第二章 奥州の乱雲
天正十二年の春、父の輝宗から家督を引き継いだ政宗は、新たな若き君主として、家臣、領民からの期待を一身に受けていた。だが、その頃の奥州はといえば、情勢は混沌としていて、先行きもまた不透明だった 。
奥羽の一大勢力である蘆名氏と伊達家の対立が続いている中、塩松領の大内定綱は、伊達に臣従するかの如く振舞っていた。
「定綱様、本当に伊達に与するのですか?」
「ふん、形の上ではな」
「形の上、と申しますと」
「伊達の小僧は田村の娘を正室に迎えたそうではないか。さすれば伊達と田村の繋がりが強くなるのは必然。故に伊達に臣従している様に振舞い、伊達の情報を引き出して蘆名に流すのよ」
「蘆名との繋がりは持っておくという事ですね」
「ああ、これ以上田村をのさばらせておく訳にはいかないからな」
「しかし、先の政宗への謁見の時、殿から言い出した米沢に移り住む件と人質を差し出す件は、どうなさるおつもりですか?」
「ああ、あれか。構わぬ、放っておけ」
「しかし定綱様、政宗からその件について既に二度も書状が届いており、更に三度目の書状も届いておりますが…」
「伊達の小僧、性懲りもせず…」
この状況に危機感を持った伊達輝宗は、定綱を諭すために塩松領を訪れた。
「これは輝宗殿、遠路遥々お疲れであろう」
「いやいや定綱殿、そんな事より、政宗と交わした約束の事です」
「約束…。それが何か?」
「それが何か、ではござらぬ定綱殿。このままでは政宗は何をするかわかりませぬぞ」
「ほう、脅しですか…」
大内定綱はカッと目を見開いて言い放った。
「輝宗殿ならいざ知らず、世間知らずのバカ息子と交わした約束など守る気はさらさらござらぬ!」
輝宗は深いため息をつき、がっくり肩を落しながら定綱の居城を後にした。
この知らせを受けた政宗は烈火のごとく怒り、そして大内定綱を、周囲への見せしめも兼ねて徹底的に叩く事を決めた。
それからの政宗の行動は早かった。
政宗は先ず大内を庇護していた蘆名を叩く事にした。
天正十三年の春に、大軍を率いて蘆名領に攻め入ったが、さすがに蘆名氏は守りが堅く、簡単には落とせそうになかった。
そこで一転して、大内氏の支城である小手森城に向かい、周囲を囲んだ。
「物見の兵よ、今、この城には女子供含め、何人いる」
「おおよそ八百。しかしその中で戦闘可能な人間はごく僅か。つまり残された者の大半が、女子供か百姓と思われます」
「大内の兵は何処に行った?」
「定綱含め、他の城に移ったか、二本松の畠山義継の所との事です」
「そうか…」政宗はそう言った後、ゆっくり立ち上がり、自らを納得させるように深く呼吸してから命令を下した。
「これからこの城をなで斬りにする」
「な、なで斬りだと…」
なで斬りとは、女子供も含めた皆殺しの事である。
伊達の兵たちは皆驚き、動揺した。
「これは他の大名たちへの警告である。伊達に逆らえばどうなるか、はっきり分からせてやるのだ。だから殺すのは人だけにあらず、家畜、犬まで、命あるものは全て斬るのだ。この命に逆らうものあれば、この政宗がその者を斬る!」
政宗は恐ろしい行動に出た。
この政宗が取った苛烈な行為は、政宗の思惑通り周囲の大名たちを震え上がらせた。
特に、定綱を庇護した畠山義継は、完全に怖気づいてしまった。
政宗は次にこの義継がいる二本松城へ軍を進めた。
義継は、政宗が二本松に向かっている事を知り、慌てて政宗の父である輝宗に、助けてほしいと泣きついてきたのだった。
義継は輝宗を前にして懇願した。
「輝宗殿、何とかなりませんか。父親からの助言であれば、政宗殿も聞くと思うのですが…」
輝宗は思案した後、一つの提案をした。
