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明け待つ芍薬  作者: 烏野 佐枇
6章 色の滲む環
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色の滲む環(1)

「じゃあその、国内でも有数の長者モガリの加美山に狙われてるってわけ……?」


 夏の日差しを拒む室内で、和泉は神妙に繰り返した。クーラーが静かに二人を見守っている。

 仁に告げられた諸々を処理するのに一晩を要したのだ。和泉とて、千和の様子がおかしいことなどほぼ経験がなかった。どうしたものかと適度な距離を保っていたところに、彼女は自ら口を開いた。

 千和の話を聞き、和泉は見たことがないほどに険しい表情を浮かべていた。


「でも……でも大丈夫よ。仁さんがどうにかするって言ってるし、何も害はないはず。だってほら、あんたが昔変な記者に追われた時だって、ストーカーされた時だってどうにかなったし、それと同じだよ」


 災難ついでに、それぞれ過去のものとなった事件を思い出す。変な記者には付きまとわれ、ストーカー紛いの末に盗撮の罪で送検まで行ったことがある。そして高校時代に遭ったストーカーは正真正銘、辞書通りのストーカーで、二人の人生史上最悪の存在だった。家を特定されたために引っ越し、転校せざるを得なかった。

 しかしそのどれもがなんとか解決に至った。時折力技でどうにかしたこともあったが、最終的には公権力で収めた。今回に関しては仁の力がどれほど及ぶのかが未知数ではあるが、あの長者番付を信じるならば、不足なく戦えるのだろう。

 そんな千和の目算は和泉に届いたのだろうか。和泉はふぅとため息をつく。その瞳には強気な力がこもっていた。


「目をつけられちゃったんなら、もうどうしようもない。……やるしかないよ」

「はは、いつも目つけられてる側の覚悟は段違いですわ」

「嬉しくないな、その講評。……後は仁さんに頼るしか……でも千和に何かあったら、俺だって黙ってないからね」


 いつもの千和みたいに、と形のいい眉を潜める。いつになく気概を込める和泉に千和はふっと笑って言い返した。


「じゃあいざという時のために稽古つけてあげるよ」

「うっ……それはまた話が違ってくるかも」


 フィジカルの強さは千和に分があり、頭脳は和泉に分がある。潜在する力が見事に分散されている様は双子らしいとも言える。まるでお互いを補い合えるよう、生まれながらにして決められていたかのようだった。その反面で二人に平等に与えられた美貌。天はそれぞれに二物を与えたのだった。


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