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戦闘スキル無しの元・狂戦士。~案内人の男、最短の矢印で最強の異世界騎士団を導き現代ダンジョンを無双する~  作者: くるまAB
第2章:重なり合う異世界

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43/80

43. 【日本】『白』と『白』

またも執筆に熱が入り、4000文字オーバー!汗

是非ともオグリ家騎士団の熱い戦いにお付き合いください!

 『白い死神』と睨み合った刹那。

 

(――ッ!?)


 網膜に焼き付くような、どす黒いまでの『真っ赤な矢印』。


 それが、幾十、幾百と重なり合い、高速で明滅する。

 道標ガイドポストが、全霊を挙げて叫んでいた。――**『死(DEAD)』**だと。


「アリス! そこから離れろ!」


 悠馬の怒号に、アリスは反射的に後方へと跳んだ。

 

 着地すら待たず、白い死神が動く――。

 いや、動いたようにすら見えなかった。

 

 ただ雑に、その骨ばった右手を水平に振った。


 何もない。

 そう思った瞬間、アリスの右脇腹から鮮血が噴き出した。


「きゃぁぁっ!! ……な、なんで……っ」


『何』に『どうやって』攻撃されたのか――。


 物理的な接触も、魔力の奔流も感じなかった。

 それなのに、肉を裂かれた感触だけが確実に刻まれる。


 アリスは何とか着地したが、指の間から溢れる血は止まる気配がない。


「悠馬様! 私はアリスお嬢様の確保に向かいます! 繋ぎをお願いします!」

「ああ! わかった……アリス、スイッチだ!」


 ノーラの鋭い提案に、悠馬は迷わず応じる。


 前衛のアリスと入れ替わるように、悠馬が前に出る。

 その手に握られているのは、青黒い短剣だ。


 同時に、ノーラがアリスのもとへ駆け寄る。

 悠馬の視界には、今や2つの色が混在していた。


 死を宣告する『赤い《DEAD》矢印』。

 そして、わずかに残された生存への道筋を示す『青い《ALIVE》矢印』。


(止まってる暇はねえな……!)


『青』が示す最小の動きに従い、悠馬は死神の懐へと踏み込む。

 

 死神の足を止めるべく、短剣を振りかざす。

 対する死神は、またも無造作に右手を突き出した。


 その瞬間、悠馬の視界に『青い矢印』が万華鏡のように乱舞する。

 悠馬はその中から、1つの回避先を選び出し、攻撃の勢いを殺して体を捻った。


「……どういう事だ。少し、試してみるか」


 悠馬は口角を歪め、死神へと肉薄する。

 わざと隙を晒し、死神の迎撃を誘う。


 その度に、回避を示す矢印が視界を埋め尽くす。


 1回、3回、10回――。


 幾数回、生死の境を反復しただろうか。

 悠馬の中で、ひとつの推論が形を成していく。


「なるほど、そういう事か……。なら、これはどうかな!」

 


 一方、後方ではノーラが血の気の引いた顔でアリスを抱え上げていた。


「アリスお嬢様……っ!」

「いてて……やっちゃいました。へへ……」

「もう! 笑い事ではありません! 見た目ほど傷は深くはないようですが、出血量が異常です!」


 傷口は浅い。

 しかし、まるで血管が塞がることを拒んでいるかのように、血が溢れ出し続けている。

 

 軽く笑うアリスの頬が、見る間に土気色へと変わっていく。

 その矛盾した事実が、冷静沈着なノーラを焦らせ、思考を鈍らせた。


「ああ……っ、今すぐ回復薬を……ない! ならば薬草を…ない!なぜっ!」

「ノーラ! ……落ち着いて」

 

 ここは現代日本。

 帝国では当たり前の回復薬も、薬草も存在しない。

 

 取り乱す従者の手を、アリスが弱々しく、けれど確かな力で握り返した。

 

 どろりと、アリスのわき腹から溢れた熱い鮮血が、彼女自身の掌を真っ赤に染め上げている。

 

