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戦闘スキル無しの元・狂戦士。~案内人の男、最短の矢印で最強の異世界騎士団を導き現代ダンジョンを無双する~  作者: くるまAB
第3章:変革する日常と加速する世界

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52. それぞれの『壁』

「…………っ!」


 鼓膜を突き破るような爆音と、肌を焼くような熱風。

 

 反射的に目を閉じた望海が次に意識を取り戻したとき、視界を占めていたのは、焦げ茶色の布地――悠馬の胸板だった。


 爆発の直後、悠馬が彼女を抱き寄せるようにして地面に伏せ、その身を挺して庇っていたのだ。


(え……なに、これ……)


 重なる体温。

 耳元で聞こえる、悠馬の少し荒くなった呼吸。


 自分を包み込む逞しい腕の感触に、望海の思考は一瞬でショートした。


「……おい、生きてるか。怪我はねぇか」


 上からのぞき込む悠馬の瞳が、いつになく真剣で、至近距離で合う。


 煤で汚れてはいるが、その表情には案内人としての、あるいは1人の男としての、獲物を守るような力強さがあった。


「あ、だい、じょう……ぶ……っ、じゃない! 何これ、何が起きたのよ!?」


 混乱のあまり、悠馬のシャツを掴んだまま叫ぶ望海。

 慌てて体を離し、震える指先で背後を指差す。


 そこには、数分前まで「最新鋭の測定器」だった無惨な鉄屑が、夕立のような火花を散らしながら黒煙を上げていた。


「がははっ! 意外と脆いものだな、この箱は」


 煙の中から、煤1つ付いていない顔でドレイヴンが悠然と歩み寄ってくる。


「……終わったのは、私の平穏な公務員生活よ……ッ!」


 悠馬に抱きしめられた余韻で顔を赤くしているのか、それとも目の前の惨状にブチ切れているのか。


 望海は真っ赤な顔をしながら、拳を握りしめ地団駄を踏む。


 ――――

 

 オグリ家騎士団は望海から、ロビーで待機を命じられ、おとなしく移動を開始する。


「もう!お父様はやりすぎなのです! 少しは加減というものを……」


「いえ、御屋形様の行いは非の打ちどころのないものでした。 まさに傑物、私はガードルド家に仕えられる事を誇りに思います。」


「がははっ! そうであろう、そうであろう! ちょっと、握りこぶしを作る程度の力みで壊れるとはのう! まさに脆弱、脆弱よ!」


 ロビーでも相変わらずの3人、もはや周囲は完全に距離を置いている。

 それは、悠馬も同じであった、少し離れた場所でコーヒーを啜っている。


「悠馬! ちょっとこっち来なさい!」


 突然、窓口から声がかかる。

 悠馬が向かった窓口には、目のクマがどす黒く、ぼさぼさ頭の望海がいた。


「お、おぅ。 大丈夫か?」


「あんたねぇ、どこをどう見たら大丈夫なのよ。 ……支部長からのお説教と、研究部からの質問攻め、たった10分そこらの出来事とは思えないわ。 そりゃ老け込むってもんよ」


「そ、そうか。 大変だったんだな」

 

「『大変だったんだな?』ですって……? よくそんな言葉が出るわね! 元はといえばあんたのせいじゃない! 変なのばっか連れてきて!  あんたのせいで私の冬のボーナスが吹き飛んだのよ! どう責任取ってくれるつもり?  ねぇ?」


 凄まじい責任転嫁だが、悠馬には宥める言葉が見つかず困っていると。


「ノゾミ殿、一体どうしたのだ。 うら若き女子がそのように喚くなど、ワシでよければ力になろうではないか」

「はぁ? アリスさんのお父様といえど、言わせても貰うわよ……そもそも、あんたが……」

 

「ストォーーーーップ! 一旦落ち着こう! な!」


 悠馬は2人の間に割って入る。

 そもそも、ドレイヴンの日本での初戦が、局員など笑い話にもならない。

 

 そこで、悠馬は望海に確認するように言葉をかける。

 

 「望海! ドレイヴンさんは、特級に行ってもいいんだよな?」

 「……そうよ。 だから何……。さっさと視界から消えなさいよ。 さもないと、あんたらのデータ消すわよ」

 

 (駄目だ、完全にブチ切れモードに入ってやがる。 ――こうなったら)


「いや~、入れるならよかった! ドレイヴンさんがお前に迷惑かけたからって、『特級ダンジョンの素材を売ったお金を望海さんに渡す』って、譲らないんだよ~」

 

「……それ、本当なの?」


 望海の目が光るのを、悠馬は見逃さなかった。


「ほ、ほんとだって! だから『入れたらいいね』ってアリスも、なぁ!アリス! ノーラも!」


「望海さん!その通りです! お父様も『壊しちゃってごめんなさい』したいって言ってました!」

「望海様。 主の失態に関し、私からも心からの謝罪を申し上げます」


「……額なの?それ……」


「ん? なんだ、望海?」


「売却額、……『経費を差し引かない総取りの全額』かって聞いてるのよ。――正直に答えなさい」


 思考を焼き切るほどの分水嶺がここにある。

 だが、ダンジョン外で発生するとは、さすがの悠馬も想像できなかった。


「も、もちろん全額に決まってるじゃないかぁ! なぁ、ドレイヴンさん!」

「ぬっ! さっきから何のはな――グホォッ」


 アリスからの強烈な肘打ちをくらい、悶えるドレイヴンをよそ目に悠馬は更にまくしたてる。


「それでな! アリス達と温泉旅行とか行ったらどうだ?  冬の下呂温泉とか最高だぞ! 雪なんか振ったりして!  露天風呂でお酒飲みながらなんて最高じゃないか!  ダイジョーブだって、その費用くらい売却額でおつりが来るどころか、旅館貸し切れちゃうってもんよ!! 全てはドレイヴンさんにお任せだ!」


