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第4話

大男が一人剣を突き出した姿勢で、俺に突進する様な勢いで階段を下りて来た。俺は男の剣を躱すと、男の左腕を切断した。激痛の為、その場に倒れた男の頭部を蹴り上げて失神させる。この場での戦いについて俺が決めていたのは、出来るだけ敵を階段上で失神させて、サリッド団の残党を2階へ下りるのを妨害

しようという事だった。

俺は二人目の左目を突いて、戦意を喪失させた。痛みで自ら手放した剣を俺は拾い上げた。刃こぼれして、ろくなものではない。俺はその剣で棒立ちの男の頭部を防具の上から強打する。俺は強打した時の衝撃で思わず剣を手放した。手がじんじんと痺れている。幸いなことに2人目の男も倒れてくれた。二十段程の階段に二人の男が倒れていれば、そう簡単に下りることは出来ないだろう。つまり、俺にとっては時間稼ぎが出来た訳だ。睨み合いが続き、俺の手の痺れもおさまって来た。

三人目の男が俺と対決するべく階段を下りて来た。俺は拝借した剣をもう一度拾い上げると男に向かって投げつけた。狙ったのは男の腹である。この左右に狭い階段では避けるのは難しい。男は剣を振るって、俺の投げた剣を叩き落した。しかしその為に姿勢を崩し、すぐには俺に攻撃を出す態勢ではなかった。俺は少女から借り受けた斬れすぎる剣を用いて、左足の膝から下を切断した。この男も倒れる事となった。

これくらいで十分じゃないか。悪党とは言え、既に七人の男に障害を負わせた事になる。いくら子供の足とは言え、十分な時間稼ぎは出来た筈だ。それに階段に三人が倒れている状態なので、俺の足でも逃げ切れるだろう。俺は剣を鞘に納めると、反転して逃走を開始した。追い駆けて来ても数を頼みにすることは不可能であろう、宿屋に着いたら早々にノブールを出て、首都を目指すとしよう。あの少女に剣を返さなければならない。折角手に馴染んだんだが仕方無いか。何とか買い取れないものか。

サリッド団のアジトを飛び出た瞬間、武装した集団に取り囲まれた。サリッド団に敵対勢力がいるとは聞いていないから、警察組織ではないかと思われた。

「貴様!何者だ⁉」

集団のリーダーらしき男が俺に言った。俺に対して好意を抱いていないのは明らかだった。

「ただの旅人だよ。相棒を拉致されたので、取り返しにここに来ただけだ。もうすぐ俺を追って出て来るから、掴まえてくれると有難い」

俺は当初の予定通り宿屋へ戻ることにした。

「貴様、どこに行くつもりだ?」

「宿屋に帰るのさ。ムサシ・モンドの名前で逗留している。安心しろ、今晩はこの街に滞在するつもりだ。話を聞きたければ、後で宿屋で対応するよ」

こうして俺はルーシー奪還作戦を無事に終えたのだった。


宿屋に戻ると、別種の緊張が待ち構えていた。

一階の居酒屋スペースでは、多くの少年少女達が親御さんの到着を待っていた。残念だが経済的な理由でサリッド団に売り飛ばした者もいるだろう。そんな親が子供達を引き取りに来るだろうか?最終的に残った子供は孤児院に預けるより他無いだろう。

子供達の姿を見ながら、二階の客室に向かう。

扉を開けて、部屋の中を見ると、ルーシーと少女が睨み合っていた。

「ただいま~」

俺が二人に言うと、ルーシーが怒りの表情で俺に言った。

「ムサシ、誰よこの女。なんでこの部屋にいるのよ」

「その子は俺の恩人なんだ。昨夜、俺がボコボコにされた時、この部屋までかつぎ込んでくれたんだ。それにこの剣を貸してくれたんだ」

「あんな小さな剣を借りなくても、今まで使っていた剣でも勝てたわよ」

ルーシーの言葉を少女は否定した。

「それは違うわよ。トレーナー気取りのお嬢ちゃん、彼にはまだ力が不足しているわ。どんなトレーニングをしてもあの剣を使いこなすには2年はかかるでしょうね。それに剣自体もろくに手入れもしていない、酷いものだったし」

「それでも、あんな奴等には勝てるわよ」

「1対1で戦えればね。でも、今回の目的は違ったものなのよ。相手を倒すよりも、お嬢ちゃんを助ける為に乗り込んだんじゃないの。一人で乗り込んだんだから、短時間でその場を制圧していかなければならない。体力を温存しつつ制圧するには、重い剣で打撃を加えるよりも、軽い剣でも斬れ味に優れた方が有利なのよ。私の事が気に入らないのはわかるけれど、現実を認めなさい。お嬢ちゃんが判断を間違うと、彼死んでしまうわよ」

