41. 【日本】純白色の断罪、白色の死神
執筆に熱が入り、過去最長の4000文字オーバーとなりました!
オグリ家騎士団のダンジョン攻略を是非お楽しみください。
特級ダンジョン『虚無の門』 中層――。
「中層の主の間までは直ぐだ。このまま直行するぞ! ちゃんとついてこいよ」
悠馬が振り返らずに告げる。
その視界には、彼にしか見えない「矢印」が――迷宮の法則を無視して、最短ルートを指し示していた。
「はい、悠馬お兄さん!」
アリスが元気よく、その頭上のアホ毛をピンと立たせて返事をする。
「御意に」
ノーラもまた、主の背を守るように鋭い視線を周囲に走らせながら従う。
『虚無の門』
その名の通り、道中に現れる魔物は実体を持たない霊体系がほとんどだ。
レイスが壁から透け、髑髏騎士がカタカタと音を立てて襲い来る。
だが、異世界から来た2人と、最強の案内人の前では、敵ですらなかった。
「アリス、止まれ! 一度引き返すぞ」
突如として悠馬が鋭い声を上げた。
アリスがバタバタと急ブレーキをかけ、地面を削って止まる。
「どうしました? 悠馬お兄さん、お腹すきましたか?」
「お前と一緒にすんな。……また内部構造が変化したんだ」
悠馬が舌打ちをする。
このダンジョンが未踏破のまま放置されてきた最大の理由は、この「常に変動する迷路」にある。
マッピングなど無意味、案内人なしには一歩進むことすら命取りだ。
「またですか。こう頻繁ですと足止めどころの話ではございませんね」
ノーラが呆れたようにため息をつく。
「あぁ、その通りだ。俺たちは『道標』があるから何とかなってるが……普通ならここで一生迷って干からびるな」
悠馬は「矢印」が新たに描き出された正しい道を指し示すのを確認し、迷いなく踵を返した。
幾度かの方向変換を経て、一行はようやく巨大な黒鉄の扉の前に辿り着いた。
「準備はいいか。主の間だ」
悠馬が扉をゆっくりと押し開く。
部屋の奥、鼻を突くような死の腐臭と共に、巨大な影――オーガゾンビが鎮座していた。
その皮膚はどす黒く変色し、所々が腐り落ちて赤黒い肉が露出している。
裂けた口からは、粘り気の強い緑色のよだれが絶えず床に垂れ落ち、不気味な音を立てていた。
何より異様なのは、その瞳だ――。
左右の焦点が全く合っておらず、片方は天井を、もう片方は虚空を睨みつけている。
意思の感じられないその虚ろな眼窩から、ただ生者への憎悪だけを垂れ流していた。
その姿を見た瞬間、アリスとノーラは記憶をたどる。
「……あれは、あの時の」
「……えぇ。私達がこちらの世界来た瞬間、棍棒を振り回してきた……あの、忌々しき怪物の成れの果て、ですね」
転移直後、目の前のオーガに一撃で沈められた苦い過去。
その腐敗し、さらに醜悪になった姿を前に、2人の瞳に鋭い闘志が宿る。
「一同、散開! ノーラ、特大の氷柱を直線方向に発射! アリスは氷柱着弾後、現在地から3時の方向、斜め45度へ跳躍! そのまま空間を切り裂け!」
「「了解!」」
2人の返事が重なり、戦場が動く。
ノーラの放った巨大な氷柱が、轟音と共にオーガゾンビを襲う。
だが、意思のない身体は痛覚を持たないのか、怪物は獣のような動きで横へと跳んだ。
「――そこだ!」
悠馬の指示は完璧だった。
アリスが虚空に向かって振りかぶった大剣。
その軌道上に、着地を狩られる形でオーガゾンビが、文字通り自分から当たりに行った形となる。
重い斬撃に思わず膝をつくオーガゾンビ――だが、悠馬の指示は終わらない。
「ノーラ、2秒後に部屋全体の床に対し氷魔法展開! あいつを足止めしろ! アリスは目視後、全力でぶち抜くぞ!」
カウント2――。
