8-15:オークション終了後の会場にて
■セイヤ・シンマ 基人族 男
■24歳 転生者 SSSランク【黒屋敷】クラマス
オークションが終わった。徐々に席を立つ人が増え、出口へと列を成していく。
俺たちはしばらく席についたまま待機だ。焦って帰っても仕方ないし混雑に巻き込まれたくない。
結局シークレットは普通の武具だったな。大体予想はついてたけど。
昨年もオークションの後半に目玉商品が並び、最後に魔剣というラインナップ。そしてシークレットで武具が出ていたが、そこで出たのは『目玉となるかそれ以下か』というくらいの品だった。
今回も同じだ。最後に出たのは俺の【風竜の直剣】。これが最も価値のある目玉商品ということだろう。
個人的には【炎岩竜の短剣】のほうが価値はあると思っているが、上位竜だの下位竜だの世間が知るはずもないし、短剣よりも直剣のほうが需要はある。だから【風竜の直剣】を最後にしたのだろうな。
まぁ実際に一番の高値がついたのは最後から二番目に出された【風竜の精力剤】なのだが……。これが本当に意外だった。
【風竜の直剣】【炎岩竜の短剣】【黒曜海蛇の杖】【炎岩竜の中盾】が1~2万程度だったのに【風竜の精力剤】は3万近くまでいったからな。
百倍に薄める必要があるから量はあるのかもしれないが所詮は消耗品だしなぁ……どこに需要があるのか分からないものだ。
いずれにしても買った金額より売った金額のほうが断然高い。おそらくCホールでも同じような感じだろう。
これはまた何かで街に還元しないとうちに金が集まり過ぎてしまうな。考えものだ。
そんなことを侍女たちと話していると、俺たちに近づいてくる集団があった。
誰かなんて見なくても分かる。【魔導の宝珠】【風声】【震源崩壊】【獣の咆哮】の面々だ。
「やあ、セイヤ。今回も相変わらず大暴れだったね」
「そんなことないだろ。お前らのほうがわーわー言われてたじゃないか」
「瞬間的には、ですけどね。オークション全体で見れば【黒屋敷】が支配していたようなものでしょうに」
「そうじゃそうじゃ。儂らなんか狙いの半分も買えんかったわ。メルクリオやバルボッサのせいで」
「そりゃ悪かったな。うちは狙い通りにいけて満足だわ。お前ら目玉狙いに行きすぎなんだよ」
俺たちの席の近くに座り、愚痴り合い、反省会めいたことを始めた。
こいつらも俺たちと同様、最後に会場を出るつもりなんだな。昨年もそうだったけど。
どうやらメルクリオとバルボッサは勝ち、サロルートは引き分け、ドゴールは負けといった感じらしい。
思い通りに手にいれるのは難しいってのがオークションなんだよな。
まぁ俺たちは欲しいものが全て手に入ったので完勝という感じなのだが。
「メルクリオ、杖と盾が調整必要なら俺んちに持って来いよ? 手直しくらいはサービスするから」
「ああ、そうさせてもらうよ」
「三軒隣りで調整できるのかよ。ずりぃなぁ」
「いい買い物しましたねぇメルクリオは。四階層を攻略する気満々じゃないですか」
「多少は四階層の探索も進めないとね。セイヤたちばかりにやらせるわけにもいかないし。これでも一応Sランクなんだから」
「嫌味かそれは。儂らも早く単独でリッチを斃せるようにならんといかんなぁ」
うちから出品した武具のうち、【黒曜海蛇の杖】と【炎岩竜の中盾】を競り落としたのがメルクリオだ。
さすがの資金力だが、明らかに四階層の探索を意識した買い物なのだと誰でも分かる。
攻撃用の水魔法の杖と、防御用の火属性の盾。おそらくファイアドレイクあたりを狙っているんじゃないだろうか。
そんな感じでわいわい話していると、さらに近づいてくる五人組がいた。
一人はすぐに分かった。先日、バルボッサが連れてきたガガルビーだ。
しかし他の四人は明らかに組合員じゃない。【閃光華団】のメンバーではなさそうだ。
「お邪魔する。バルボッサ、セイヤ、久しぶりだな」
「よお、ガガルビーじゃねえか。紹介するぜ。こっちから【魔導の宝珠】【風声】【震源崩壊】だ。名前くらい知ってるだろ?」
