70. 同盟戦争
「望海……行儀が悪いから、机から足を下ろせ」
やや怒気を含んだ悠馬の声に、望海は従う様に座布団へと座りなおす。
「エフンッ! ……さて、これからどうするつもり? 素材は私を介して売却するのよね?」
何事もなかったかのように、望海は話を進める。
「そうだな。 車で素材を運んだとして、可能な限り誰にも見られずに渡すことは可能か?」
「それなら、局の地下駐車場を使うのはどうかしら?」
望海が言うには、管理局の地下に局員または、関係者のみ使用できる地下駐車場があるようだ。
そこならばエレベーターで直接、窓口の裏へと荷物を運びこめるとの事。
「それしかないな。と、いうか名案だ。 ちなみに地下へはどうやって入るんだ?」
駐車場の位置などを確認した上で、悠馬は望海の提案に乗っかる。
「地下についた時点で連絡くれれば、私も下に降りるから直接受け取れるわ。 ただ、監視カメラがあるのは忘れないでね」
「そうだな。 目隠し……いや、段ボールにでも入れれば大丈夫か」
顎に手を当てながら、悠馬は思考を巡らせる。
「よしっ! 早速、明日素材を持っていく! 着いたら連絡するから頼んだぞ!」
「えぇ!わかったわ。 それで今日はこれからどうするの?」
外を見ると、既に日は落ちかけており、近隣からは夕食の香りがし始めていた。
「ん? 俺らはこれから買い物もあるし、最寄り駅まで送るからもう帰れよ」
ばっさりと言い切る悠馬に、望海は納得できるはずもない。
望海は急に立ち上がり、悠馬の胸倉を掴む。
「はぁ? 勝手に連れてきた挙句、駅からは自分で帰れですって!? あんた自分の家がどれだけ田舎にあるかわかってんの!? その上でいってんの? ねぇ? 私、あなた達の専属なんですけど!! 何とか言いなさいよ! オグリ家騎士団リーダー様!」
詰め寄る望海の姿に、周囲も騒然となる。
「悠馬お兄さん! 望海さんが可哀そうです、家まで送ってあげてください!」
「悠馬様。 私もアリスお嬢様と同意見です。 淑女を送迎しないとは、紳士の風上にも置けません」
「うぉっ、マジか。 じゃあ、〇総線まで送る――」
「あぁ? あんた……もっかい言ってみな」
アリスとノーラに詰められ、悠馬が出した最適解は望海の怒気によって阻まれる。
「ユーマよ! それであれば、今日はノゾミ殿に泊まってもらえば良いのではないか?」
「えっ!? それは何というか、面倒くさ……いや、色々まずいだろ!? なぁ、ヴァレンタインさんも何か言ってくれよ!」
ドレイヴンの提案に悠馬は難色を示し、ヴァレンタインに助け舟を求めるも期待した答えは帰って来ない。
「それでいいじゃないか。 買い物も人数いれば早く終わるだろう? 地下駐車場も望海がいればスムーズに入れる、何の問題もないよ」
「えぇ……そもそも、望海はウチに泊まるって大丈夫なのか?」
最後の頼みの綱は、望海自身の答え。
悠馬は最後の希望を託し、望海へ視線を向ける。
「私は大丈夫よ。 何の問題もないわ」
「えっ!?」
ケロッとした表情で望海は返答する。
「ただ……ちょっと不安なのよね」
腕組みをしながら、望海は不安そうに下を向く。
「そ、そうだろ! 同居人がいるとはいえ、独身男性の家に泊まるなんて――」
「だから、それは大丈夫よ」
「えっ!? なんて言った?」
「だから、大丈夫って言ってるの! ……ただ、知らない家だと、その……お風呂? とか、よく分からないし……」
チラチラと、横目でアリスを見ながら望海は答える。
「――はっ! 望海さん、大丈夫です! わたしが、一緒に入って色々教えてあげます!エッヘン!」
「ありがとうアリスさん! では今日は一緒に入りましょう!」
胸を張るアリスの両手を掴み、望海は一瞬で詰め寄る。
その時――。
「――望海様。 入浴に関しては私が把握しております。 ご一緒しましょう」
恐ろしい速度で、ノーラがアリスと望海の間を引き裂く。
「へぇー。 ノーラさん……邪魔をしようって事かしら?」
「さて、……何のことでしょう」
『可愛い同盟』の、同盟戦争が勃発しようとしていた。
守りし者と、すり寄りし者――悠馬たち、周辺国は見守る事しか出来なかった。
「ノーラさん……ちょっとこちらへ」
「えぇ、望むところです」
周辺国の困惑をよそに、2つの同盟国は部屋の隅で密談を始める。
「だから……させるから。……って事でどうかしら?」
「そうですね……ならば、……という方法も……」
「悠馬お兄さん、2人は何をしているのですか?」
「さぁな、俺に分かるわけねぇだろ。 ったく、何やってんだ、あいつらは……」
面倒くさそうにポリポリと頭を掻く悠馬と、自分が原因だと理解していないアリス。
突然、同盟国同士が向かい合ったかと思うと、力強く握手をし互いに頷きあっている。
「おい、話し合いは終わったのか?」
「えぇ、終わったわ。 待たせて御免なさいね」
したり顔の望海を先頭に、2人は部屋の中心へ戻ってくる。
ノーラはそのままの足で、アリスの前に立つ。
「アリスお嬢様」
「どうしたの? ノーラ」
「望海様に小栗家における、入浴の手ほどきをお願いいたします」
「もちろん、最初からそのつもりです! 望海さんも私にお任せなのです! エッヘン!」
その時、ヴァレンタインだけが気付いていた。
望海の目が$マーク以外に変化出来るという事に――。
――――
「それでユーマよ。 これからどこへいくのだ?」
「ん? 素材入れる用の箱が欲しいから、とりあえずホームセンターだな」
オグリ家騎士団+望海の6人はミニバンに乗り込み、悠馬はハンドルを握っている。
「悠馬お兄さん、『ほぉむせんたぁ』って何ですか?」
「家に関するあらゆる商品が揃ってるお店だ。 これから行くところは、もはや全てが揃っていると言っても過言ではないな」
「へぇ……それは楽しみだね。 せっかくだし色々見てみたいね」
「悠馬様がここまで仰るのです。 きっとヴァレンタイン様のお望みの物があることでしょう」
「おぉ! それは楽しみだな。 ワシが装備するに相応しいものがあればいいが! がははっ!」
勝手に上がり続けるハードル。
それを超えることが出来るのか――。
オグリ家騎士団が到着したのは、県内トップクラスの大型店。
――『ジョイフル◯田』。