「義継殿、ここは一旦降伏して、臣従の意を示すしかありません。 そうした上で私が政宗に助言をしてみましょう」
「輝宗殿、かたじけない」
義継は言われた通り政宗に降伏し、臣従の意を見せた。更に輝宗から政宗への助言もあった事で、義継の首はなんとか繋がった。
だが命は助かったが城は奪われ領地も大幅に没収。
「な、なんと我らの手に残ったのが五村のみとは……」
義継は家臣の者たちと苦虫を噛むような思いで、政宗からの書状を読んでいた。
「まことに…神も仏もありませぬな」
「おのれ、小童が。調子に乗りおって…」
義継の書状を握る手は怒りに震えていた。
すると、家臣の一人がおもむろに義継に耳打ちをした。
「殿、私に策がございます」
「策、とな」
「はい、実は今、伊達輝宗殿が宮森城に来ております」
「ほう」
「宮森城から二本松城までは、そう遠くはございません。そこで輝宗公に我らの人質となっていただき、そのまま二本松へ入ります。二本松城に入ったら、嫡男の義綱様と合流して籠城すればよろしいかと。あの城は自然の要塞で、そう簡単には落ちません。籠城している間に、他の大名たちから、うるさい蠅を追い払ってもらえば良いのです」
「なるほどな…、だが、成実が同行していたら厄介だな」
「心配には及びません、策をもって二人は引き離します」
「わかった、その方、手はずを頼む」
義継の心の底には、伊達に対する恨みの炎が燻ぶっていた。
数日後、義継は宮森城にいる伊達輝宗のもとを訪ねていた。
仲介のお礼という名目であったが、義継の目の奥底には危険な火種がある事を輝宗はまだ知らずにいた。
宮森城には、伊達成実の姿は見えなかった。
義継は安堵した。
――戦場でのやつの戦いぶりを一度でも目にしたら、成実と戦うなどという気は絶対起こらない。我ら全員が相手でも、まとめて片付けられてしまうだろう。何しろあの鬼神の如き槍さばきだ。今日は輝宗殿と一緒ではないのか…?
義継は近くの者に訊ねた。
「今日は成実殿はどちらへ」
「ああ、成実様なら所用で出かけております。戻られるのはもう少し後かと」
「そうですか。そうであれば残念ですが、致し方ありませんな」
義継は、そう言いながら心の中では舌を出していた。
「おお、これは義継殿、わざわざ御足労頂き、かたじけない。もう少し私が力になれればよかったのですが…」
「いやいや、とんでもない。命あっただけでも有難き事でござる」
「ささ、奥へ」
義継たちは、奥に案内された。
話も終わり、輝宗は義継を見送るため門の外に出た。
「輝宗殿、御免仕る」
見送りが輝宗一人となったところで義継の態度が急変し、突如として輝宗に襲いかかり、輝宗を縄で縛ってしまった。
「義継、何をする、気でもふれたか?」
「輝宗殿に恨みはござらぬが、我らの盾となっていただきます」
義継は輝宗を交渉の道具にしようと考えた末の暴挙であった。
輝宗が拉致されて間もなく、成実が所用から戻ってきた。
門をくぐって中に入ろうとしたが、成実は躊躇した。左側の塀の裏側に気配を感じたからだ。しかも殺気を纏っている。
成実は、刀を抜き上段に構え、じりじりと前に進んだ。
その刹那、気配があった辺りから男が飛び出てきて刀が振り下ろされたが、成実はこれを交わしたため、刀は空を切った。
「何奴」
「チッ」
男は踵を返し逃げていった。
成実は後を追おうとしたが、何やら城内が騒がしく、混乱している様子だったので、中に入った。
成実が戻った時、義継たちは既に二本松に向かっていた。
状況を理解した成実はすぐに政宗へ伝令を発し、自身は数名の鉄砲隊と共に義継の後を追った。 しかし、本道を進む成実達は、いくら追いかけても義継の一行を発見できない。
義継たちは、成実に見つからないように藪や竹林に隠れながら裏道を進んでいた。
