69. 忠誠の値段と強欲の行き先
魔法による口頭契約が完了した、ヴァレンタインと府後。
一行はポータルを使用し地上へと帰還し、そのまま管理局へと向かった。
――――
支部長が探索者に拉致されたのではと、管理局は騒然となっていた。
そんな事はつゆ知らず、オグリ家騎士団が府後を連れロビーへと姿を現す。
「悠馬! 支部長は!? 府後支部長は大丈夫なのよね?」
悠馬を見つけると、望海は足早に駆け寄り支部長の安否を問う。
「高梨君。 私は無事だよ」
悠馬の背後から、血色の良い府後が顔を出す。
「良かったです! でも本当に大丈夫なんですか? 悠馬に何かされてませんか?」
「――!? 君は何て事を言うんだ! 小栗様いや、ヴァレンタイン様率いるオグリ家騎士団は、我々の最高の味方だ! 何かあるなんて失礼にもほどがあるというものだ!」
豹変した府後の態度に、望海は口を開けたまま固まってしまった。
それを見ている周囲の局員たちも、同じように固まっている。
この1時間足らずで、支部長の身に一体何が起こったというのか。
「それはそうと、高梨君!」
「はっ、はいっ!」
府後は、正面からガシッと望海を肩を両手で掴む。
「たった今から君は『オグリ家騎士団』専属となる。 窓口業務などしなくてよい! オグリ家騎士団のバックアップに努めるのだ!」
「え? えぇ? それは一体……」
「一体も何も、君は管理局を代表して、特級ホルダーパーティー オグリ家騎士団の『仕事のみ』に努めてくれたまえ」
「それって……月末の残業とか」
「もちろん、やらなくてよい!」
「ほ、本当ですか!」
「あぁ、本当だ! 君はオグリ家騎士団への対応のみやってくれたまえ、それで十分。 いや、君が小栗様と懇意にしていること。それこそが局の財産となる!」
「あの地獄から解放されるなんて……了解いたしました! 私、高梨望海はオグリ家騎士団専属となり、精一杯頑張ります!」
「そう、その意気だ! あと専属ともなると待遇もよくなる! 次の給料を楽しみにしてもらって構わんよ!」
府後の言葉に大喜びする望海の姿は、心なしか泣いている様にも見えた。
管理局員というのも、色々大変なのだろう。
「それでは、ヴァレンタイン様。 私は、口座の準備が御座いますので、失礼させて頂きます」
「あぁ、よろしく頼むよ。 ちなみにどの位時間がかかるんだい?」
「そうですね。 明日にはお渡しできるかと」
「わかった、また明日来るよ。 それと今日はこのまま望海を借りていくよ」
「どうぞどうぞ。 では高梨君、励みたまえ!」
「わははは」と高笑いを上げながら、府後は支部長室へと消えていく。
「俺らは、一体何を見せられてんだ……」
目の前で繰り広げられる寸劇についていけず、悠馬たちは茫然と立ち尽くしていた。
「さて、望海。 私物を持ってさっさと戻ってくるんだ」
「えっ?」
「え、じゃないよ。 ほら、さっさと行く!」
ヴァレンタインに尻を叩かれるまま、望海はロッカーへ私物を取りに急ぐ。
――数分後。
息を切らしながら望海はバッグを抱え、ロビーへ現れる。
「はぁっ、はぁ……。 荷物取って来ました」
「さて、じゃあ行こうか」
「行こうかって、今更どこに行くんだよ」
「あんたの家に戻るんだよ。 望海に色々と説明しなきゃいけないだろう?」
ヴァレンタインに言われるがまま、悠馬は車を回し、自宅へとハンドルを切った。
――――
「へぇ、ここが悠馬の家なのね」
「望海お姉さんは、ここへ来るの初めてなんですか?」
「そうね、あくまで窓口を通しての関係だし」
「さぁノゾミ殿上がってくれ! 自分の家だと思って寛いでくれて構わんぞ! 馬小屋のように狭いがな! がははっ!」
「一言余計なんだよ……ったく。 俺の家だっての」
「望海様。 どうぞこちらへ」
ノーラに出されたスリッパを履き、居間へと移動する。
お茶を目の前に、全員が座ったところでヴァレンタインが切り出す。
「――望海、よく聞きな」
――――
ヴァレンタインは府後と交わされた内容を望海に伝える。
もちろん、契約魔法は隠した状態でだ。
「そんな内容が許されるんですか?」
一介の探索者が交わすには、あまりに横暴な内容に望海は絶句する。
「許すも何も、既に約束は結ばれている。 だから勤務中にも関わらずここにいるだろう?」
ヴァレンタインの言葉に、望海は現実を受け入れようと頭をフル回転させる。
「そしてノゾミ殿! あの約束の事なんだが、少しよいか?」
「あの約束……ですか?」
ピンと来ていない望海に、悠馬が説明を始める。
「特級素材を売って、って話だ。 お前、覚えてないのか?」
「覚えてるわよ! そもそも、それのせいで私はひどい目にあったんだから!」
「ひどい目って……まぁいいや。 で、その件なんだが白紙というか、考え直すことにしたんだ」
「……どういう意味よ。 内容によっては黙ってないわよ」
一般人とは思えない殺気が、望海から溢れ出てくる。
「望海様、落ち着いて聞いてください。 何も損をするという話ではありません、むしろ逆かと」
「ノーラさん……逆って、どういう事?」
「望海、落ち着いて聞いてくれ。 明日、俺たちは管理局の口座を持ち、素材の売却益はそこに入る」
「うん、さっき聞いたわ」
「その口座のカードを、お前にも渡す」
「えっ?」
「月初に表示される残高の5%までなら、月内で好きに引き出してくれて構わない」
「うふぅ……ん?」
困惑する望海に、ノーラが噛み砕いて説明する。
「望海様。 たとえば月初め1日に預金が1000万円あったとしましょう」
「……うん」
「その月の末日まで、50万円を望海様は好きに使えるという事になります」
「……うん?」
「府後支部長に伺ったのですが、特級素材は、上層から中層までで1個あたり約50万、過去下層の素材が買い取られた時は1個200万円を超えた事例もあると」
「……うん」
「アリスお嬢様。 ――お願いします」
「はーい!」
アリスが客間へと続く扉を開ける。
そこには、午前中に移動した『特級素材の山』が、鎮座していた。
「望海様。 あれが見えますでしょうか」
「……うん」
「あれは、我々が所持する素材のあくまで一部です。 初回の買い取り額は、概算ではありますが8桁後半は間違いないかと」
「……その5%が私のもの……と。 8桁後半……300万、いや、それ以上……」
「望海、ノーラが言った通りだ。 一応、期限として俺たちのパーティー解散までとさせてもらうが、それでもいいか?」
返信botのように、返事をしていた望海の目が光り輝く。
そう$マークが再び、望海の視界をジャックする。
「さすが、オグリ家騎士団ね! なんの文句も無いわ! 専属である私の――世界平和のために戦うのよ!」
テーブルに片足を乗せ、庭を指さす望海。
全員があっけに取られる中、その瞳は光り輝いていた。