床が一瞬にして氷原に変わり、体勢を立て直そうとしたボスの足元を凍り付かせる。
そこにアリスが魔力を練り上げる。
「ガードルドの名に懸けて――純白色の断罪!!!」
アリスの放った光の一撃が、かつて自分たちを絶望させた「オーガ」の成れの果てを、眩い光の塵へと変えた。
轟音が止み、静寂が戻ると、足元には魔石と素材、そして脱出用のポータルが出現する。
そしてそれ以上に、3人の視線を釘付けにしたのは、さらに深部へと続く下層への階段だった。
「よしっ、討伐完了だな」
前人未到の下層への階段が出現し、3人は歓喜する。
「降りる前に少し休憩していこう。ここなら1時間は何も出てこない」
「そうなんですね!知りませんでした! あと……お腹すきました!」
アリスはアホ毛を振り回しながら、お腹をさすっている。
「今までは実績だのなんだのと、高速周回してたからな、ゆっくりなんてする暇なかった」
「たしかに、そうで御座いましたね。食いしん坊のお子様もいらっしゃるようですし、食事と致しましょう」
そう言いながら、ノーラは花柄のレジャーシートを広げ、食事を準備する。
「ノーラ……それ……どこから出したんだ」
悠馬の問いに、ノーラは人差し指を口にあて茶目っ気たっぷりにウインクした。
――――
「そういえば、2人がこっちに来た時の状況って聞いてなかったな」
「えっ? そうでしたっけ?」
「言われてみればその通りかと。とはいえ私達も何が何だかわからないまま、というのが御座いまして……」
「せっかくだし、聞かせてくれよ」
「かしこまりました。あれは死の森、魔物討伐作戦が終了した後……」
ノーラはゆっくりと言葉を重ねる。
「なるほど。それで洞窟で光に包まれ目をあけたら、目の前にオーガの棍棒があったと……」
「はい、突然すぎて対処できませんでした。その後は悠馬様もご存じのとおりです」
「……なるほどなぁ。光が出る前に何かなかったのか、予兆?的な」
「その前ですか……記憶が曖昧でし……!?いえ、あれは……たしか魔法陣のようなものが天井にあった……よう……な」
「ん? なにか思い出したか?」
「たしか、アリスお嬢様が『天井が高い』といって……上を見上げ……」
「それ! わたしのギュウドンです!!」
突然の大声に、2人は驚きながらアリスを見る。
「むにゃむにゃ……3000杯の……ギュウドン、うふふ」
「……こいつ、寝てやがる」
ノーラの怒りの拳で叩き起こされたアリスは、涙目でアホ毛を萎れさせている。
――――
「さて、下層なんだが。 今まで以上に厄介になる気がする」
「やっかい……ですか?」
悠馬の言葉に、アリスの頭上には「?」マークとタンコブが浮かんでいる。
「あぁ、このダンジョンは霊的なものや、アンデッド系が多い。今後は物理攻撃が効かなくなる可能性が高い」
「たしかに、想像に難くないですね」
「ノーラの氷魔法は通じるとは思う。ただ、範囲攻撃としては優秀だが、決定的な火力という部分では不安が残る」
「そう言われますと、返す言葉も御座いません。 道中の敵ならばよいのですが下層の主となりますと、私では力不足かと」
「……と、いう事は私の光魔法の出番ですね! エッヘン!」
今まで見た事ないレベルでアホ毛が旋回している。そのまま飛べそうだ。
「ははっ、たしかにそうなるな。期待しておりますよ副団長殿」
「アリスお嬢様、宜しくお願いいたします」
「あたしに、まっかせなさーーい! です」
休息を終え、下層へと足を踏み入れる一行。
特級ダンジョン『虚無の門』 下層――。
ランダムギミックをものともしない一行の攻略速度は、中層と変わらなかった。
「なんか、拍子抜けだな」