 冷や汗全開で徹底的にフォローし、捲し、囃し立てる。

 その時、下を向いていた望海が顔を上げる。


 その顔は、恐ろしいほどに晴れやかだった。


「パァァッ」と、背後に文字でも出るのではないかと悠馬は錯覚する。


「いやぁ~、私も声を上げるなんて大人げなかったわ! さぁ、オグリ家騎士団は特級ダンジョンへ向かうといいわ! 私の――ボ、じゃなくて!人類の未来のために!  わぁーっははははっ!」


 椅子の上に立ち、満面の笑みで出口を指さす望海の目は『$』マークになっていた。


「お、おう。 じゃあ早速行ってくるよ。――よし、みんな早く行くぞっ! ほらっ!」


 慌てて踵を返すオグリ家騎士団を、望海が呼び止める。


「ちょっと待って!」

 

「ま、まだ何かあるのか……?」


「あやうく忘れるところだったわ! ドレイヴンさんは単独でも特級ホルダーになったから、1人でもダイブしてOKよ!」


 目が$マークのまま、望海は渾身のサムズアップを決める。

 

 いまだ、ゼロ人と言っていた『管理局のお墨付き』

 1人目は、まさかの異世界人だった。


「そ、そうか……ありがとう。 じゃあ行ってくるわ」


 望海を圧を背中に感じながら、オグリ家騎士団は管理局を後にした。



 特級ダンジョン『虚無の門』 入口――。



「さて、いろいろあったが早速ダンジョンへ入ろう」

「さっきの望海さん、朝の悠馬お兄さんくらい怖かったです……」

 

「えっ? 俺、あんなだったか?」

「私も台所から見ておりましたが、怒気に色がついていたような気がします」

 

「そっかぁ、それはすまんかったな……まぁ、俺にもいろいろあるんだ」


 悠馬はポリポリと頭を掻き、今朝の事を詫びる。


「ユーマよ!  そんな事よりさっさと行こうではないか! さっさと、マグノリア達に連絡せんと、あやつら心配しておるだろうからな」

 

「それもそうなんだが、ちょっと問題があるんだ。 ドレイヴンさんは下層までスキップ出来ないから、俺達と上層1階からダイブしなきゃいけない」


 地下へと飛ぶ『転移装置』は探索者章に記録される。

 その為、ドレイヴンは1層からの攻略となる。


「そうなのですね! では、お父様! わたし達と一緒に行きましょう!」

「悠馬様がいれば、下層までは直ぐでごさいます。 私もお供しますゆえ」


「ぬぅ……」

「ドレイヴンさん、どうした? さっさと進むぞ」


 3人の言葉にドレイヴンは、顎に手を当て答えを探している。


「ユーマよ、ワシはノゾミ殿の報償ために『魔物の素材を集めて売る』。 そして、その金を渡さねばならん。 そうだろう?」

「あぁ、そうだな」


「お主らは、ワシが居なければ、昨日の続きから始められる。 ここまで合っておるか?」

「そうだ。 だから時間が勿体ない。 早く行くぞって」

 

「時にユーマよ。 ……ワシらと出会った、下層とやらまでは通常どのくらい時間がかかる?」

 

 ドレイヴンの予想だにしない質問に、悠馬は頭を悩ます。


「そうだな、1流の探索者で数カ月から1年ってことじゃないか? もしくはそれ以上、果ては辿り着けない可能性まであるな」

 

「そうではない、おぬし等の事を聞いておるのだ」


「ん? ……そういう事なら、半日かな。 何も考えず3人でぶっ飛ばせば6時間ってとこだ」

 

 まさに規格外のパーティーであった。

 人類未踏破の層まで、予想で6時間――。


 今回の攻略時間について、望海は追及しなかったが、正に奇跡の所業であった。


「では……3、いや2時間だな」

「ん? 何が2時間なんだ?」


「ワシが入ってから2時間後に、その転移装置とやらで昨日の場所まで来るがいい。 ワシもそこまでたどり着いてやろう」

 

「えっ?」


 悠馬の思考が止まる。

 自分たちでさえ、後先考えずで6時間――しかも、ちょっと盛ったのは内緒だ。


「いやいや、さすがに無茶だって!  一緒に行くぞ!2人も何か言ってくれ!」


 悠馬は、アリスとノーラに助けを乞う。


「さすがはお父様です! 雄姿を見られないのは残念ですが、下層からは一緒に頑張りましょう!」

 

「御屋形様。 きっとお待たせしてしまう事と存じます。 我々は2時間後に合流いたしますゆえ、しばしお待ち頂ければ幸いです」


「がははっ! お主らはメシでも食ってから、ゆっくりと来ればいい! さて、準備運動と行こうかの!」


 両手を振り回し、ダンジョンへと入っていくドレイヴン。

 悠馬は「まじで、大丈夫かよ」と、その背中を見届ける。


 ――――


 2時間後、転移装置で『下層 主の間』の次の階、すなわち深層へスキップした3人の目に映るのは――。



 強烈な魔素の中、見たこともない素材たちが、文字通り「ゴミ」のように積み上げられていた。

 さらに驚愕したのは、その「宝」の山の頂上で、腕を組んで高いイビキをかきながら、仮眠を貪るドレイヴンの姿だった。


「……本当に1人で来たのかよ。 しかも俺達より早く。……何なんだ、このおっさんは……」

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