第1話
イシュクタリア連合王国の南部に位置するロンダリア王国。
俺は相棒ルーシーと共に、ロンダリアの首都であるナラティスを目指すべく、港町マル―ベを出発した。マル―ベからナラティスまでは約300キロメートル、徒歩で約12日の行程である。馬車を利用すれば時間の短縮を図る事は出来るが、生憎と手持ちが無い。金が無い者はどうするか?歩くのである。
マル―ベの城壁から出て、砂漠をえんえんと歩く、今日中に30キロ先にあるオアシス都市ノブールに辿り着かねばならない。
日射しがじりじりと俺を焼く。暑い。暑さを避けるには夜に移動するという手もあるが、それは寒さとの戦いになるし、野生動物や悪人共と遭遇するリスクを引き受ける必要がある。相棒を抱える俺としては、取れない選択だった。
「ムサシ、疲れた。もう歩けない」
マル―ベを出発して2時間も経たない内に、ルーシーがむずかった。
相棒のルーシーはまだ11歳の女の子である。同年代の女児と比べても小柄な部類に入るだろう。砂漠からの反射熱の影響で体感的には俺よりも厚く感じるだろうし、疲労も多いであろう。しかしここで甘やかすのも彼女の身にならないのではないか?そう思った俺は、彼女に冷たく言い放った。
「ルーシー、さっさと立て。置いて行くぞ」
俺の言葉を聞いて、ルーシーはたちまち不機嫌になる。
「イヤだ。歩けないって言ったら歩けないの。どうしてもと言うのなら、ムサシ、あなたが背負ってよ」
さてどうするべきか。こんなところでガキンチョと論争して体力を削られるのも、時間をロスするのも避けたかった。ここは俺の方が譲るべきか?
俺は彼女に背を向けて、しゃがんだ。
「早く乗れ。暗くなるまでにノブールに着かなきゃならないからな」
俺の言葉を聞いて、ルーシーはやれやれとため息をついた後、観念した口調で言った。
「しょうがないわね。・・・ムサシ、あたしのお尻触らないでよね」
誰が御前なんかの尻をとは思ったものの、背中に当たる膨らみかけの胸を意識せずにはいられなかった。そんなことを悟られない様に注意しながら俺は言った。
「おぶってやるが、背中には注意しろ。後ろから狙われたら、おまえの命はないぞ」
「わかってるわよ。そんな事ぐらい」
俺はルーシーを背負って砂漠を歩き始めた。オアシスまで20キロ超。大丈夫か、俺。
一時間程歩いた時に、背中から話しかけられた。
「ムサシ、下ろして」
「どうした?歩く気になってくれたのか」
「違う。生理現象」
成程ね。マル―ベの宿を出て3時間、そろそろ尿意をもよおしても不思議ではないか。
俺はルーシーを下ろすと、腰に巻く布を渡した。
遅くなったが、ルーシーが用を足している間に、自己紹介させてもらうとしよう。
俺の名前はムサシ・モンド、17歳、駆け出しの剣士だ。
3歳の時に両親は盗賊団に殺された為、15歳まで孤児院で過ごした。
今手にしている大剣は、孤児院の先生たちから餞別としてもらったものだ。
孤児院を出て以来、俺は新米剣士としてパーティーに参加してダンジョンに挑んだり、一人でのクエストにチャレンジしたりして、日銭を稼いでいた。
ついでにルーシーとの出会いについても説明しておこう。
一年前、とあるグループにスポット参戦していた時のことである。とある村に到着すると、そこは魔物に襲われた後だった。皆で生存者を探している時、半壊した家屋から生存者を見つけた。それがルーシーだった。生命を賭して守っていた両親のおかげで彼女は助かったのである。彼女の姿を見て、ああ俺もこうして両親のおかげで生きていられるんだ、彼女をまっとうな大人に成長させる責任が発見者である俺にはある、と何故かその時俺はそう思ったんだ。
グループの意見は生存者を置いて、クエストを続けるというものであった。それは当然であろう。10歳の少女を連れて行くのは足手まといになるのは必定だからだ。俺はその時、彼女を安全な場所に届けることに拘った。仕方無くここまでクエストに参加してきた分の報酬を破棄して、このクエストを離脱する事にした。そして、彼女を孤児院に預けるべく近くの街へ戻っている際に、彼女は孤児院への入所に断固反対した。
「そうは言っても、君みたいな女の子が生きていける程、この世の中は甘くないんだ」
俺は彼女の説得を試みた。
「それについては、あなたが守ってくれれば大丈夫」
「何で俺が君を守らなきゃいけないんだ?」
「私はあなたにメリットを提供できると思うわ」
俺にはこの少女が言っている内容が理解出来なかった。俺にはロリコン趣味はないので、この少女が命と引き換えにする程のものを差し出せるとは思えなかった。
「君のような子供が俺の為に何をすると言うんだ?」
「あなたを一流の剣士にしてあげるわ。見たところ、まだまだ新米のようね。今のあなたには決定的にパワーが足りない。だから剣もまともに振れないし、アーマーも重すぎて唯一の利点であるスピードを殺している」
彼女の指摘は正しい。それは俺も感じていた内容だ。
「それはちょっと見れば誰にでもわかる内容だろ。どうやって俺を一流の剣士にするつもりなんだ?」
「私なら適正なトレーニング内容を提示できるし、今のあなたにふさわしいクエストを選定できるわ。要はあなたのマネージャーになってあげる、と言っているの!」
残念ながら俺よりは知識はありそうな気がした。ひょっとしたらマネージャーとして有能かもしれない。
「わかった。君をマネージャーとして採用するよ。とりあえずの目標を決めないか。その目標に到達しない限り、マネージャー契約は解消。その際に君が15歳以下だったら、孤児院に放り込む」
「いいでしょう。目標は2年以内にあなたを5人以上のパーティーのリーダーにして、その剣を振るう為のパワーを有した剣士にするわ」
「それは随分と大きな目標だな。いいだろう。俺はムサシ・モンド、16歳だ。よろしくな、相棒」
「ルーシー・コミットよ。よろしくね、ムサシ」
こうして腐れ縁が誕生し、以来1年旅をしながら、一流の剣士を目指したトレーニングをしつつ、小銭稼ぎをする毎日であった。パワーは少しはついたと思うが、新たなメンバーはいない。残り1年で契約は達成されるのだろうか?俺的には少々不安になっているが、ルーシーは焦ったところを全く見せなかった。俺よりも遥かに大物なのだろう。
「ムサシ、お待たせ」
「お尻をきちんと拭いたか?」
俺が言うと、ルーシーは顔を真っ赤にしながら、殴りかかって来た。
「何てこと言うのよ、バカ、ヘンタイ!」
「おまえのおしっこで、俺の腕が濡れるのがイヤなだけだ。ほら、さっさと乗れ。早くしないと、ノブールに着くまでに日が暮れるぞ」
「・・・しょうがないわね。いいわ、乗ってあげる」
以降、俺はノブールを目指して懸命に歩いた。途中、食事休憩、トイレ休憩各1回、サバクオオトカゲに狙われたのでそれを退治すること2回の中断を経て、俺達は無事ノブールに到着した。
日はすっかり暮れており、夜になっていた。肌冷えのする中、俺は宿屋兼居酒屋の扉を開けた。




