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戦闘スキル無しの元・狂戦士。~案内人の男、最短の矢印で最強の異世界騎士団を導き現代ダンジョンを無双する~  作者: くるまAB
第3章:変革する日常と加速する世界

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54. 帝国最強の台風

「がはははっ! 退け退けぇい! ワシの道を遮るなど、万死に値するぞ!」


 それはもはや「攻略」という言葉が生ぬるい、一方的な蹂躙だった。


 特級ダンジョン深層。


 本来なら一歩進むごとに命を懸け、慎重に罠を解除して進むべき魔境を、ドレイヴン・フォン・ガードルドという名の台風が猛烈な勢いで爆走していた。


 遭遇した最初の敵は、巨大な鎌を持つ『デス・スコーピオンゾンビ』の希少種だ。

 鋼鉄をも容易く切り裂くその尾がドレイヴンを急襲するが、彼は足を止めることすらない。


「邪魔だ!」


 無造作に振るわれた大剣の一閃。


 それは「斬る」というより、圧倒的な質量で「押し潰す」に近い。


 デス・スコーピオンゾンビは、硬質な甲殻ごと一撃で粉砕され、紫色の体液を撒き散らして消滅した。


「……なぁ、ドレイヴンさんって、本当に人間か?」


 悠馬は、返り血1つ浴びずに突き進むドレイヴンの姿を後ろから見ながら、思わずつぶやく。


 爆風のような剣圧が通り過ぎた後の道には、魔物の残骸すらまともに残っていない。


「ふふっ、さすがはお父様です! 剣豪貴族の名は、伊達ではないのです!」


 アリスが目を輝かせて賞賛すれば、隣のノーラは当然だと言わんばかりに胸を張る。


「当然です、悠馬様。ガードルドの家名を背負う者が、この程度の雑魚に手間取るはずがございません」


 その間にも、ドレイヴンは次の獲物を見つけていた。


 今度は実体を持たない『レイス・ナイト』の群れ、これも希少種のようだった。


 物理攻撃を透過させ、精神を凍らせる冷気を放つ厄介な霊体。


 悠馬が「そこは魔法か、剣技で――」と声を上げようとした瞬間、ドレイヴンが左の拳を力一杯握りしめた。


 その拳に、眩いばかりの『白の魔力』が渦巻く。


「ぬんっ!」


 爆音と衝撃波が響き渡る。


 ただの正拳突きが霊体の中心を捉えた瞬間、透過するはずのレイスがガラス細工のように粉々に砕け散った。


「……いや、待て。ゾンビはわかる。 だが霊体アレをどうやって殴り倒してんだよ?」


 悠馬の常識が音を立てて崩れていく。それに対し、ノーラが淡々と解説を入れる。


「簡単なことです。拳に魔力を凝縮させ、霊体そのものの構成を力技で崩壊させているのです。要は、消滅するまで殴ればよいのです」


「……消滅するまで殴るって、どこの常識だよ」


 ドン引きする悠馬を置き去りにして、ドレイヴンの暴走はさらに加速する。


「おぉ、これは良い素材ではないか? ユーマ、これも貰っていくぞ!」


 ドレイヴンは腰のホルダーを掲げ、希少な素材を次々と吸い込んでいく。その手際の良さは、もはや掃除機だ。


 悠馬はふと、転がっている牙や角の形状を見て息を呑んだ。


(待てよ……さっきから瞬殺されてる奴ら、全部『希少種レア』じゃねえか。通常の個体より遥かに強いはず――これが深層か。 ただ、ドレイヴンさんにかかれば、ただの魔物だな……)


 爆走すること、わずか数刻。


 一行はあっという間に、深層最初の「主の間」へと辿り着いてしまった。


 巨大な扉の先にいたのは、全身が黒い鎧のような皮膚に覆われた『オーガエンペラーゾンビ』の希少種。


 その威圧感は凄まじく、周囲の魔素が重く沈むほどだ。


「おい、ドレイヴンさん! あれは流石にマズい。全員で連携して――」


「ユーマ! ワシに任せろと言ったはずだ! ガードルド家に二言はない!」


 ドレイヴンは悠然と歩みを進める。

 オーガエンペラーが咆哮し、地面を砕いて突進してくるが、彼は眉1つ動かさない。


「お主、なかなかの気配を持っとるな。……だが、足りんよ。 ワシの敵ではない」


 その瞬間、悠馬の視界に【赤い矢印】が出現し、激しく警告を発した。


 天井の死角。

 

 ドレイヴンを確実に仕留めるべく、巨大な鋼鉄の矢が放たれる予兆だ。


「ドレイヴンさん! 上だ! 避け――」


 悠馬の叫びと同時に、ドレイヴンが動いた。


「……ふんっ!」


 袈裟斬り一閃。


 あまりに速く、重い一撃がオーガエンペラーをその巨躯ごと、さらに背後の岩壁までをも真っ2つに両断した。


 そして、直後。天井から音を置き去りにする速度で放たれた巨大な矢。


 ドレイヴンは振り向きもせず、空いた左手の裏拳を、飛来する矢の先端に叩きつけた。


 ガキンッ! という鼓膜を劈くような金属音が響き、鋼鉄の矢がまるで乾いた枝のように木っ端微塵に粉砕される。


「ふむ、これでおしまいか? 少しばかり期待外れであったな」


 ドレイヴンは血も付いていない大剣を鞘に納めると、真っ先にアリスの方を向き、「どうだ」と言わんばかりに胸を逸らした。


「お父様、素晴らしいです! ガードルド閃技ここにあり!ですね!」


「さすがは御屋形様。お見事な一撃でした。あのような玩具、御屋形様の皮膚を傷つけることすら叶いません」


 娘と侍女の称賛を浴び、ドレイヴンは「がははっ!」と鼻高々に上機嫌だ。


 一方、悠馬は折れた矢の残骸を拾い上げ、指でその硬さを確かめて愕然とする。


(……これを裏拳で粉砕? というか、俺の『矢印』の警告が意味をなしてねえ。避ける必要すらないってことかよ……)


 案内人(悠馬)の専門知識も、ダンジョンが用意した悪意ある罠も。

 帝国最強の圧倒的な暴力によって、文字通り更地にされた瞬間だった。


「……このままじゃ、マジで俺、ただの荷物持ち(ポーター)になっちまうぞ……いや、アレ(ホルダー)があるから、ポーター以下か……」


 様子見だった特級ダンジョン深層は、このまま攻略へと流れを変える。


 ただ、一筋縄ではいかないのが特級ダンジョン。


 より深く潜るには、より深い闇を超えなければならない――。

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