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第三章 隠されていた血脈の真実



「何勝手に決めてんだよ!」


健太が声を荒らげた。


「美咲、お前に何の権限がある!」


美咲は落ち着いたままだった。


「あるわ」


「あるわけないだろ!」


「あるの」


「佐藤さん!」


健太は社長に矛先を向けた。


「こいつに何を吹き込んだんですか!」


「何も」


「だったら言ってやってくださいよ!」


健太は胸を張った。


「母さんの遺産は俺が相続する! 俺は息子なんだから!」


佐藤は答えない。


「会社の株は母さんが百パーセント持っていた。つまり母さんが死んだ以上、それは全部俺のものになる!」


「ならないわ」


美咲だった。


「は?」


「あなたは、お義母さんの相続人じゃない」


健太が笑った。

最初は冗談だと思ったのだろう。


「何言ってんだよ」


美咲はまっすぐ健太を見た。


「あなたは、お義母さんの子供じゃないから」


梨奈の笑顔も消えた。


「……お母さん?」


健太は椅子から身を乗り出した。


「どういう意味だ」


美咲は一度だけ息を吸った。


「あなたのお父さんには、昔、交際していた女性がいた」


健太の顔が変わった。


「やめろ」


「その人との間に生まれた子供が――」


「やめろ!」


個室に怒声が響いた。

美咲は言葉を止めなかった。


「あなたよ」


静まり返った。

健太の指先が震えている。


「嘘だ」


「嘘じゃない」


「俺は母さんの息子だ!」


「育ててもらったという意味では、そうでしょうね」


「ふざけるな!」


「戸籍を確認すれば分かるわ」


健太が佐藤を見る。


「佐藤さん」


佐藤は苦しそうに目を伏せた。


「……事実です」


「お前まで」


「先代社長から聞いていました」


「親父から?」


「はい」


佐藤はゆっくりと言った。


「あなたの実母は、先代社長と交際していた女性です。事情があって育てることが難しくなり、和子さんがあなたを引き取った」


「だったら同じだろ!」


健太は叫んだ。


「母親じゃないか!」


「心情的には」


美咲が答える。


「でも法律上は違う」


健太の呼吸が荒くなる。


「養子縁組してるはずだ」


「してない」


即答だった。


「嘘だ」


「していないわ」


「そんなはず――」


「お義母さんは、何度もあなたに言ったそうよ」


健太が黙る。


「正式に親子になろうって」


その瞬間。

健太の表情から何かが消えた。

覚えているのだ。


「あんた、昔言ったんですってね」


美咲は続けた。


「『紙切れ一枚で親子になるなんて気持ち悪い』って」


「……昔の話だ」


「そうね」


「俺は子供だった!」


「二十六歳だったそうよ」


健太は黙った。

梨奈がおずおずと口を開く。


「でも……お父さんがおばあちゃんの子供じゃないなら……」


美咲は娘を見る。


「あなたも、和子さんの法定相続人ではないわ」


梨奈の顔色が変わる。


「じゃ、じゃあ誰が相続するの?」


健太が突然笑った。

乾いた笑いだった。


「そうだよ」


美咲を見る。


「誰もいないじゃないか」


その顔に少しずつ余裕が戻っていく。


「だったら遺言だろ」


「遺言?」


「そうだよ!」


健太は勢いを取り戻した。


「母さんはお前に何か遺言を残したんだろ?」


美咲は首を振った。


「遺言状なんてないわ」


「だったら!」


「必要ないもの」


健太が止まる。

美咲は静かに言った。


「だって私は――」


少しだけ間を置いた。


「お義母さんの、唯一の法定相続人だもの」


健太の口が開いたままになった。


「……は?」


美咲の前に置かれた水のグラス。

その表面は、少しも揺れていなかった。

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