第2話
オアシス都市ノブール。首都と港街マル―ベを結ぶ街道(一部は砂漠で整備されていないが)にある為、商人・冒険者・旅行者などが宿泊する宿場町である。
一軒目の宿屋兼居酒屋で空き室が無いか尋ねたのが、生憎を満室であった。
仕方が無いので二軒目に向かう。ここも満室。
三軒目にして、ようやく1室の空きがあった。一人部屋でベッド1台、ソファー1脚という簡素な内容だが、ルーシーはまだまだお子様なので俺と同室でも問題は無いだろう。もっとも金銭的な問題で一部屋しか確保できないという側面もあるのだが。
前金を払って、鍵を受け取ったところで、俺は振り返り、ルーシーを呼ぼうとした。
しかし、俺の視界に彼女の姿は無かった。
相棒の身に何が起きた?俺は周囲を丁寧に見回す。
居酒屋の片隅で男達が立ち上がって固まっていた。何かを隠す意図がありありだった。
ルーシーはあの一団に拉致されているのではないか、という疑念が高まっていく。
俺は隅にいる一団に近づく為に、歩き始めた。
途中、居酒屋の客達に「若いの。悪い事は言わん。やめておけ」「あいつらに逆らったら、無事では済まないぞ」といった忠告をもらった。俺は忠告をくれた人に感謝しながら、敢えて無視した。相棒を拉致されて、黙っていられる筈がない。
俺は壁となっている男達を押しのけて、騒ぎの中心に入っていった。
「ガキが、何の用だ?」
俺は周囲を見回しながら、抜剣した。
俺の真正面では、ルーシーが三人の男に取り押さえられていた。口に布を押し込められていて、叫び声も出せない状態だった。ルーシー、待っていろよ。今助けてやるぞ。
「その子を放してもらおうか」
「『断る』と言ったらどうするんだ?」
俺は力を込めて言った。
「力づくで取り返すまでだ」
「面白い。相手になってやるから、かかって来い」
俺は剣を構えながら考える。この一団はざっと見て、およそ二十人。首領は恐らくルーシーを捉えている三人の男の隣にいる男であろう。服装も派手なものだし、俺に対して話しているのもこの男であった。しかし、今はこの男を倒す必要はない。ルーシーを解放出来れば、それでいい。
それでは三人の男の内の誰から倒すべきか。左右のどちらか、中央の男か。
ゴン。
いきなり後頭部に衝撃を受けた。バカな、攻撃する気配は無かったぞ。
思わず、膝を付く。そして、唯一の武器であった大剣を手放してしまった。
俺の前に接近してきた男が、俺の顔を殴りつけて来た。その衝撃で俺は倒れ込んでしまった。
後はもうひたすら殴る蹴るの暴行を受けた。俺は身体を丸めてダメージを軽減する事しか出来なかった。
しかし、それでも数発、十数発と受けていると、次第に意識が遠くなって・・・。
目を醒ますと、俺は飛び起きた。
ここは、どこだ?
何故、俺はベッドで寝ていたんだ?
それに視線を感じる、敵か? 剣も無い俺が勝てるのか?