 その血に濡れた小さな両の手が、ノーラの白い手袋を容赦なく汚し、強く、強く掴んだ。

 生々しい鉄の臭いと、決して折れないあるじの指の力が、かえってノーラの意識を現実に繋ぎ止めた。


「私は大丈夫だから。……あなたが取り乱してどうするの? あなたは辺境伯が娘、このアリスリア・フォン・ガードルド付きの従者なのでしょう?」


 いつもとは正反対の構図。

 あるじに諭され、ノーラは大きく息を吐き、瞳は光を取り戻す。


「……申し訳ありません。少々……取り乱しておりました」

「そう、それでこそノーラよ。……さて、私とあなたはどうすればいいの? 明確な答えが欲しいわ。ノーラ……あなたにしか出来ない事なのです」


 ノーラは重く、苦しい決断を下した。


「ここで回復魔法を行使します。……ご容赦ください」


「ええ、わかりました。あなたの決断を――信用します」


 アリスは覚悟を決め、目を瞑った。ノーラが目を見開き、両手を傷口にかざす。

 次の瞬間、眩いばかりの光が、ノーラの手を中心に爆発した。


 その直後。


『うわぁぁぁぁーーーー!! あっ、あがっ!! あぁぁーーーー!!』


 広間の空気を引き裂いたのは、アリスの断末魔だった。


「おい! 何事だ! 何してるんだノーラ!」


「少し黙って頂けますか……これが、貴方の仰っていた『おとぎ話』とやらです」


 ノーラは額に玉の汗を滲ませ、震える声で答えた。


 回復魔法――。


 ――それは『傷を癒す為に、同じ痛みを負う』魔法。


 魔素が少なければ少ないほど、その痛みは倍増する。

 逆に魔素が濃密であれば、ほぼリスクなく回復が可能となる。

 

 アリスは今、受けた傷を修復するために、その傷を負った瞬間の苦痛をより濃密に反芻しているのだ。

 

 魔素が十分ではない下層で行われる『回復魔法』。


 2度、エグられる――。

 その痛みに耐えきれず、命を落とす者すらいる。


 ――それが「奇跡」の代償だった。


「悠馬様! アリスお嬢様は戦線に復帰すべく、自ら生を掴み取っておいでです! 維持と解明をお願いいたします!」


「……ああ! 任せとけ!」


 悠馬は短剣を翻し、死神へと飛びかかる。

 アリスが地獄の苦しみに耐えている――ならば、俺が止まるわけにはいかない。


 再度、打ち合う悠馬と死神。

 幾合かの後、確信する。


「やっぱり、そうか……!こいつ、何かを守ってやがる」


 乱舞する『青い矢印』の正体。

 それは『白い死神』が攻めではなく、守りに徹しているサインだった。

 

 ――その時。


「悠馬お兄さん! お待たせしました! アリス・フォン・ガードルド、戦線に復帰します!――エ、エッヘン!」


 額に汗を滲ませ、そして痛みに涙を浮かべながらも、凛とした声が響く。

 立ち上がったアリスの頭上で、アホ毛がピンっと、再戦の意思を示すように立っていた。


「よし! さっき聞いた『聖光斬ホーリー・エッジ』、あれをぶち込むぞ。俺がアイツと打ち合うから、指示通りに飛ばせ!――行けるな、アリス!」

「行けます! お任せくださいです! エッヘン!」


 悠馬は問わず、語らない。

 ただ、アリスが復帰した。


 ――今はそれが事実であり、『勝利』への切符だ。

 

 事前の作戦会議の際、悠馬はアリスの持ち技をすべて洗い出していた。

 その中で「出は早いが、直進的で避けられやすい」と評した光の斬撃。

 

 それを、今の悠馬なら「当たる瞬間」へと導ける。


 死神が右手を振る。その数メートル先、何も存在しないはずの空間を、悠馬が短剣で弾いた。


 ――ガキンッ!


 金属音が響く。

 返し手で、悠馬は逆袈裟に短剣を振るった。それも、死神から数メートル離れたくうに向かって。


 ――ガッ!


 悠馬と死神の動きが、同時に止まる。

 そう、死神の武器は――『不可視の刃』。


 空間そのものを切り裂く『断層』が発生しているのだ。


「アリス、ヤツの弱点は右腕の付け根から中心に向かって30センチだ。3秒後に行くぞ! 構えろ!」

「はいっ!」

 

「――いまだっ!」


 アリスが咆哮と共に大剣を振り下ろす。眩い光を纏った斬撃が、死神を襲う。

 

 届く。

 誰もがそう確信した瞬間――。


 ――キィンッ!