「・・・」

ルーシーは黙ってしまった。少女の話した内容に反論したいのだろうが、反論出来ないという状態だろう。ぷいと不貞腐れて横を向いてしまった。

少女はルーシーとの会話を打ち切り、俺に向かって話しかけてきた。

「どうやら無傷で帰ってこれたようね。剣を見せなさい。それを見れば、君がどんな闘いをしたのかがわかるわ」

俺は腰に差していた剣を彼女に渡した。

「ありがとう。こいつのおかげで子供達を助ける事が出来た」

少女は鞘から抜いて、剣を観察した。

「ふうん。一人を突いて、五、六人の手足を斬ったというところね。処置が早かったら、致命傷にはならないしょうね」

「それについては、俺も相手に警告しておいた」

「それにしても君、よく躊躇なく斬り続けられたわね。私はてっきり相手に同情すると思ったわ」

「子供達を解放する為に、必要最低限の数に絞ったが、それでも七人は倒す必要だった。・・・それでお願いがあるのだが、その剣を俺に譲ってもらえないか?勿論、只でとは言わない。適正な金額で買い取らせてくれないか?」

俺は少女に誠意を見せる為にも、頭を下げて懇願した。

「それは無理。言ったと思うけどこの剣は私の護身用のものなの。君は私を丸腰にするつもりなの?

そこそこのお金を持った、一人きりの美少女なんて一番狙われやすいのよ。君は良心が咎めないの?」

ふむ、彼女の言う事にも一理あるな。それで、美少女とは誰の事なんだ?

「すまない。俺が悪かった。君の都合を考えないでいた」

「それにね、この剣は君の剣みたいにほったらかしにしていい剣じゃないの。常に管理が必要なの。だから私がいないと、この剣の斬れ味は確保出来ないのよ」

「君は一対何者なんだ?刀鍛冶なのか?」

「残念。私は刀鍛冶ではないわ。私は研磨を生業にしているのよ。切れなくなった刃物を研いだり、動きの悪くなった装置を滑らかに動くかの様に戻したり、私の眼鏡の焦点を合わせる調整をしたりするのよ。君の質問に簡潔に答えるとしたら、研磨師よ」

「わかった。この剣は君の身を守る為の道具でもあると共に、研磨の腕前を証明する宣伝道具であるという事だな。確かにその剣は君が持つべきものだな」

少女はしばらく考えた後、俺に向かって言った。

「ちょっと待って。私は、君がそこのお嬢ちゃんの無茶苦茶な命令に従ってどこかで死んでしまう事を望んでいる訳ではないわ」

「私はそんな無謀なことは指示したりしない!今までだってそうだったし、これからもきっとうまくいくわ」

「おめおめとサリッド団に捕まったガキが大きな口を叩くんじゃない。こんな装備ではいつまでたっても大きな仕事は出来ないし、大きな仕事をする為には必ずお嬢ちゃんが邪魔になるわ」

少女は俺に向かって言った。

「君には二つの選択肢がある。一つは私を殺してこの剣を自分のものにする事、もう一つは私と契約する事、そこで不貞腐れているお嬢ちゃんの様にね」

「あなたを殺そうとは思っていない。契約の内容を教えてくれないか?」

「そうね、剣はしばらくあなたに貸してあげる。勿論メンテナンスは任せてちょうだい。その代わり、私の身を守ってもらう。期間は君が自分の剣を満足に使いこなせるようになるまで。どう、悪い条件じゃあないでしょ?」

「確かに悪い話じゃないな。俺達は一旗揚げようと首都に向かうつもりなんだが、それで構わないのか?」

「私は命とこの腕があれば、どこでも稼げるわ。寧ろ人口の多い首都は願ったりかなったりだわ」

「OK。契約成立だ。俺はムサシ・モンド。こいつは相棒のルーシー・コミット」

「あら、これからは私も相棒よ。よろしくね、ムサシ。それにルーシーも。私はエリン・ラップ、17歳よ」

「17歳でその発育状態だったら、あなたの未来は明るくないわよ」

ルーシーは辛辣な言葉をエリンに投げつけたが、彼女は気にする様子も無かった。

「お子様には女の魅力は胸しかわからない様ね。私の手にかかれば、どんな男も落とせるわよ」

部屋の中は不穏な雰囲気で溢れていた。これから先、三人でうまくいくのであろうか?


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