「ようやく目を醒ましたのね、新米剣士さん」
ソファに座った少女から声を掛けられた。俺と同年代だと思われた。紅毛に黒い瞳に小さな丸眼鏡をかけていた。そばかすを薄い化粧で目立たぬ様にしていた。体つきは中肉中背で、胸に関しては奇蹟が起こる事を期待したい程だった。
「ここはどこだ?」
「あなたが借りた部屋よ。私が運んであげたんだから感謝してよね」
「・・・そうか、ありがと。ところで、俺の相棒がどうなったのか知らないか?」
俺が尋ねると、それまで俺をまっすぐに見ていた彼女が俺から目をそむけた。
「頼む、教えてくれ。彼女はどこに連れて行かれたんだ?」
彼女は声をひそめて言った。
「彼女はサリッド団に連れ去られたわ」
「サリッド団?一体どんな集団なんだ」
「この町に巣食うならず者達の集まりよ。強盗、殺人、麻薬の売買、なんでもやってるわ」
「そんな奴等に攫われて、彼女はどうなるんだ?」
「奴らに連れ去られた子供達は、売られて行くわ。売られる先は、容姿や体格によって変わるわ。容姿端麗な少女はお金持ちの養女になるわ。男の子や容姿の優れない少女は奴隷として売られるわ。一番可哀想なのは。人並みとかちょっと上ぐらいの容姿で、実年齢よりも若く見える少女が、一番可哀想なところへ売られるわ」
ここから先は聞く必要も無いだろう。彼女達は少女性愛の変態の元に売られるのだろう。そしてその少女に飽きた変態が、どの様に扱うのかは考えるのも恐ろしい。
ルーシーは養女になる様な器量とは思わないが、奴隷として売られる程悪い器量とは思えなかった。
「サリッド団のアジトはどこだ?」
「教えてもいいけど、あなた死ぬわよ」
「そんな事やってみなくちゃわからないだろ」
「わかるわよ。だって、あなた、弱いもの。持っている大剣は、あなたの筋肉ではまだ満足に振れないし、刃こぼれしていて満足に斬れはしない」
「・・・」
彼女の指摘は、普段ルーシーから言われている内容と同じであり、俺自身も自覚している内容だった。
「どうしても俺は助けなくてはいけないんだ」
「あなたにとって彼女はそんな大切な存在なの?もしかして妹さん?」
「いや彼女はルーシーは、俺のマネージャーだ」
「どういう事?もう少し詳しく教えてくれないかな?」
「彼女は俺を一流の剣士にする為に、トレーニング内容を提示したり、現状の俺に適したクエストやミッションを選んでくれている。言わば二人のパーティーの司令塔なんだ。だから助けなくちゃいけない」
「ふうん。あなたの事情は理解したわ。・・・それで、あなたが敗けた場合、その子はどうなるかわかっているの?変態さんに売られて、弄ばれて、飽きられたら殺される。それでいいの?」
「・・・」
俺は彼女の質問に答えられなかった。
「少しは真剣に考えたらどうなの?今のあなたは彼女を助けたいんじゃなくて、自分が敗けた事の悔しさを晴らしたいだけでしょ」
「じゃあ、どうすればいいんだよ。俺が弱いのはわかっている。金もない、知り合いもいない状況で、どうすりゃあいいんだよ!」
目の前にいる少女は腕組みしてしばらく考えた後、やれやれという表情で言った。
「この剣を使いなさい。私の護身用の剣だから、あなたの筋力でも振れる筈よ」
彼女は俺に剣を投げてよこした。俺は受け取ると、抜剣した。
軽い。刀身は長いが、薄く、幅も短い。これなら俺でも振れそうだ。
しかし、軽過ぎないか。敵と刃が合った際に折れはしないか、不安だった。
「大丈夫よ。この刀はそんじょそこらの衝撃では折れたりしないから。それよりもこの剣を使うなら、剣を止める事に最大の注意を払いなさい。さもないと・・・」
「さもないと?」
「間違いなくあなたを不幸にするわ」
彼女の言う内容は理解出来なかったが、取り敢えず剣を止める事に注意すればいい、という事はわかった。
「有難く剣を借りる事にするよ」
防具を装着しようとする俺に、彼女は口を挟んだ。
「防具は胴体と頭ぐらいにしておきなさい。あなたの長所は恐らくスピードとスタミナぐらいなのよ。重い防具はどちらもマイナスにしかならないわ。攻撃を受けても致命傷にならない場所に防具を着けるべきではないわ」
「忠告ありがとう。じゃあ、俺は行くよ。・・・ところで、サリッド団のアジトはどこにあるんだ?」
「この街の者ならそれは誰でも知っているわ。階下で聞けばいいでしょ」
彼女の指摘はもっともだと思ったので、俺は出発した。




