第3話
宿屋の主人にサリッド団のアジトの場所を聞いた俺は、真っすぐそこに向かった。ノブールはオアシスを中心に出来た宿場町である為、街の規模は小規模で15分も歩くと目的地に到着した。
一見すると、通常の民家(ちょっと豪華かもしれない)に見える石造りの3階建ての建物だった。
扉は通りに面したところの1か所のみ。
窓も1階にはなく、2階にはあるが、人が出入りするには小さいものであった。これは襲撃者対策というよりも、拉致した子供達の逃亡を防ぐ為のものであろう。
さて、どこから入るか。
2階の窓はまず不可能、3階の窓からは侵入可能だが、窓の部分に到達する術が無い、
それにこっそり侵入して、ルーシーだけを解放して帰還していいものだろうか?他の子供達は放っておいていいものだろうか?恐らくルーシーは反対し、他の子供達も救う様に俺に命じるだろう。
その為にはアジトにいる全員を制圧する必要がある。
だとしたら、悩む必要は無い、堂々と1階の扉から入ればいいのだ。
俺は扉を蹴破って、屋内に入った。
「誰だ、てめぇ」
いきなり怒号が飛んで来た。昨夜は背後から不意打ちをくらったが、今は俺による奇襲であり、侵入したばかりであるから背後を警戒する必要は無い。俺は目前の男達に集中すればいいのだ。
俺は男達との距離を詰めながら、抜剣した。
「小僧、サリッド団のアジトに乗り込んで来るとはいい度胸だな。死んでもらうぜ」
二人が抜剣し、大上段に構えたまま、俺に迫って来た。
俺は中段に構え、一人目の頭上から振り下ろされる剣を躱すと、剣を横に払った。あれ?相手の腕に当たってちょっと出血するだろう、と思っていたのだが、何の手ごたえも無く剣を振り切る事が出来た。
ごとん。
敵の両腕と剣がまとまって床に落ちた。
俺もサリッド団のならず者達も事態が把握できなかった。
何が起きたのか?間違いない、俺の振るった剣で奴の両腕を切断したのだ。俺の膂力では不可能な出来事だ。
少女から借りたこの剣は斬れすぎるのだ。あの子、護身用になんちゅう剣を持っているんだ。
同時に彼女からの忠告を思い出した。『剣を止める事に最大の注意を払いなさい』なるほどね。剣を振り切る事で死傷者が発生する事を恐れるなら、傷付ける事無く相手を制圧しなさい、という事か。俺が半人前の剣士であるから、その程度の覚悟も持ち合わせていない、と思われていた訳か。
しかし、このアジトから子供達を連れて帰還する為には、ここにいる者を全員戦闘不能にする必要がある。彼等に恨みは無いが、後の人生について不便になる事は受け入れて欲しい。
俺に相対した男は腕から血を噴き出して、のたうち回っていた。
俺は呆然と立っていた男に言った。
「おい、さっさと止血してやらないと、あいつは死ぬぞ。止血処理して病院に放り込んで、戻って来るな。そうすれば命は助けてやる」
俺の言葉を聞いて、二人の男が手当てを始めた。これで三人が戦闘不能にした訳だ。
俺は向きを変えて、もう一人の抜剣していた男に対峙した。
「てめぇ、よくもやってくれたな!」
この男も上段に構えた。先程の男のやられ方を冷静に観察していたら、違った構えをするだろうと予測していた。この男は何も考えていないのか、剣速が並外れて速いのか。
改めて男の様子を確認する。俺を甘く見ている様な表情は変わっていなかった。即ち奴は何が起きているのか、何もわかっていないのだ。
ならば、俺はどうするべきか。手を失うのは可哀想だな。しょうがない、足にするか。
俺は敵の斬撃を横に動いてかわす。相手の剣が床にささって引き抜こうとしている間に、片足を切断した。バランスを崩して倒れた男に、少し遅れて脚を切断された痛みが襲って来た。鮮血を撒き散らせながら、悲鳴と共にのたうち回っていた。俺は呆然と立ち尽くしている男に、止血作業と病院への移送を命じた。これで戦闘不能者は五人となった。
俺の視界にはもはや立ち向かって来る者はいなかった。俺は中へと進み、階段を昇っていく。
ここで俺は考える。二階で子供達を解放するのを優先すべきか、それとも三階でサリッド団の構成員を倒してから二階へ行くか。
俺は決断した。二階で子供達の救出が先決だ。二階にいる構成員を制圧して、子供達を解放する。一階は既に無人なので、俺が三階から下りてくる構成員を対処すればなんとかなるだろう。
俺は2階のドアを蹴破った。
俺は目の前に座っている二人の男と目が合った。男達の奥には鉄格子と思しきものが見えた。あの中にルーシーを始めとする子供達が捉えられているに違いない。
「子供達を返してもらおうか」
俺はつとめて冷静な口調で言った。
「誰だ、貴様は!」
「御前達が昨夜連れ去ったのは、俺の相棒でな。御前達を倒して、返してもらうぜ。既に一階は制圧済みだ」
俺が二階に現れたという事実が、俺の言葉を補強していた。一階にいる人員を倒さなければ、二階へ進めないのだから。
男達は立ち上がり、剣を上段に構えながら、俺に向かって叫んだ。
「ガキ共を取り戻したいのだったら、まずは俺達を倒すんだな」
「じゃあ、そうさせてもらう」
俺も抜剣し、中段に構えた。
奴等は、一階にいた男達程馬鹿では無かった。二人同時に剣を振り下ろして来た。
俺は大きく横に飛んで剣を躱すと、床に食い込んだ二振りの剣を叩き斬った。しかし、武器を無力化しただけだ。腕力に任せて俺を攻撃して来たら、この剣をもってしても苦戦するだろう。安全に子供達を連れて脱出するには、この男達の戦意を喪失させる必要がある。仕方が無い。俺は膝から下を片脚ずつ切断した。男達は倒れ、のたうち回る事になった。
「おい、奥の鉄格子を開ける鍵を出せ」
「持ってない。俺達は持っていないんだ。鍵は、ボスが持っている」
どうするか?俺は男達を無視して、どこか開ける方法がないだろうかと鉄格子に近づいた。鉄格子には、高さ1メートル、幅60センチ程度の鉄格子の扉があり、南京錠で施錠されていた。
これなら大丈夫だ。俺は南京錠を両断し、剣を修めた後、扉を開いた。
子供達はわらわらと出て来た。しかし俺とは一定の距離を取って、怯えている様に思われた。それは仕方が無いか。自分達を助ける為とは言え、足を平然と斬る様な男など恐怖心を抱くであろう。
「ルーシー」
「なあに、ムサシ」
「この子達を連れて、昨日の宿屋へ戻ってくれ」
「ムサシはどうするの?」
「まだ、三階にいる奴等を食い止める必要があるからな」
「わかった。気をつけてね」
子供達を脱出させつつ、俺は三階へ続く階段の前に立った。ここで、サリッド団の残りの連中を待ち構えるのだ。階段の幅からして同時に二人下りてくる事は不可能だ。俺は一人ずつ倒せばいいという寸法だ。
二階からの叫び声を聞きつけ、三階のホールに続々と集結していた。
さて、始めるか。俺は二階から三階へ昇る階段のほぼ真ん中で剣を構えた。