「義継様、この様な本道から大きく外れた道を進んでいると、いつになったら着くかわかりませぬ。本道を進まれては如何か」
「うむ、確かに本道を進めば早いと思うが、見つかってしまっては元も子もない。多少時間はかかるが、このまま行くしかあるまい」
輝宗は馬具を入れる籠に押し込まれて運ばれていた。
この事件の知らせが政宗の耳に入ったのは、政宗が鷹狩りに出かけていた時だった。
この時政宗に同行していたのは片倉(小十郎)景綱のみだった。
伝令は政宗を前にして告げた。
「申し上げます、伊達成実様より、至急の報告があって参りました」
景綱が訊ねた。
「至急の報告とは、何があったのだ?」
伝令は、息を整えながら
「二本松の畠山義継が、輝宗様を、拉致して逃走中」
この一言で政宗の表情が一変した。
「拉致だと?どういう事じゃ?」
「輝宗様を、交渉の盾とするつもりであろうかと思われます」
「おのれ義継、ふざけた真似を…。どこまでも卑怯なやつよ」
政宗の隻眼は血走り、体中怒りに満ちていた。
横にいた景綱が
「なんと…、輝宗様が…、それで成実はどうした、輝宗様と一緒ではなかったのか?」
「それが、所用があって外に出ていた間の事であったので、戻られた時すでに遅かったとの事…」
政宗は鷹狩りを中止して、すぐに追いかける支度を始めた。
そして馬に跨り、二本松を目指し、馬を駆った。
一方、義継とその手勢は政宗の予想通り二本松を目指していた。
彼らは、誰にも見つからないように大きく迂回をしながら進んでいたため、本道に沿って追いかけていた成実たちは、なかなか義継たちを見つけられずにいた。
輝宗は、必死に義継を説得していた。
「義継殿、早まってはなりませぬ。政宗は私と違って徹底的にやる男だ。小手森城がどうなったか忘れましたか。まだ間に合う」
輝宗が必死に訴えても、義継は耳を貸そうともしない。
義継は「人質が騒がしいから口を塞いでおけ」と言い、轡をはめさせ、輝宗の声を奪った。
二本松領が近づいてきていた。
義継たちはもう大丈夫だろうと考えはじめていた。
「義継様、もう少し行けば阿武隈川に出ます。川を渡ってしまえば二本松領です。ここまでくればもう大丈夫でしょう。広い道に出て一気に駆け抜ければ我らの勝ちです」
義継はそう言われて。
「うむ、急いだほうが良いかもしれんな…」
そう思った義継は、本道に出て一気に進むことを決断した。
「皆のもの、この先は上の道を行く。少しばかり見つかりやすくなってしまうかもしれないが、この先の橋を渡ってしまえば二本松領だ」
「おおーっ」
その時、この様子を遠くからじっと見ていた者がいた。成実の配下の兵の一人で、成実が進む本道の脇にある、うっそうと生い茂った草木の中に入って探し回っていたところ、何やら下の方から人の話し声がしたので、様子をずっと伺っていたのだった。
すぐに成実に報告が入り、成実も急いでその場所まで行ってみると、少し下の方に竹藪を縫うような小道があり、そこにいたのはまさしく義継たちであった。
成実は大声で叫んだ。
「義継、動くな、もう逃げられんぞ、観念しろ。素直に観念し、輝宗さまを放すのなら、命だけは助けてやろう。だが、放さないのならば、我が槍で貴様を地獄の底に叩き落してやるから、覚悟せよ」
その大きな声は空気を切り裂き、周辺の木々を揺らし、林の中を駆け巡り、近くまで来ていた政宗に届き、ここでようやく義継に追いついたのだった。
阿武隈川のほとり。竹藪の向こうに、父上の姿が見えた。
だが、その背には義継がぴたりと張り付き、父を盾にしている。「撃てるものなら撃ってみろ。己の父を撃てるのならばな」
義継の声が、耳を刺すように響いた。
政宗は馬上で拳を握りしめた。
