表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦闘スキル無しの元・狂戦士。~案内人の男、最短の矢印で最強の異世界騎士団を導き現代ダンジョンを無双する~  作者: くるまAB
第2章:重なり合う異世界

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/81

44. 【帝国・現在】次元を越える一撃

 黒い霧が、音もなく蠢く。


 それは無残に散らされた死の残滓をかき集め、再び悍ましい姿を形作ろうとしていた。

 

 輪郭が実体へ変わるのも、もはや時間の問題。

『黒い死神』の再臨が、すぐそこに迫っていた。


「くそっ……!」


 マグノリアが、吐き捨てるように叫び、大剣を振るう。


 凄まじい風圧が霧を裂くが、手応えはない。

 霧散させるに至らず、むしろ斬れば斬るほど、霧はその密度を増していく。


「はあっ、はぁ……まだ、足りぬか……っ」


 マグノリアの筋肉は、とうの昔に限界を超えていた。

 

 丸太のような太い腕にはどす黒い血管が浮き出ており、一太刀ごとに細胞が内側から引きちぎれるような激痛が走る。


「ヴァレンタイン殿! 回復魔法をお願いできないだろうか……!」

「すまないね。そっち方面はからっきしなんだよ。……私の領分は、こっちだ!」


 ヴァレンタインは苦渋の声を返しつつも、結界魔法の詠唱を止めない。

 彼女の額には大粒の汗が滲み、指先は魔力枯渇の予兆で微かに震えている。


「魔道具……起動、しましたぁっ!」


 アイリの叫びが響くが、魔道具から放たれたのはあまりにも弱々しく、心許ない光だった。


 満身創痍のドレイヴン。

 魔道具の発動で精一杯のアイリ。

 立っているのがやっとのマグノリア。

 そして、魔力枯渇寸前のヴァレンタイン。


 ――その絶望をあざ笑うように、霧の中から死神が再び姿を現した。


「再登場には少し早くないかい、死神さん……。 マグノリア! 時間を稼ぎな! あと少しで結界が発動する!」


「……ええ! やってやりますよ! 何と言っても……『主の命令』は――絶対。ですので!」


 騎士のプライド。ただそれだけを燃料に、マグノリアが剣を振るう。


「アイリ! あんたも加勢しなっ! 死にたくなければ、マグノリアを支えなさい!」


「は、はいっ! マグノリア様、お支えします! やああああああああっ!!」


 アイリが叫びながら、その小さな体で死神の懐へと飛び込む。

 

「アイリ、無茶だ! 下がっていろ!」

「無理です! 私だって騎士の端くれです! ヴァレンタイン殿、いえ『主の命令』は――絶対。 ですよね。」


 アイリの軽口にマグノリアは口角を上げる。

 しかし、アイリのその震える手は長剣を構えるので精いっぱいだった。

 

 懸命に、死神が放つ冷気の波に必死に抗う。


 マグノリアが正面から大剣で受け止め、その隙間をアイリが必死に突き刺す。

 2人が死に物狂いで剣を振るい、抵抗を続ける。


 だが、奇妙なことが起きていることにヴァレンタインが気付く。

 死神の動きが、先ほどまでの圧倒的な「圧」を失っていたのだ。


「……どういう事よ。以前より、弱体化している……?」


 理由は分からない。

 だが、死神は何かに怯えるように、あるいは別の場所へ意識を奪われているかのように、その反撃は精彩を欠いていた。

 

 今だ――。ヴァレンタインが結界の最終段階に入ろうとした、その瞬間だった。


 洞窟の天井から、眩いばかりの光が溢れ出した。

 それは強固な岩盤を透過し、死の臭いに満ちた広間を純白に染めていく。


「な、何……? この光……」


 アイリが呆然と上を見上げる。

 

 暴力的なまでの輝きでありながら、肌に触れる感覚はどこまでも柔らかい。

 その光の中で、ドレイヴンがゆっくりと、奇跡のように身を起こした。


「辺境伯様! いけません、まだお体が……!」


 アイリの制止も聞かず、ドレイヴンは立ち上がる。


 全身の骨が砕けたような重圧、肺に突き刺さるような痛み。

 だが、この不思議な輝きを浴びていると、凍りついていた細胞が劇的に呼び覚まされるのを感じた。


 懐かしい感覚だった――。


 かつて、幼い愛娘が初めて光魔法を暴発させた時の、あの不器用で、けれど純粋な温かさに満ちた光に、どこか似ている。


「……ふん。不思議なこともあるもんだ。死に際に見る夢にしては、随分と温かいではないか」


 ドレイヴンは、光に導かれるように一歩、また一歩と前線へ足を踏み出す。


 その時、彼の濁った瞳の中に、鮮烈な『黄金の矢印』が明滅した。

 死神の足元から胸元へと吸い込まれていく、一本の光の筋。


「マグノリア! アイリ! ……そこに浮かぶ『黄金の矢印』が見えるか!」


「えっ……? 矢印、ですか? 何も見えませんが……!」

「御屋形様、やはり意識が混濁して……っ!」


 マグノリアとアイリの必死の問いかけを、ドレイヴンは鼻で笑い飛ばした。


「そうか、ワシにしか見えんか。……なら、余計な心配は無用だ」


 ドレイヴンは、自分を支えようとする2人の肩を、大きな手で力強く押し退けた。


「下がっていろ、2人とも。ここからはワシの仕事だ」


「お、御屋形様……」


 ドレイヴンは、広間の中心へと歩みを進めた。

 その瞳の先には、光によって身動きすらとれなくなっている、死神の姿がある。


 その視界の中、黄金の矢印が脈動を強めていく。

 ドクン、ドクン……と、己の心音と、矢印の明滅が同期を始めた。


 周囲の音が、急速に遠のいていく。

 

 ヴァレンタインの詠唱も、アイリのすすり泣くような吐息も、死神が撒き散らす不快な咆哮さえも。

 

 世界から色が消え、ただ1本の『黄金の矢印』だけが、ドレイヴンの意識を支配する。

 かつて戦場を幾千と駆け抜けた経験が、今、極限の集中状態ゾーンへと彼を導いていた。


(……理屈などではない。だが、信じろとガードルドの血が叫んどるわ。どこかで同じ道を見とる誰かがおる。……なら、ワシが外すわけにはいかん)


 カチ、カチ、カチ……。


 明滅の速度が限界まで高まり、ついには揺るぎない光の槍となって、死神の『核』を指し示した。


 ――いまだ。


 コンマ1秒の躊躇も、狂いもない。

 黄金が最大に輝いたその刹那、ドレイヴンは大剣を振り抜いた。

 

 フォンッ――。


 広間を切り裂いた一撃は、死神の『核』を、その実体ごと、概念ごと一刀両断に切り伏せていた。

お読みいただきありがとうございます!


死神の再臨という絶望から一転、世界が止まったかのような極限の集中状態ゾーンへ。

理屈ではなく、ガードルドの血の叫びに身を任せて大剣を振り抜いたドレイヴン。

概念ごと切り伏せたその1撃は、まさに帝国最強の証明でした!

果たして、この一撃は日本側にどのような影響を及ぼすのか……?


毎日18時に更新しております!


「逆転の一撃が爽快すぎる!」「ドレイヴン頑張れ!」と思っていただけたら、作品フォローやブックマーク、星(★★★★★)での応援をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