72. 専属の対価
フードコートでの食事を終え、オグリ家騎士団は自宅へと帰り着く。
「さっさと荷物おろして、風呂はいるぞ。 ドレイヴンさんはその銀色の箱を客間へ頼む」
全員で手分けし、荷物を運び込む。
風呂も終わり、そのまま就寝――そして翌日。
――――
「今日は素材を持ち込むから、その準備をして――特急ダンジョン攻略終わらせるぞ」
悠馬の一言に、朝食後の居間の空気が……一変する。
「ついにか! やってやろうではないかユーマ!」
「悠馬お兄さん! 準備は万端です、早速向かいましょう!」
荒ぶる2人からは『ふんす!』という鼻息が聞こえくるようだった。
「それで、今日のメンバーなんだが……」
悠馬が指名したのは、ドレイヴン、アリス、ヴァレンタイン、ノーラ。
オグリ家騎士団のフルメンバーで深層攻略に挑むつもりだ。
「悠馬様。 ……少し宜しいでしょうか」
「どうしたノーラ?」
「実は……」
ノーラが言うには、特級に挑むには力不足な事。 それに昨日買った商品の荷解きと、購入した衣服の初期洗濯を終わらせたい、との申し出だった。
「そうか。 ……だが、ノーラの回復魔法は切り札になる。 これは譲れないから一緒に来てくれないか?」
「ちょっと! 回復魔法って何よ! 悠馬あんた、何か隠してんじゃないでしょうね!?」
『おとぎ話』の回復魔法に驚く望海をよそに、ノーラは言葉を続ける。
「私が同行してしまうと足を引っ張ることになると思います。 それに回復魔法ならば、お館様のホルダー内に代替品があるかと」
ノーラの言葉に、悠馬と望海がドレイヴンを見る。
「ん? あぁアレか! もちろん持っておるぞ」
おもむろにドレイヴンは腰のホルダーから、青い瓶を取り出す。
「ドレイヴンさん。 それはなんだ?」
「これは、液体回復薬だな。 薬草から成分を抽出し飲み物にしたものだ! こちらにはないのか?」
さも、当たり前のように話すドレイヴンに、悠馬は冷や汗を流しながら答える。
「薬草はあるが薬というか……漢方みたいなもんだ。 傷を治すような芸当はできない。 ちなみに効果と即効性について聞いてもいいか」
「それについては、私が話そうか」
ヴァレンタインが言うには、液体回復薬には3段階あり、ドレイヴンはその全てを所持している。
即効性は言うまでもない、すぐに傷は塞がる。
ただ、効果は千差万別。
擦り傷、切り傷、はては欠損まで修復可能とのこと。
「あんた達……な、なんて話をしてるの。 いきなり瓶が出てきた事といい、こんなの窓口係が聞いていい話なんかじゃないわ」
まさに、開いた口が塞がらない様子の望海に、悠馬が声をかける。
「望海、これがあるから専属としてお前を求めた。全て、他言無用だ。 その分の報酬も約束している。 それに……」
「それに……何よ」
「喋ったら、あんたの上司の府後が――死ぬよ」
ヴァレンタインは普通のトーンで『裏切り』の制裁について説明する。
「な、なんで支部長が!?」
「昨日、あの男の態度が豹変しただろう? 不思議に思わなかったのかい?」
「もちろん、思いました。 それが死と何の関係が……」
「悪魔の契約だよ。 利益を与える代わりに生殺与奪の権利をこっちが持ってる。 その中に『組織』を含めた秘密保持の契約がある」
「そ、そんな事信じるとでも思ってるんですか!」
「じゃあ、何も信じなくていいって事よ。 突然荷物が出てくるバッグも、おとぎ話の回復魔法も、欠損を修復できる回復薬も――そして、上司の死もね」
悪魔でも見るかのような目で、望海はヴァレンタインを見据える。
ヴァレンタインの話はブラフだ、契約内容に秘密保持は含まれていない。
上司の死を牽制として使い、望海がどう出るか観察しているのだ。
「信じないんだろう? じゃあ、好き勝手話したらいい。 それがどんな結果になろうが、受け止める覚悟があんたにあるならね」
「ふざけないで!」
ヴァレンタインの言葉に反応したように、望海は大声を上げる。
「たしかに私は、欲に目がくらんで専属になったわ。 でも、舐めないでちょうだい! 担当するパーティーの情報漏洩なんてする訳がないわ! それは上司の死が絡んでいようが関係ないわ、 私の私自身のプライドの問題よ!」
自分の数十倍とも言える時を生きているヴァレンタインに対し、望海ははっきりと告げる。
まっすぐに、迷いのない瞳でヴァレンタインを見据える。
「いい目をするじゃない。 ――合格だよ」
「えっ!?」
ヴァレンタインの言葉に、望海は呆気にとられる。
「望海……すまない。 俺は反対したんだが」
「悠馬様、気に病む必要はないかと存じます。 望海様もご理解ください、試したことは謝罪いたします。 ただ、それだけの事柄なのです」
「あぁ~。 そういう事ね。 正直ムカつくけど、内容が内容だし理解してあげる。 だけど、悠馬!」
「なんだ!?」
「今度、焼き肉奢りなさいよ。 それでチャラにしてあげる」
「ふっ、わかったよ。 改めて専属よろしくな」
悠馬が手を差し出し、望海はその手をしっかりと握る。
そんな中――。
「で、なんだったのだコレは?」
「悠馬お兄さん、みんな何の話をしているのですか?」
バレる可能性が高いということで、今回の作戦?から外されていたガードルド親子。
その評定から、頭上には『?』マークが表示されているようだった。