――父上の顔が見える。あの穏やかな眼差し…。
幼き頃の父の言葉が瞬時によみがえった。
――政宗よお前は私の宝だ
政宗がまだ幼少のころ、自分は寺に出され、弟は母の下で暮らしていた。
自分が片目であるが故、母は醜い自分を嫌って遠ざけているのだと思っていた。
輝宗が久しぶりに寺を訪ね、政宗に会いに来た時、政宗は自分の心の中の蟠りや悲しみを、思わず父にぶつけてしまった。
「父上、お久しゅうございます」
「おお、政宗か。息災であったか」
「…」
政宗は一瞬黙り込んだ。そして堰を切ったように輝宗に訴えた。
「父上、母上はなぜ私を避けておるのでしょうか、なぜそばに置こうとしないのでしょうか……きっと母上は、片目しか見えぬ醜い私のことを嫌いなのです。父上、私はそんなに醜いですか?父上も醜い私をお嫌いですか?」
幼きながらも血の出るような訴えであった
輝宗も心が裂けるような思いであっただろう。大粒の涙を流しながら政宗を強く抱きしめ、叫ぶように我が子に語った。
「政宗、其方の左目は、姿形を見る目じゃ、そしてその右目は、他の者には見えぬ内なる姿、真の姿が見える。真実を見抜く目じゃ。その様な目を醜いと申すものがあれば、その者の心が醜いという事じゃ。美しき目を持った子を私が醜いなどと思うわけがなかろう。嫌いなわけがなかろう。政宗よ、見えぬか、わしの心の中が。見えているはずじゃ、其方を宝と思うておるわしの心の中が…。お前は私の大切な息子じゃ、宝じゃ」
二人とも誰憚る事無く涙を流した。
輝宗は、政宗を不憫と思いつつも、政宗の自分への思いを強く感じ、心が熱くなっていた。そして、政宗にとってこの父の言葉は、一生の心の支えになったのだった。
その父を、この片目の私を自分の宝だと言ってくれた父を、今まさに撃たんとしている自分がここにいる。
――撃てない…、撃てるわけがない。だが、撃たねばならぬ…。このまま逃せば、父は義継の手で辱められ、伊達の名は地に堕ちる。父の命と、伊達家の誇り。どちらを選ぶべきか、その答えは出ているはず、…なのだが…、こ、声を出すことができない…。
政宗が決断を躊躇していたその時だった。
「政宗よ、構わぬ。わしもろとも撃て」
父の声が、風に乗って届き、政宗は天を仰いだ。
雪が頬を打つ。唇を噛みしめ、目を閉じた。
「父上……」
――伊達のため…、父上の誇りを守るため…、そして、わが身の弱さを断ち切るため…。
「放て――!」
迷いは消え去っていた。
何かを振り払うようにその声を発した瞬間、乾いた銃声が雪原に響き渡った。そして、父の姿が、白い煙の向こうにゆっくりと崩れ落ちる様を、政宗は、ただその場に立ち尽くして見ていた。
頬を伝わって何かが流れ落ちているのが分かった。
父の姿がぼやけて見えた。それは雪が舞っているからではなく、目の奥からあふれ出てくる涙の中に父の姿を見ていたからであった。
胸の奥に、何かが静かに崩れていくのを感じながら…。
畠山義継含め、相手方も全員撃たれ命を落とした。 そして、政宗の悲しみと怒りは頂点に達し、それは狂気と化していった。
政宗は、すでに息のない畠山義継の遺体に対し、己の刀を何度も何度も突き刺したのである。
その行為に気が付いた片倉小十郎は、伊達成実と一緒に止めに入ったのだが、逆に、火に油を注ぐことになってしまった。
刀を突きさしながら政宗は叫んだ。
「地獄に落ちろ、義継!」
そのあと政宗は周りにいた兵たちに、ある命令を下し、その場を去っていった。
受けた兵たちは見るからに動揺し、困惑していた。何故ならば、その内容があまりにも異常だったからである。
政宗は、義継の骸を木に打ち付けて、はり付けにした上、衆目の浴びる場所に晒しておけ、と下知したのである…。