 死神は、その白い法衣を翻すだけで、光の刃を容易く跳ね返した。


「くそっ! もう一度だ!」

「はい! 行きますっ!」


 二度、三度。

 ――だが、届かない。


「……っ、クソが! あとコンマ数秒、足りねえ……!」


 悠馬は奥歯が砕けるほどに噛み締めた。


 ……見えている。

 

 矢印は完璧に『最適解』を指し示している。

 なのに、自分の声が空気を伝わり、アリスの脳が反応し、筋肉が動く。


 その『生物としてのラグ』が、決定的な溝として横たわっていた。


(――またか。また、届かねえのか……!)


 脳裏に、かつて目の前で命を散らした有村花の姿が蘇る。

 あの時もそうだ。

 

 正解は分かっていた――。

 

 なのに『最適解』が、彼女の命を奪う刃となった。

 これほどまでに答えを知りながら、手が届かない。


 その絶望と屈辱に、悠馬の視界が怒りと過去のトラウマで赤く染まる。


 だが、目の前のアリスはまだ、死んでいない。

 痛みに震えながらも、彼女は悠馬の『声』を信じて剣を握り直している。


(花、見てろ。今度は……届かせてやる。たとえ、俺がどうなったってな……!)


(やるしかねえか……『感覚共有』。あれ、死ぬほど疲れるんだよなあ……いや、死ぬ『ほど』だ!……相棒を死なせるより――マシだ!)


 その逡巡の最中、悠馬は見た。

 死神の反応が、一瞬だけ遅れたのを。


(……弱体化してる? なぜだ。さっきのノーラの光か、それとも……)


 刹那、脳内に電光が走る。

 

 ――今しかない。

 

「アリス! ヤツを弱体化させる魔法はあるな!」

「はいっ!多分いけると思います! 多分ですがっ!」


 曖昧なアリスの答えに口角を上げながら、悠馬は指示を続ける。


「合図したらそいつを発動しろ! そのまま『感覚共有』に入るから、『黄金の矢印』に従ってアイツを撃て!」

「わかりました! ですが、それだと悠馬お兄さんが無防備に!」


 魔法の行使で膝をつくノーラ。

 魔力を全開放するアリス。


 ――今、悠馬を守る盾は何もない。


「……いいから、やれ!」


 悠馬の瞳にアリスが映り、アリスの瞳に悠馬が映る。

 過去を振り払うように、悠馬はアリスに全てを託した。


「いけ! 今だっ!」


「――『純白色の閃光ピュアホワイト・ノヴァ』!!」


 アリスの叫びと共に、アリスの身体から眩いばかりの純白色の光が爆発した。

 広間の隅々までを暴力的なまでの光が塗りつぶす。


「グオォォォォーーーーーー!!」


 死神が、生まれて初めて「光」という恐怖に直面したかのように暴れ狂う。

 それを見届けるように、悠馬の意識が遠のき、その体がゆっくりと崩れ落ちた。


(あとは、頼んだぜ……相棒)


 悠馬、死神、そして戦場。

 その全てが、悠馬から流れ込んでくる『感覚共有』によって、アリスに突きつけらける。


 アリスは、重力から解放されたかのように、光の中を飛び上がった。


「ここで、私が決めなきゃ……! アリスリア・フォン・ガードルドの名に懸けて!」


 名乗りを上げ、アリスは大剣を正眼に構える。

 その視界の端。


 悠馬から共有された世界の中で、アリスはそれを見た。


 無数に輝く『黄金の矢印』のひとつが、逃げ場を示すのではなく――。

 

 咆哮を上げる死神の胸元へと、真っすぐに吸い込まれるように消えていくのを。


(――え?)

お読みいただきありがとうございます!


便利なだけのおとぎ話ではない、残酷なまでにリアルな「回復魔法」の代償。

取り乱すノーラの手を握り、逆に勇気づけたアリスの姿は、まさに帝国の高貴なる血筋を感じさせるものでした。

2度エグられるような痛みを乗り越え、主従の絆がさらに強固になった今、死神を討つ準備は整いました。悠馬が全てを託した一撃の行方に注目です!


毎日18時に更新しております!


「ノーラとアリスの絆に涙……」「ノーラ頑張れ!」と思っていただけたら、作品フォローやブックマーク、星(★★★★★)での応援をよろしくお願いします!

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