49. 意思を持つ光
食後の余韻に浸る間もなく、積み重なった皿を避け状況を説明し始めた。
ドレイヴンはアリスたちが行方不明になってからの帝国の混乱を。
ヴァレンタインは、洞窟突入から現在に至るまでの「異世界渡航」の経緯を語った。
「そんな事になっていたのですね……。 お父様、心配をかけてごめんなさい」
帝国サイドの必死な捜索をよそに、自分たちは日本での生活を(それなりに)堪能していた。
その事実にアリスは心を痛め、アホ毛を萎れさせて涙目で謝罪した。
「よ、よいのだ! アリス! 今こうして無事に合流できた、それで良いではないか! な!」
「アリスお嬢様。気に病むことはありません。子が元気でいること……それこそが親としての幸せというものです」
狼狽えるドレイヴンをノーラが完璧にフォローし、アリスは少しずつ元気を取り戻していく。
「なるほどな、空間の断裂か……。 それを使って『向こう』へ戻る事は可能なのか?」
「無理じゃないかねぇ。私たちがこっちに来る時でさえ消えかかってたんだ。今頃はとっくに霧散してるだろうよ」
「そうか……それなら仕方ないか」
悠馬は密かに拳を握った。
最初に交わした「元の世界に帰す」という約束。
新たな2人が渡ってきたことで希望が見えたかと思ったが、現実は甘くない。
「悠馬様、結局『矢印』の謎は解けたのですか?」
ノーラの鋭い問いに、悠馬はハッとした。
なぜ、帝国を知らないはずの自分のスキルが、2人を救うルートを示したのか。
「分からない。ただ、こうしてドレイヴンさんとヴァレンタインさんに合流できたって事は、あの矢印はこの『結果』を指していたのかもしれない」
「さっきから言っとる『矢印』とは何だ」
「俺のスキルだ。結果への最短ルートを視界に示してくれる。道順や、戦闘時の急所とかな」
悠馬はスマホを取り出し、検索した矢印の画像を2人に見せた。
「むっ! これならワシも見たことがあるぞ」
「ああ、アリスたちも最初から『矢印』で通じたしな。帝国でも同じなのか?」
「いや、そうではない。ユーマ、それがワシ自身の『視界』に直接映ったのだ。色は……たしか黄金だったな」
「なんだとっ……!? 一体どういう事だ」
悠馬の感覚共有は、アリスとノーラにしか繋いでいないはずだ。
なぜ、許可もしていないドレイヴンの視界に「黄金の矢印」が映ったのか。
「その『黄金の矢印』が明滅し、とどめの瞬間を伝えてくれた事で、洞窟の『黒い死神』を倒せたのだ」
「あっ!それ私も同じでした! ピカピカから、ピカーーッてなった時に、『今だ!』って感じたんです!それで『白い死神』をやっつけたんです!エッヘン!」
特級ダンジョンへの誘導。
ドレイヴンに見えた黄金の矢印。
異なる世界に現れた同質の死神。
そして、新たな来訪者。
「ダメだ――全く分からない。お手上げだ」
悠馬は文字通り、両手を掲げて思考を放棄した。
「悠馬。あんた今、『矢印』って出せるのかい?」
「ああ、多分な」
「じゃあ、私たちが帰る方法とやらをスキルで探っておくれよ」
悠馬はいつものように意識を研ぎ澄ませ、スキルを発動する。
だが――。
その視界には、何も映らない。虚空が広がっているだけだ。何度試しても、結果は同じだった。
「ダメだ、何も出ない。 こんな事、初めてだぞ」
「最後にスキルが反応したのはいつだい?」
「それなら、さっきヴァレンタインさんがタブレットを……」
その瞬間、悠馬に戦慄が走った。
あの時、ヴァレンタインが端末に触れようとした際、警告の『青い矢印』が出た。
地上では意識してオフにしているはずのスキルが、勝手に起動していたのだ。
「どういう事だ。俺の意識に関係なく発動し、今は俺の意思を無視するように沈黙している……」
「多分なんだけどねぇ。悠馬、あんたのそのスキル――『自我』を持ってるね」
自我を持つスキル。聞いたこともない現象に、全員が無言になる。
そんな中、口火を切ったのはアリスだった。
「ヴァレンタインお姉さん! そんな事、あるんですか!?」
「ええ。数こそ少ないが、確かに存在するわね。強力すぎるスキルは、主が力に溺れないよう自ら意思を持ち、制限をかける……そして、時には導くって話さね」
「そんな話、聞いたこと御座いませんが」
「そりゃあ、100年に1件あるかどうかのレベルだもの。スキルの詳細を明かすなんて自殺行為、誰も公表しないから書物にも残っちゃいないって事よ」
「……そんな100年単位の話を、どうしてヴァレンタインさんは知っているんで……」
「ユーマ! ――それ以上はいけない。 男としての助言だ」
悠馬の失言を、ドレイヴンが間一髪で抑えた。
彼の額には、なぜか冷や汗が滲んでいる。
「お、おう。そうか。しかし……自我か。ならば、俺が知らない能力もまだあるという事か」
「あくまで仮説さ。……そんな事より、さっき見せたその道具を出しな」
悠馬が画面の消えたスマホを置くと、その横にヴァレンタインが「黒い板の魔道具」を並べた。
「帝国にもスマホがあるのか……? いや、少し違うな」
酷似しているが、細部の意匠が異なる。
「これは、その『スマホ』とやらを解析し、複製したものだよ。ドレイヴンにも同じものを持たせてある。魔素が少ないこの世界では起動しないようだがね」
「それでしたら、先ほどまでいたダンジョンの下層であれば、多少であれば使えるかと思います」
ノーラの提案に、ドレイヴンが勢いよく立ち上がった。
「確かにあそこでは魔素を感じた!試してみる価値はあるな! マグノリア達に無事を報告せねばならん。早速ダンジョンへ戻るぞ!」
「いやいや、今日はもう勘弁してくれ! 疲れたし、情報過多で頭がパンクしそうだ!」
悠馬の叫びが、積み上がった皿の山に虚しく響いた。
お読みいただきありがとうございます!
悠馬のスキルが「自我」を持っているという衝撃の仮説。
ドレイヴンの視界に現れた「黄金の矢印」は、単なる共有ではなく、スキル自体が「この男を助けるべきだ」と判断した結果だったのかもしれません。
強力すぎるがゆえの制限と導き。悠馬は「道順」とどう向き合っていくのか、物語の根幹に触れる回となりました!
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