい?」
「意味というかヴァレンタインを、日本語以外の表記にしたときの頭文字だな」
「いいじゃないか。 異世界人のわたしが、日本で更に別の言語で呼称されるなんて洒落てるね」
2人の許可を得て呼び名が変更される、それを見ていたアリスが何かを期待するような目で悠馬を見つめる。
「ん? どうしたアリス」
「悠馬お兄さん! 私もダンジョン内での呼び名がほしいです!」
「う~ん、アリスはそのままでいいんじゃないか? 長くもないし、別に困んないだろ」
「がーん!」
ぴょんぴょんと跳ねていたアホ毛が、みるみるうちに萎れていき、アリスの目が白目になる。
「がーんって、口に出すやつ初めて見たよ。 さぁ、行くぞ」
深層完全攻略開始。
オグリ家騎士団の名が歴史として刻まれるのか、それとも英雄の名として現在の称賛を浴びるのか。
日本の『最強』と、帝国の『最強』が、日本『最強』のダンジョンを蹂躙する。