「ああ、もちろんだ。俺は造王国のバンダックから来たAランククラン【閃光華団】のクラマスでガガルビーという。よろしく頼む」
「儂はバルボッサから聞いているぞ。【震源崩壊】のドゴールじゃ。よろしくな」
自己紹介をし合う流れになった。【閃光華団】のことは知っているやつらも多いみたいだ。
最近になって造王国からやってきたAランククラン。戦績も探索頻度も安定している良クランだという認識らしい。
……俺は紹介されるまで全く知らなかったんだが。
「こちらも紹介させてくれ。オークションのためにわざわざいらしたんだが、ヴィンゲート・バンダック侯爵だ」
「お初にお目にかかります、メルクリオ殿下。ハムナムド造王国、バンダックの街を預かっておりますヴィンゲート・バンダックです」
「お初にお目にかかります、ヴィンゲート侯爵。メルクリオ・エクスマギアです。遠いところご苦労さまです。どうぞここではただの組合員のつもりで接して頂けると幸いです」
「承知しました。【黒の主】を始めカオテッドの高ランククランの皆様の勇名も聞き及んでおります。どうぞよしなに」
造王国の侯爵様だったか……。昨年のバルボッサと同じ立ち位置なんだな、ガガルビーは。
まぁバルボッサと違ってまともそうな貴族を案内しているようだが。
侯爵は最初にメルクリオに挨拶をした。それはそうだろうな。これで一応魔導王国の王子様なんだから。
「【黒屋敷】のセイヤです。【炎岩竜の短剣】の調整が必要でしたら持って来ていただければ請負ますので、その際はご遠慮なくどうぞ」
「ああ、良いものを買わせて頂いた。心遣いに感謝する」
【炎岩竜の短剣】を競り落としたのが、このヴィンゲート侯爵なんだよな。
これも結構競り合っていたけど、やはり短剣ということもあり組合員は早々に札を上げるのをやめた。
最終的にはどこかの商人との競り合いにあったが、侯爵が勝ったというところだ。
体格はいいけどいい年齢だし戦いからは離れているだろう。おそらく武器コレクターだろうな。家宝にでもなるのだろうか。
「メルクリオのついでにこちらもご挨拶を。彼女はアクアマロウ海王国第一王女のラピス・アクアマリンです」
「お初にお目にかかります、ヴィンゲート侯爵様。ラピス・アクアマリンでございます」
「おお、これはご挨拶遅れまして申し訳ありません。ヴィンゲート・バンダックです」
ついでとばかりにラピスにも挨拶させた。他国の貴族を前にして王女を挨拶させないわけにもいくまい。
一瞬ラピスから睨まれたような気がしたが無視することにしよう。
外交しろよ、王女様。
「セイヤ、武器の調整もそうなんだが侯爵がバンダックに帰る前に一度お邪魔してもいいか? ちょっとした相談と、出来れば【黒屋敷】の話も聞きたいんだ」
「明日以降ならいつでもいいが……俺たちの話って言ってもなぁ。博物館の聖戦展示室でも見れば大体分かると思うが」
「それはもう見たんだ。聞きたいのはもう少し詳しいところだな。ここで言うのも何だが侯爵は英雄譚とか戦いのことに目がないのだ」
「こらガガルビー、本人を目の前にして言うのではないわ」
どうやら侯爵は『英雄譚に憧れる少年をそのまま大人にしたタイプ』の人間らしい。
英雄譚マニア、戦闘マニア、下手したら厨二病と言われるかもしれないな。元の世界ならば。
だから博物館以外のことも知りたいと。英雄である【黒屋敷】の生の声も聞きたいと、そういうことらしい。
侯爵も恥ずかしがっていたが、俺も十分に恥ずかしい。自分で英雄だなんて言ってないしな。
周りでサロルートやバルボッサがニヤついているから余計に恥ずかしいわ。
「とりあえずこっちはいつでもいいので、好きな時に来てください。大した持て成しもできませんが」
「ありがたい、恩に着る。バンダックへの良い土産話になる」
「セイヤ、その場にグレンさんも同席できないか? 侯爵はグレンさんのファンでもあるんだ」
「だからお前は本人を前にして……」
「ハハッ、分かりました。ではその際は同席させましょう」
さすがはグレン。西側諸国なら本物の英雄らしい。
西側だったら確実に俺よりグレンのほうが有名だろうな。
