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明け待つ芍薬  作者: 烏野 佐枇
6章 色の滲む環
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色の滲む環(4)

 翌日。

 この日は朝から夕方まで、千和は相も変わらずレポートの処理に悩んでいた。提出は明後日と迫っている。今日で何も進展が無ければ、向こうの部屋にいる弟を引きずりだそうと密かに考える。

 レポートの内容は難しいものではない。授業で扱った作品の中から好きなものを選び、その作品の特徴を英語で記述せよというものだ。書きたい作品は決まっている。日本語ながら、レポートしたい内容も書き上げている。だが長文になってしまったばかりに、翻訳が終わらないのである。

 英語辞典をパラパラめくっていると、脇に置いていたスマホが振動した。

 千和は微かに顔を引きつらせる。この時間にメッセージを送ってくるような相手は想像に難くない。

 小さな抵抗として薄目で見てみると、案の定だった。差し出し人は鷲田。出発時刻だけが端的に記されていた。

 大きめのため息をつきながら重い腰を上げた。これはきっと今日も護衛ではない。またあのような空間になるのならば、少し身なりにも気を使ってみるかとクローゼットを開けた。


「和泉ー!」


 着替えながら叫ぶと、和泉が奥の部屋からパタパタと駆け寄って来る。


「まさか今日も呼び出し?」


 千和の様子を一目見るなり和泉はゲッという顔をした。千和は昨日の詳細を語ってはいないが、ボディーガードの仕事ではなかったのは和泉も察しているようだった。


「そう、急にね。ていうか最近人使い荒くない? 夏休みとはいえ、レポート残ってるんだけどぉ」


 仁はその辺の事情を理解していそうだが、千和に関してのっぴきならない事態がまとわりついているのも事実だ。早いところどうにかしたいと言う彼の気持ちも分からないでもないし、放置して自分たちに危害が加わろうものなら、とんでもないことである。千和としても仕方なく妥協せざるを得ない状況である。


「ってことでごめん。今日もまた留守にする」

「うん。気を付けてね。でも明日は買い物があるから呼び出されないように言っておいてよ。ウチの冷蔵庫もピンチなんですって」

「了解。それくらいは死守しないとね」


 いってきまーすと声高に言う。先日の反省も踏まえて、レポート道具も用意した。

 しっかり戸締りをして出ると、待機していた鷲田の車に乗り込む。

 外はもう夕暮れにも近かった。遠くの山に太陽が隠れそうで、街は薄闇に包まれている。黒塗りの車はそれに紛れて静かに走る。

 今日の目的地は京月邸だった。

 しかし中には入らない。ここで待てと指示されたのは玄関にも近いロータリー。言われるがままに降ろされ、鷲田の運転する車は去って行った。

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