47. 最適解は、回転する
特級ダンジョン主の間。
円を描くように向かい合う5人の姿は、どこからどう見ても異様な光景だった。
「とりあえず……自己紹介って感じでもないか」
悠馬は4人を見渡すが、それぞれに深い面識があるのは一目瞭然だ。
1人だけ初対面の女が、黒いローブを翻して歩み出る。
「遅れてきた私は自己紹介しておこうかしら。名はヴァレンタイン。魔導具職人をやっているわ」
妖艶な笑みを浮かべ、悠馬を値踏みするように見つめるヴァレンタイン。
その色香に圧倒され、悠馬は思わずたじろいだ。
「お、おう。俺は小栗悠馬。探索者だ。こっちに来た2人の、まあ……保護者みたいなもんだ」
「ふーん……。ねぇアリス、なかなか良い男じゃない」
「…………悠馬お兄さん、目がエッチです」
「そうですね。名古屋のピンク色のお店に向かう、男性の目に似ております」
「なんだそりゃ! 名古屋のって、言いがかりじゃねぇか!」
アリスとノーラの冷ややかなジト目を食らい、悠馬はさらに狼狽える。
それを見たドレイヴンが、雷鳴のような笑い声を上げた。
「がははっ! 男子たるもの健全でなければな! ユーマも健康という事であるな!」
「へー。じゃあ、お父様も健康なのでエッチという事ですね」
「えっ! パパはそんなんではないぞ! アリス! こっちを向いてくれないか!」
父と娘の距離感というのは、どの世界でも同じなんだな……。
悠馬は、必死に娘を追いかける巨漢を見ながら、遠い目をして思い耽った。
「さて、じゃれつくのはその辺にしておくれ。小栗悠馬、ここは本当に『異世界』なのかい?」
「悠馬でいい。そうだな、あんたらからすればそうだろう。俺から見ればそっちが異世界なんだがね」
「あははっ、確かに。あんた面白いこと言うじゃないか」
ヴァレンタインは面白そうに喉を鳴らして笑う。
「とはいっても、ここは日本のダンジョン内だ。異世界の中でも特段、不思議空間って感じだな。……さて、そろそろ主の間の『制限時間』が来そうだ。一旦地上へ戻ろう」
「ユーマ、地上と言ったか? ここは地面の下なのか?」
「そうだよ。説明するより目で見た方が早い。こっちへ来てくれ」
5人は脱出ポータルへ向かう。
地上へと帰還する脱出ポータルを前に、悠馬が起動の準備を整える。
「ちょっと不思議な感覚がするが大丈夫だ。現にこの2人は経験している」
「そ、そうであるか。なら信じよう」
少し戸惑いを見せるドレイヴンの横で、ヴァレンタインは「ほう……」と呟きながらポータルをペタペタと触り、その構造を分析し始めている。
「さあ、行くぞ」
――新宿、地上。
悠馬たちにとっては見飽きた日常の風景も、異世界から来た2人には驚きの連続だった。
「ユーマ、空まで伸びるあれはなんだ! 倒れたら民はどうなるのだ!」
「魔素が全くないんだねぇ。じゃあ、あの箱はどうやって動いているんだい? 『車』? 『ガソリン』? なんだいそれは?」
質問ばかりを繰り返す2人は、まるで壊れたラジオのようだ。
「このくだり、1回やってんだよ……。とりあえず管理局行くからこっち来てくれ」
悠馬は駐車場へ向かおうとしたが、ふと大事なことを思い出した。
「ああ、ダメだ。俺の軽4人乗りだったわ……。仕方ない、地下鉄で行くぞ」
道中もうるさかったが、地下鉄に乗れば「うるさい」が4人に増えた。
「悠馬お兄さん、ここは地下で……ダンジョンではないのですか?」というアリスに、「悠馬様、なにやら美味しそうな香りがします」と鼻を鳴らすノーラ。
もはや頭を掻くことすら忘れ、悠馬は無言で管理局へと突き進んだ。
――ダンジョン管理局、窓口。
「さて、悠馬……。これは一体どういう事なの? 説明してもらえるかしら」
死んだ魚のような目でパソコンを叩く望海が、低い声で問い詰める。
「今、説明しただろうが。俺もよくわかんねぇんだよ」
「あんたは定期的にあっちの人を拾ってこないと気が済まないわけ!? 処理する私の身にもなってよ!そして何で今回もニコイチなのよっ!」
「がははっ! ノゾミ殿だったか! アリス達から話は聞いておる。なにやら良いもの(試供品)を献上してくれたとか! 感謝する!」
「は、はぁ……。悠馬、なによこのデカいオッサンは」
「アリスの親父さんだ。向こうで辺境伯っていう貴族をやってるらしい」
「えっ! アリスさんのお父様!? ……これは失礼しました! お父様、今後ともアリスさん達と仲良くさせていただきますね!」
(なんでこのデカい熊みたいなのから、あんなに可愛いアリスちゃんが……)などと失礼なことを思いつつも、望海は猛烈な速度でデータ入力を進めていく。
――――
「とりあえず、これ2人の探索者章。 詳しい説明はあんたがしなさいよ」
「はいよ、いつもすまんな。今度なんか持ってくるわ」
「ありがと。期待せず待ってるわ」
管理局を後にした一行。 アリスが悠馬の袖を引いた。
「悠馬お兄さん! お腹が空きました!」
「アリスお嬢様の言う通りで御座います。今日は『スシ』というものを食べに行けると、期待に胸が躍っております」
「なんだ、メシか! たしかに腹が減ったな。異世界のメシ、期待させてもらおう!」
「ええ、私も気になるわね。食文化から見えるものだってあるのだから」
背後から迫る4人の「食欲」のプレッシャーに、悠馬は遠い目をした。
「……ええ、この人数で寿司かよ。回らない寿司って言ったけど……無理だろコレ」
考え抜いた軍師・悠馬は「最適解」を導き出す。
その答えとは……。
「これもデカい建物だな。まあ、ワシの家には負けるがな! がははっ!」
「悠馬お兄さんが連れてきてくれるお店は、全て美味しいのです! 早くいきましょう!」
一行の前には『ス〇ロー』の看板が大きく鎮座する。
「迷惑だから、店の前ではしゃぐな。……ほら、入るぞ」
爛々と目を輝かせる4人を引き連れ、悠馬は扉を開く。
お読みいただきありがとうございます!
帝国では恐れられる辺境伯も、娘のアリスの前ではタジタジですね。悠馬に向けられるアリスとノーラの冷ややかな視線も、もはや様式美を感じます(笑)。
そんな中、軍師・悠馬が導き出した「大人数×寿司」の最適解が『ス〇ロー』!
「回らない」と言いつつチェーン店を選ぶ悠馬の絶妙な現実主義っぷりが光ります。
果たして、ドレイヴンたちは無事に注文用のタブレットを使いこなせるのでしょうか!?
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