その事はすぐに、輝宗を城まで運ぶ準備をしていた小十郎の耳に入った。
――遺体を貼り付けにして野ざらしとは…、兵たちがためらうのも無理もない話だ…。
小十郎も、さすがにこれはやりすぎだと思った。しかし、言われた通りにやらないと、兵たちは命令に反した事になりこれは明らかな命令違反となり、ここにいる者たちが厳しい処罰を受ける事になる。だが、政宗がこの様な仕打ちを行なった事が、世に知れ渡ってしまえば、決して良い結果とならない事も目に見えている。
小十郎は覚悟を決めた。そして兵達を集めた。
「皆よく聞け、亡くなった二本松の者たちは、義継殿を含め、全員丁寧に葬ってくれ」
「しかし殿は、野ざらしにしろと…」
「殿には嘘や隠し事は通用しない。私が命令したと正直に話す。其方たちには害が及ばぬようにいたすから、安心してくれ」
兵たちは、全員を丁寧に葬った。この事は小十郎が政宗に報告するより早く、城の内外に噂として流れた。当然、政宗の耳にもすぐに入り、命令を無視されたとして怒り心頭だった。
「小十郎のやつ、断りもなく勝手な真似をしおって。誰か小十郎を今すぐここに連れてこい」
小十郎は神妙な面持ちで政宗のところへ向かった。
政宗は小十郎がやってきたのを見て
「小十郎、貴様いったいどういうつもり…」
すると突然、政宗が言いかけている間を割って入る声があった。
「いや、さすがは殿でござる。あのような憎き者たちにでさえ慈悲を与えるその心の広さ。爺は感服いたしました」
突然現れたのは、左月斎だった。
左月斎は、二人の事を構うことなく一方的に話を続けた。
「殿は、あの憎き義継でさえ慈悲の心をもって丁寧に葬ってやったと聞いております。拙者などは憎さのあまり何をするかわかりませぬが、さすがは殿。我々下の者共とは器の大きさが違いますな。領内は今その噂で持ちきりですぞ」
政宗は小十郎をちらりと見てから
「お、おぉ、そ、そうか」とだけ言って、すぐに目を戻した。
「して、殿は小十郎殿に何か?」
「父上を城まで運んでくれた事を労うつもりで呼んだのじゃ」
「なるほど、そうでありましたか」
そして政宗は「小十郎」と言うと
「ははっ」
小十郎が政宗の前に進み出てひれ伏した。
「片倉景綱よ、先の二本松が起こした一件での後始末、大儀であった。この後もやらねばならぬ事が多く控えておる。一時ゆっくり体を休めて次に備えよ」
「ははっ、恐悦至極に存じます。この片倉景綱、この先も伊達家のため、身を粉にして働くことを、お誓い申し上げます」
「うむ、もう下がってよいぞ」
そう言い終えると、政宗も奥に消えた。
小十郎は呆気にとられていた。
「左月斎殿、これはいったい…」
「はっはっは、うまくいきましたな。実は、何やら騒がしい風が吹いてきましたので、黒脛巾組を使って調べさせておりました。そこで最初に掴んだ情報が、輝宗様が亡くなられたという信じ難い報せでした。そしてすぐに追って入ってきたのが、殿が義継の遺体をはり付けの上、野ざらしにせよと兵に下知したが、小十郎殿が止めさせたとの報せであります」
「そうですか、左月斎殿は既にご存知でしたか…」
「しかしこのままでは殿の怒りを買い、命令違反として罰せられると思いましたので、出過ぎた事ではありましたが、黒脛巾組を使って城の内外に先ほど申したような噂を流したまでにございます」
「なるほど、いつもかたじけない」
「いやいや、伊達家にとっては片倉殿がいなくなると痛手ですから」
小十郎は、左月斎に感謝の意を表しつつも、左月斎の怖さを垣間見たような気がした。
一方政宗は、父の死を悲しむ間もなく、七日の喪が明けるとすぐさま父の弔い合戦という大義の下、二本松城を攻めるべく挙兵した。