侯爵とガガルビーはどうやら明日の朝、さっそく来るらしい。
三日後には造王国へと帰るらしく、明日くらいしか時間に余裕がなさそうだった。うちは全然構わないけどな。
その後は三〇人もの団体でぞろぞろと会場を後にした。やはり俺たちが最後らしい。
建屋を出たところでチラリと博物館のほうを見ると、まだ客が入っているようだった。
もう夕方から夜になる時間帯だというのに盛況なことだ。
大通りの屋台も賑わっているようだし、夜までお祭り騒ぎは続くのだろう。
「多分あれ、オークションで【黒屋敷】製の武器を買えなかった商人たちじゃねえか? せめて売店でミスリル武器でも買って帰りたいんだろうぜ」
「あーなるほどな。それもあるか。確かに裕福そうな客が多いな」
だとすると武器の在庫も心配だな。
あそこに置いてあるのはほとんど売れないから飾り物も同然だし、数は置いてないんだよな。
帰ったらジイナに追加で作らせておくか。二、三日はお祭りモードが続くだろうしその間に客が入るかもしれない。
そんなことを考えながら俺たちは博物館前で別れ、それぞれ帰路へと着いた。
■ガガルビー 鋼腕族 男
■40歳 Aランク【閃光華団】クラマス
幸運だったな。侯爵は【炎岩竜の短剣】を手に入れられたし、セイヤたちに顔見せもできた。明日の取り付けもできたのだから案内としては大成功と言えるだろう。
しかしバルボッサから聞いてはいたが、カオテッドの高ランククランは本当に仲が良いんだな。バンダックとは全く雰囲気が違う。
セイヤを中心にまとまっていると見えるが、四か国のトップクランがそこに集まって談笑しているのだから異様にも見えた。
種族もバラバラ。おまけに魔導王国の第三王子までいる。それでも中心はセイヤなのだ。
それはカオテッドそのものを表しているようにも見えた。
中央のセイヤと周囲四か国のトップクランという構図。正しくカオテッドの街なのだと。
【混沌の街】とはよく言ったものだ。なかなか余所で真似できるものではない。
「全く……メルクリオ王子やラピス王女もいる前で恥をかかせるようなことを言いおって」
「明日になればどうせ分かることですから同じでは? それにああでも言っておかないと会う口実にもならないでしょう」
「それはそうなのだがな……はぁ。まあよい。何はともあれ【炎岩竜の短剣】は手に入ったのだからな」
炎岩竜はカオテッドでしか発見されていない新種の竜。
斃したのも【黒屋敷】以外に存在せず、正しく英雄の偉業を表した素材、武器と言っていいだろう。
侯爵が一番の狙いとしていた品だ。それを入手できたことは侯爵にとって何より大きい。
そしてセイヤとグレンさん、二人の英雄と会談の機会を得た。
セイヤは規格外の英雄だとすでに分かっているがグレンさんも決して劣る存在ではない。特に俺たちのような西部の者にとってはな。
魔物討伐組合でも迷宮組合でもソロでSランクとして登録されている者など英雄以外の何者でもないだろう。
たった一人で中規模迷宮を制覇し、たった一人でファイアドレイクを斃しているのだ。組合員の頂点に相応しい。
英雄病の侯爵にとって明日の会談は奇跡のようなもののはずだ。
カオテッドまで遠出してきた甲斐がある。この先、これ以上の機会などおそらくありえないのだから。
「あとはセイヤがバンダックに博物館を作ることを許してくれるか、というところですが……」
「厳しいと思うか?」
「セイヤの性格からして簡単に許してくれるとは思っています。とは言え博物館は【黒屋敷】の専売のようなものですからね。断られるか、使用料のようなものを要求されてもおかしくはないと思います」
「それはそうだな」
とは言うものの、セイヤのことだから「全然構わないぞ」と軽く言いそうな気もしている。それはそれで申し訳なくなるのだが。
しかしもし許して貰えるならば甘えるしかない。
バンダックの未来が明るく見え掛かっているのだ。俺たちが歩みを止めることはできない。
とりあえずは明日に期待しよう。侯爵も楽しみにしているだろうしな。