悠馬はポリポリと頭を掻く。
「そうですね。物理攻撃も通りますし、私の氷魔法でも対処可能な範囲です」
「もっと強いのが出てこないと私が輝けないのです! むー!」
「そうだなぁ。……ノーラ、右前方三匹レイス。目の高さでナイフ投げろ」
「はっ!」
会話の途中に挟まれた悠馬の指示に、ノーラが淀みなく応じる。
放たれた三条の銀閃が、同時にレイスの核を貫いた。
「お見事」
「恐縮です」
軽口を叩きながらも、その実力は本物だ。
だべりながら片手間で死地を掃討していくその姿は、傍から見れば異様な光景だった。
「それに、何だか敵さんも少ない気がします」
まさにその通りだった下層に入ってからというもの、接敵することが目に見えて減っていた。
たしかに個体レベルでは強くはなっているが、ここまで閑散とした階は初めてだった。
「なんか嫌な予感もするし、気を引き締めろよ。ここは最難関特級ダンジョンの下層だ」
「「はい」」
数階も降りたところで、主の間へと到着した一行。
その扉は見たこともない、黒と白の模様が渦まくように描かれていた。
「……ここ、多分なんだが最下層だ」
「えっ! 早くないですか」
「そうだな。ただ、……この空気感は異常だ」
「ギミックで消耗させ、即座に主の間へ引きずり込む構成という事でしょう。悪趣味ですね」
ノーラが眉をひそめ、冷徹に分析する。
「何が来ても大丈夫です! 光魔法でどーーんです! エッヘン!」
アリスが意気揚々と巨大な扉に手をかける。
悠馬はその背中を見守ろうとしたが、ふと、隣に立つノーラの横顔が目に入った。
彼女は短剣を抜くでもなく、眉をひそめ、何かに取り憑かれたような怪異な表情で扉の「模様」を凝視していた。
黒と白が渦巻く、あの異質な紋様を――。
(……どこかで、目にしたような……?)
ノーラの脳裏に、あの日、死の森の洞窟で意識を失う直前に見上げた、天井の光景がフラッシュバックする。
けれど、記憶は霞がかかったように曖昧で、確信には至らない。
「……ノーラ? どうかしたか」
悠馬の問いかけに、ノーラがハッと我に返り、言葉を発しようとしたその瞬間。
ギィィ……ッ。
アリスが迷いなく扉を押し開いた。
いつもより薄暗いその部屋はやけに広く、そして底冷えするような死の気配に満ちていた。
「何も……ない?」
悠馬がそう発した瞬間。
ガリッ――、と。
何もない虚空が、見えない爪で引き裂かれたかのように歪んだ。
裂け目から這い出る様に現れたのは、白い法衣をまとった巨大な骸骨だった。
その巨大すぎる体躯に、一行は思わず見上げる形となる。
「また、お前(骸骨)かよ……やけに縁があるな、おい」
悠馬の額に汗がにじむ。
本来目がある部分は、黒く深い穴があいており、青白い炎が怪しく揺れ動いている。
その『白い死神』ともいえる者の両の手は、何も持っておらず、逆に正体不明の恐怖を駆り立てる。
「あぁ、やってやるよ……。おい! 2人とも相手が空手とはいえ何をしてくるか分からない! 指示を聞き洩らすなよ!」
「はい!」
「御意に」
オグリ家騎士団――特級ダンジョン深層へ、最後の試練が始まる。
お読みいただきありがとうございます!
扉の紋様に既視感を覚えたノーラ。あの「死の森」の天井にあった魔法陣と、このダンジョンの最下層が繋がっているのでしょうか……。
武器を持たない「白い死神」の不気味さが、これまでの敵とは一線を画しています。
悠馬の指示を生命線に、彼女たちはこの未知の恐怖を打ち破れるのか、緊張感が限界突破です!
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